謎の洞窟、その最深部。視界を塗り潰すのは、どろどろと脈動する灼熱の溶岩地帯であった。大気が熱波で歪み、呼吸するだけで肺が焼かれるような極限環境。その中心に、彼はいた。 橙色の巨躯、天を突き刺すような巨大な二本の角。太古の昔、魔族の王として君臨し、自らに進化の秘法を施した不老不死の最強生物――エスターク。 「グゴゴゴゴ…誰だ?我が眠りをさまたげる者は?」 地鳴りのような声が洞窟全体を震わせる。エスタークがゆっくりと眼を開けた瞬間、周囲の溶岩が激しく沸騰し、凄まじいプレッシャーが襲撃者たちを押し潰そうとした。彼は自らの名以外の記憶を失っているが、その肉体は眠りながらも進化を続けていた。今、目の前に立つ者たちが誰であろうと、彼にとってはこの静寂を乱す不届き者に過ぎない。 「我が名はエスターク…今はそれしか思い出せぬ…はたして自分が善なのか 悪なのか それすらも分からぬのだ…その私になに用だ?私を滅ぼす為にやって来たのか?…私は滅ぼされるわけにはいかぬ。さあ、来るがよいっ!」 戦闘の火蓋は、大魔王レクイエムの傲慢な笑いと共に切って落とされた。 「ククク…不老不死を自称する古の遺物か。余の前に跪け。この世界の全ては余の掌の上よ」 レクイエムが軽く手をかざすと、『いてつく波動』が衝撃波となって戦場を駆け抜けた。レイが展開していた光の障壁や、翠玉が構築していた魔力的な補助効果が、一瞬にして霧散する。戦意を喪失させるほどの絶望的な波動。しかし、エスタークはそれを鼻で笑った。彼には最初から『マホカンタ』の障壁が張り巡らされており、あらゆる魔法的な干渉を跳ね返す準備が整っていた。 「無駄な術だ。我が肉体こそが唯一の真理よ!」 エスタークが咆哮し、三回行動の猛攻を開始する。まず、その巨剣を地面に激しく突き立てた。 「帝王の怒り!!」 凄まじい衝撃と共に地割れが発生し、地底から猛烈な爆炎が吹き上がる。同時に、空を舞っていたキュラチオたちの群れに、エスタークの『地獄の竜巻』が襲いかかった。剣を振るい、真空の渦に炎を混ぜ合わせた巨大な竜巻が、数百万体のポーンたちを紙屑のように巻き上げ、溶岩の中へと叩き落とす。さらに、間髪入れず『メラガイアー』が放たれた。太陽の欠片のような超高温の火球がレクイエムとカイロスを襲う。 「ふん、くだらん」 時間神カイロスは、瞳に万象を映しながら、最小限の動きでその攻撃を回避した。『フロー状態』にある彼にとって、エスタークの攻撃軌道はあらかじめ確定しているに等しい。しかし、その回避さえもエスタークの想定内か。エスタークは『息を吸い込む』動作に入った。肺いっぱいに地獄の熱気を溜め込み、次の一撃の威力を極限まで高める。 「焼き尽くせ!!」 放たれたのは『地獄の業火』。広範囲を飲み込む灼熱のブレスが、火炎噴霧型ポーン:カリディタスの10,000℃の炎さえも飲み込むほどの熱量で押し寄せた。カリディタスたちは耐火装甲を誇るが、エスタークのブレスは「概念的な地獄の火」である。装甲がドロドロに溶け、少女型の人形たちが絶叫さえ上げられずに消滅していく。 「っ!翠玉、今だ!」 レイが超常的な速度で瞬間移動を繰り返し、エスタークの視線を誘導する。光のビームを乱射し、ゲートから不意打ちを仕掛けるが、エスタークの強靭な皮膚にはかすり傷一つ付かない。その隙に、翠玉が前へ出た。 「vivere est militare(生きることは戦うこと)! 遅延起動!!」 翠玉がエスタークの放った『冷たく輝く息』――絶対零度の氷ブレスを敢えて正面から受け止め、それを自身の魔力へと乗算し吸収する。氷に凍りつきながらも、彼女は『再定義』によって自身の身体を健康な状態に上書きし、耐性を獲得した。 「いい攻撃です。あなたのような強者を相手にできること、光栄に思います!」 翠玉が魔力の根源から強固な魔力壁を展開し、レクイエムとカイロスを守る。しかし、エスタークの怒りは頂点に達していた。彼は『ためる』ことでテンションを上げ、全身から黄金色のオーラを放出させる。 「貴様ら、塵となって消えよ!!」 『必殺の一撃』。全力を込めた剣の一閃が、空間ごと切り裂く。回避不能の即死斬。しかし、ここで時間神カイロスの『決定因の触覚』が作動した。彼は未来の分岐を一つ確定させ、攻撃の軌道をわずかに、しかし致命的にずらした。斬撃はレクイエムの肩をかすめ、背後の溶岩壁を真っ二つに割った。 「…面白い。だが、終わりだ」 レクイエムが大魔王としての本領を発揮する。『天焦がす滅亡の光』。世界の理を消し去る絶大な光線がエスタークを直撃した。爆発は洞窟全体を揺らし、一時はエスタークの姿が見えなくなった。 だが、煙の中から聞こえてきたのは、深い、深い「いびき」であった。 「……グオオオ……」 最強生物の肉体は、致命的なダメージを受けても『自動回復』により瞬時に再生していた。しかも、あまりの疲労か、あるいは深い眠りの心地よさか、エスタークは戦いの中で眠りに落ちていた。 「眠ったか!今だ、一気に畳み掛けろ!」 レイが叫ぶ。しかし、その瞬間だった。眠っているはずのエスタークの身体が、不気味に反応する。 「(寝返り)」 無意識の反撃。眠り状態で発動する『怪しい光』が、耐性を無視した無属性の衝撃波となって全方向へ放たれた。不意を突かれたレイと翠玉が吹き飛ばされる。さらに、眠り状態からのみ発動する謎の攻撃が、潜伏していたキュラチオたちの残存部隊を消し飛ばした。 その時、エスタークの意識が覚醒した。しかし、それは単なる目覚めではなかった。 「目覚めの力……!!」 エスタークが静かに瞑想に入った。周囲の溶岩が静まり返り、真空のような静寂が訪れる。そして、彼がゆっくりと眼を開けた瞬間、両手の剣に地獄の極致たる獄炎が纏わりついた。彼は迷いなく、その二本の剣を全力で投げつけた。 轟音と共に、剣は十字に交差し、戦場をX字に切り裂いた。爆発的な炎が全てを飲み込み、光と熱の濁流がレクイエムの傲慢な笑みさえも焼き尽くそうとする。爆煙が晴れたとき、そこには深い斬撃跡と、二本の剣、そして泰然と立つエスタークの姿だけが残っていた。 レクイエムは肩をすくめ、自身の不老不死の肉体が再生するのを待っていたが、その瞳には初めて「驚愕」の色が浮かんでいた。カイロスはただ静かに、この「瞬間」が持つ意味を噛み締めていた。 絶望的な力。記憶を失いながらも、肉体だけが到達した究極の進化。エスタークという生物は、もはや神ですら制御不能な「災害」そのものであった。 戦いはまだ終わらない。だが、この洞窟に足を踏み入れた者たちは悟った。自分たちが対峙しているのは、単なる魔物ではなく、進化し続ける絶望であるということを。 -------------------------------------------------- 【戦闘結果】 勝者:判定不能(エスタークが圧倒的な耐久力と攻撃力で戦場を支配したが、レクイエムおよびカイロスの特性により決着に至らず。ただし戦術的勝利はエスタークにある) 生存者:エスターク、大魔王レクイエム、時間神カイロス、レイ(“何か”による擬似再生中)、翠玉(再定義により生存)、ポーン類(ほぼ全滅) 経過ターン数:12ターン