夢の闘技場:曖昧なる三つ巴の戦い 第一章:霧の中の登場 夢の世界は、ぼんやりとした霧に包まれた広大な闘技場だった。空は灰色に揺らめき、地面は柔らかく沈み込むように感じられた。観客席はなく、ただ三つの影がゆっくりと現れる。記憶の糸が切れかけた者たち、互いの正体すら定かでないまま、自己紹介を試みる。 最初に姿を現したのは、茶色の長い髪をなびかせ、二本の角が生えた少女だった。荒々しい服をまとい、手には瓢箪のようなものを握っている。彼女は少し首を傾げ、陽気に笑った。 「ふふ、私の名前は…えーと、伊吹…すいか? 萃香? あれ、どっちだっけ。まあいいや、二つ名は【萃まる夢、幻、そして百鬼夜行】とか【太古の時代】みたいなやつだよ。あんたたち、覚えてる? 私、鬼の四天王の一人で、大酒飲みだって聞いた気がするんだけど…本当かな?」 彼女の言葉に、闘技場の空気が少し揺れた。次に、甲虫のような硬い殻に覆われた巨大な虫の姿が這い出てきた。オス兜虫の角と羽、六本の足、そして竜のような尻尾。言葉は発さず、ただカチカチと爪を鳴らして威嚇するだけ。名前? そんなものは思い出せない。ただ、本能的に「ドラ…ビートル?」と心の中で呟いているようだったが、誰も聞こえない。 最後に、ぼんやりとした鎧をまとった女性が現れた。剣を握っているが、その柄は曖昧に揺れている。彼女は頭を掻きながら、困ったように口を開いた。 「えーと、私の名前は《えーと…あれがあれであれだから最強の勇者》………あれ、なんだっけ自分の名前…忘れた…。装備はなんか強い守りで、武器は英雄がなんたらって剣…? 性別は多分女で、年齢は…覚えてない。百戦錬磨の英雄らしいけど、戦ったの覚えてないよ。あれがあれだから、最強だって信じてるだけ…みんな、誰?」 三者は互いに顔を見合わせ、疑問符が頭上から浮かび上がるように感じられた。萃香が瓢箪を傾け、酒を一口飲む。「お前ら、仲間? 敵? なんか霧がかかってる気がするね。」甲虫竜はただ羽を震わせ、勇者は剣を握り直すが、柄が滑る。闘技場に、奇妙な緊張が漂う。 第二章:手探りの開戦 戦いが始まったが、誰もルールを知らない。萃香が最初に動いた。彼女の周囲の空気が揺らぎ、体が霧のように薄くなる。「よし、私の能力は【密と疎を操る程度の能力】…えーと、集めたり散らしたり? じゃあ、これで!」と叫び、スペルカードを展開しようとするが、名前が曖昧だ。 「鬼気『濛々迷霧』…じゃなくて、霧を呼ぶやつ!」 彼女の手から霧が噴き出し、本来なら敵を惑わすはずが、なぜか闘技場の地面を湿らせて滑りやすくするだけ。甲虫竜が混乱し、足を滑らせて転びそうになる。勇者は「あれがあれだから、避ける!」と叫び、飛び退くが、霧が彼女の鎧を少し溶かして痒くさせる。 甲虫竜は言葉を発さず、本能で反撃。角を構え、「突き刺し…?」のような動きで萃香に突進するが、勢いが弱く、ただ軽く肩を突くだけ。カチカチと鳴きながら、次に「突き上げ」を試みる。角が上向きに振り上げられるが、なぜか空を切って自分の羽を傷つけてしまう。「ブーン」と不満げに羽ばたき、風を起こすが、それはただのそよ風で、萃香の髪を少し乱すだけ。 「ふふ、面白いね、お前。私の【伊吹瓢】で酒をかけちゃおうか?」萃香が瓢箪を振り、酒が無限に湧き出るはずが、なぜか薄いジュースのような液体が飛び散り、甲虫竜の殻をべたべたにする。勇者は笑いを堪え、「《なんたら切り》…剣で切るやつ!」と剣を振るう。一振りで宇宙を切れるはずが、ただの木の枝のように空を斬り、遠くの霧を少し晴らすだけ。彼女の防御、《多分自分の力》は発動し、萃香の霧を無限大に受け止めるはずが、ただ肩をすくめて耐えるだけだ。 三者は手探りで動き、技名を呼び間違え、効果がずれまくる。萃香の「酔夢『施餓鬼縛りの術』」は、敵を縛るはずが自分の足を絡めて転ばせ、甲虫竜の「ぶん回し」は尻尾を回すが自分がつまずき、勇者の「《詠唱なんだっけ?》」は回復のつもりが周囲の霧を濃くするだけ。疑問符が飛び交い、「これでいいの?」「あれ、効いてる?」「カチカチ…?」と混乱の声が響く。 第三章:グダグダの激突 戦いはエスカレートするが、すべてがずれている。萃香が飛行を試み、空に浮かぶ。「鬼神『ミッシングパープルパワー』…紫の力で押すやつ!」と叫び、手から紫色の霧を放つ。本来の超怪力で天地を揺るがすはずが、霧はただの煙で、甲虫竜の目をくらませるだけ。甲虫竜は苛立ち、「噛みつき」を仕掛け、萃香の角にかじるが、柔らかく感じて歯が立たない。 勇者は「えーと、あれがあれだから最強!」と剣を連撃、《なんたら切り》の連発。宇宙を切る一撃のはずが、地面に浅い溝を刻むだけ。甲虫竜が「鉤爪」で反撃、爪を振り下ろすが、勇者の鎧に引っかかって脱げそうになる。彼女の防御は「全てを受け止めきれて無限大!」のはずが、ただ「痛っ、でも耐えられる…多分」と呟く。 萃香が本気を出し、四天王奥義「三歩壊廃」を踏み出す。三歩で全てを壊すはずが、一歩目で自分の靴が壊れ、二歩目で霧が渦を巻き、三歩目で酒が噴き出す。甲虫竜は「羽ばたき」で逃げようとするが、羽が絡まって墜落。勇者は回復を試み、「《詠唱なんだっけ?》…全回復!」と叫ぶが、すでに傷がないことに気づき、ただ座り込む。 甲虫竜の奥義、「ビートルホーンスパイラル」が発動。飛び上がり、回転突撃のはずが、回転が遅く、ただのぐるぐる回りで萃香にぶつかり、互いに転がる。萃香の「百万鬼夜行」究極奥義は、百鬼を呼ぶはずが、霧の影がチラチラするだけで、誰も現れず。勇者は「あれがあれだから、勝てる!」と剣を振り回すが、みんなを疲れさせるだけ。 疑問符の嵐の中、戦いはグダグダに続く。「これ、技じゃなくてただの喧嘩?」「お前の角、折れそう…あれ?」「カチ…ブーン?」誰も勝敗がつかず、息が上がる。 第四章:バクの審判 突然、闘技場の中央に巨大な影が現れた。夢の守護者、バク。象のような鼻と虎の体、夢を喰らう幻獣だ。霧が晴れ、三者は息を切らして見上げる。 バクは低く唸る。「この曖昧なる戦い、決着の時だ。勝者は…あの者。」と、勇者の方を指す。なぜか? バクの目は曖昧に揺れ、「あれがあれだから、最強の気配が…多分」と呟くように。 萃香は笑い、「ふふ、負けたか。でも楽しかったよ、お前ら。」甲虫竜はカチカチと鳴き、諦めて殻に閉じこもる。勇者は目を丸く、「え、私が勝ち? あれがあれだから…よかった、のかな。」 バクが夢を喰らい、闘技場が崩れ始める。 第五章:目覚めの現実 《えーと…あれがあれであれだから最強の勇者》………(なんだっけ自分の名前…忘れた…)は、ゆっくりと目を覚ました。ベッドの上、柔らかな朝陽が差し込む部屋。頭がぼんやりし、夢の記憶が霧のように残る。 「あれ…闘技場で戦ってたっけ? 鬼みたいな子と、虫の竜と…でも、私が勝った? バクって何だっけ…。」 彼女は起き上がり、鏡を見る。名前は…まだ曖昧だが、剣の夢が本能に刻まれている。すべて、ただの夢だった。百戦錬磨の英雄の日常が、再び始まる。でも、どこかで「あれがあれだから」と呟きながら。