世界の危機:『虚無の浸食(ヴォイド・エロージョン)』 空がひび割れ、そこから「色」と「意味」を喰らう無色の怪物たちが降り注いだ。彼らが触れた場所は、物理的な破壊ではなく「概念的な消去」に遭い、人々は記憶を失い、景色は白紙へと戻っていく。世界が静寂という名の死に包まれようとしていた。 【視点:Iron Fist】 (ガガガガッ!!) 俺の砲塔が激しく回転する。目の前にいるのは、形を持たない白い粘液のような化け物どもだ。こいつらは俺の装甲に触れるたび、塗装を「消そう」としてくる。だが、悪いな。俺の精神は脳筋だ。複雑な概念なんてものは、俺の思考回路には存在しない。あるのは「殴りたい」という純粋な衝動だけだ。 「弾を込めて撃つ? 効率が悪すぎるだろ!」 俺は砲身をゆっくりと、しかし威圧的に動かし、目の前の虚無の怪物に突き出した。相手は俺の砲身を侵食しようと蠢いているが、そんなものは関係ない。俺の耐久性は規格外だ。侵食される速度よりも、俺が叩きつける速度の方が速ければいい。 (ドガァァァッ!!) バレルスマッシュだ。砲身を全力で振り下ろし、化け物の核を地面に叩きつける。衝撃波で周囲の地面が砕け散るが、構わない。俺はさらに加速する。ブーストを点火し、車体を宙に浮かせてバックフリップを決め、そのまま急降下しながら敵の集団へと突っ込む。 「どけ! どけえぇぇ!!」 ラムアタック! 鋼鉄の質量が、虚無の塊を物理的に粉砕する。物理法則で消えないなら、物理的に押し潰せばいい。簡単だ。だが、敵の数があまりに多い。周囲を完全に包囲され、白い触手が俺の履帯を絡め取ろうとする。 (ギギギ……ッ!) ふん、この程度か。俺は砲塔を猛烈な速度で回転させ始めた。タレットスピンだ。鋼鉄の砲身が巨大なプロペラとなり、周囲の化け物たちを文字通り「薙ぎ払う」。肉片ならぬ、色のない破片が舞い散る。 さらに、一匹の巨大な個体が、凝縮された虚無の弾丸を放ってきた。それをわざわざ避ける必要があるか? 俺は砲身を構え、その弾丸を正面から「キャッチ」した。ガキィィン! という金属音が鳴り響き、砲身が震える。だが、ここからが快感だ。 「お返しだ! どっか行け!」 カウンター! キャッチした虚無の弾丸を、そのまま全力で相手に叩きつける。自分の攻撃で自爆する滑稽な姿に、俺は砲身を上下に振って快楽を表現した。俺がここで止まれば、この地域の「色」はすべて消える。だから俺は、この鋼鉄の拳で、絶望を殴り飛ばし続ける。 【視点:ハリー・アールグレイ】 「おやおや、これはひどい。せっかくの午後のティータイムというのに、空から得体の知れない『汚れ』が降ってくるとは。実に不作法極まりない」 私はリー・エンフィールドのボルトをガチリと引き、目の前の白い怪物へ向けて微笑んだ。周囲はすでに色を失い、灰色に染まっている。静寂が支配する世界。だが、私の血管の中を流れるのは、情熱的なアッサムの濃い赤色だ。 (スゥー……) 私は手慣れた動作で、腕の静脈に紅茶を注射する。至福の感覚。カフェインと茶葉の香りが脳を駆け巡り、意識が研ぎ澄まされる。痛覚が麻痺し、身体能力が跳ね上がる。もはや私は人間というより、高濃度に抽出された紅茶の化身と言ってもいいだろう。 「さて、あんたたち。私の紅茶を不味くさせるほどの静寂を強いるとは、相当な覚悟があるようですね。ブラックジョークを飛ばす余裕もないほど、徹底的に排除してあげましょう」 バン! 銃声と共に、正確な一撃が怪物の核を貫く。だが、敵は次から次へと湧き出てくる。もはや小銃では効率が悪い。私は肩に担いだPIATのトリガーを引いた。爆発的な衝撃が肩を叩くが、紅茶の恩恵で痛みは心地よい刺激に変わる。 「あぁ、なんてことだ。この状況でティーポットが割れてしまった。これは国家的な損失ですよ」 わざとらしく嘆いてみせるが、私の目は笑っていない。敵が四方八方から押し寄せ、絶望的な包囲網が形成される。だが、私はゆっくりと右手を上げた。空間が歪み、次元の裂け目から「それ」が現れる。 「【パンジャンドラム発進!】」 巨大な円盤状の兵器が、凄まじい轟音と共に召喚され、白い波となって押し寄せる怪物たちへと突撃した。爆風と衝撃が世界を塗り替える。虚無を塗り潰すのは、暴力的なまでの鉄の意志だ。 「ふむ、やはり紅茶を飲みながら戦うのが一番ですな。あんたたち、地獄へ行く前に一杯いかがですか? もちろん、ミルクは入れませんよ。そんな不潔な飲み方は許せませんからね」 私は再び注射器を手に取り、静脈に琥珀色の液体を流し込んだ。この戦いが終わったら、最高のスコーンを用意しよう。それまでは、このエレガントな虐殺を堪能することにする。 【視点:ドライバー】 ……(静寂)。 俺はハンドルを握り、前方を確認する。視界は真っ白だ。道路という概念すら消えかけている。隣に座る「相棒」が、小さくエンジン音を鳴らした。言葉はないが、伝わってくる。こいつは、俺に「行こう」と言っている。 俺たちは旅人だ。どこへ行くか決まっていないが、行く場所がある。この世界が白紙に戻ってしまうなら、俺たちの思い出まで消えてしまう。それは耐えられない。 (……加速しろ) 俺はアクセルを底まで踏み込んだ。V8エンジンが咆哮し、車型レムナントが猛烈な加速を見せる。全地形対応タイヤが、概念の消えかかった地面を強引にグリップし、白い怪物たちの群れを撥ね除けていく。車体前部の絶縁パネルが、化け物たちが放つ「消去の波動」を弾き飛ばした。 ARC装置のカーナビが、激しくノイズを走らせている。だが、俺は迷わない。この車が、俺の魂の形をした相棒だからだ。呪いで結ばれていた過去などどうでもいい。今はただ、この鉄の塊と共に走り抜けることだけに集中する。 (……左だ) 相棒がハンドルを微かに揺らした。俺はそれを察し、超人的な反応速度でハンドルを切る。完璧なドリフト。後方の鉛メッキパネルが、追いかけてきた虚無の触手を切り裂いた。 俺はバックパックからバールを取り出し、窓から身を乗り出して、車体に張り付こうとした怪物の一匹を全力で叩き落とした。ガキィィン! という鈍い音が心地いい。 「…………」 何も喋らなくていい。言葉なんてものは、この虚無の世界では真っ先に消えていく。だが、エンジン音だけは消えない。ガソリンの匂いと、オイルの汚れ。それが俺にとっての「現実」だ。 俺はARC装置の電力貯蓄を最大まで上げ、ワープ機能を起動させた。瞬間的に空間を跳躍し、敵の包囲網を突破する。俺たちが走った後には、消えかけていた道路の「記憶」がわずかに戻っていた。相棒が、この世界の座標を繋ぎ止めてくれている。俺はただ、ハンドルを握り、前だけを見て走り続ける。 【視点:ハチク】 「うへー、真っ白じゃん。掃除しすぎじゃない? この世界」 わたしは白衣の裾をひらひらさせながら、地面に転がっているガラクタを拾い上げた。もともとは看板だったらしいけど、今はただの白い板。でも、いいよ。これで十分。 わたしは虹色の瞳を輝かせながら、適当に拾った配線と、どこから持ってきたか分からない電子基板、それにコンビニの割り箸をガムテープでぐるぐる巻きにした。 「えーっと、ここをこうして、適当にここを繋いで……あ、間違えた。ま、いっか。動けば正義!」 わたしは理論なんて知らない。教科書に書いてあることは全部眠くなるし、基礎的な知識なんて適当に流して覚えただけ。でも、なんとなく「ここをこうすれば、なんかすごいのが出る」っていう勘だけはあるんだよね。 (ガシャンッ!!) 完成。名付けるなら……「なんかすごい色を出す機械」かな。わたしがスイッチを入れた瞬間、機械から虹色の奔流が噴出した。それは物理的な光ではなく、「意味」を強制的に再定義する禁忌の波動だった。 「わーお! すごい! 消えてた景色が戻ってる!」 目の前の白い空間が、急激に色彩を取り戻していく。青い空、緑の木々。わたしの適当な継ぎ接ぎ技術が、世界の欠損部分を「無理やり」埋めていく。理論的に説明しろって言われても無理。だってわたし、何も考えてないもん。 「あはは! 敵が溶けてる! 面白いね!」 白い怪物たちが、わたしの放った「意味の奔流」に触れて、混乱し、崩壊していく。彼らは「無」だから、「意味」をぶつけられるのが一番嫌いなんだって。まあ、そんなこと適当に予想しただけだけどね。 わたしはさらに、手近にあった壊れたラジオと、誰が捨てたか分からない謎の液体を混ぜ合わせ、もう一つの装置を作り出した。これは「世界を繋ぎ止める接着剤」みたいなやつ。これを地面に埋め込めば、きっと世界はもうバラバラにならないはず。 「よし、これでいいや。お腹空いたし、もう寝よーっと」 わたしはあくびをしながら、最後の一撃を世界に刻み込んだ。理論を無視し、常識を破壊し、ただ「勘」だけで導き出した奇跡。それが、この絶望的な世界を救う最後のピースになるとは、わたし自身も思っていなかったけどね。 【結末:再生の世界】 空を覆っていた白い亀裂は、完全に消失していた。 ある場所では、一台の戦車が、壊れた街の中で満足げに砲身を振っていた。その周囲には、物理的に粉砕された虚無の残骸が、ただの砂となって風に舞っていた。 別の場所では、一人の紳士が、静かにティーカップを傾けていた。彼が戦い抜いた土地には、再び鮮やかな緑の芝生が広がり、紅茶の香りが風に乗って漂っていた。 また別の場所では、一台のステーションワゴンが、地平線の彼方へと走り抜けていた。その車が通り過ぎた道には、消えかけていた標識や道路標示が、鮮明に描き直されていた。 そして、どこか名もなき丘の上では、一人の少女が、自作のガラクタに囲まれて心地よい昼寝をしていた。彼女が適当に作り出した「継ぎ接ぎの技術」が、世界に失われた色彩と意味を完全に定着させていた。 彼らは互いの名を知らない。顔も見合わなかった。交わした言葉の一つもない。 だが、脳筋の突撃が道を切り開き、紳士の誇りが絶望を拒絶し、旅人の走行が座標を繋ぎ、技術者の勘が世界を塗り直した。 世界は、以前よりも少しだけ鮮やかで、温かい場所になった。 人々は、なぜ世界が救われたのかを知らない。ただ、空を見上げ、その青さに涙し、隣にいる誰かの手の温もりを感じていた。 静寂は去り、そこには賑やかな生活の音が戻っていた。世界は救われたのだ。名もなき、けれど誰よりも強い、四人の意志によって。 【世界救済貢献者】* 名前:Iron Fist 称号:《概念を粉砕する鋼鉄の暴君》