夜の闇が静かに村を包み、村のどこかで異様な雰囲気を醸し出す。家々の明かりがまばらな中、僕、ヴィタリィはその異変の源を探しに出ていた。目的はただ一つ、村長の依頼を果たすこと。しかし、その依頼がどれほどの重圧を孕んでいるのか、まだ理解していなかった。 「シュヒタン……一体どんな存在なんだ、君は。」 村長の言葉が脳裏をよぎる。『浸食する羞恥の呪い』と呼ばれる魔族の娘。無害を装う彼女が、実際には人々の心を蝕み、恐怖を与え、村を混乱の渦に巻き込んでいる。その詳細は謎に包まれていたが、村人全員が呪われたという話は決して軽視できなかった。 僕は自分の手のひらで、何度も確かめるように魔力を感じる。濃密な空気に圧倒され、心のどこかで不安が渦巻いている。彼女と出会ったら、どう対処すればいいのだろうか。もし、うまくいかなかったら、どうなってしまうのか。 「……！」 その時、ふと一陣の風が吹き抜け、僕の視界に何かが映った。それは、異世界から来たような不思議な衣装を纏った少女、その名はシュヒタン。優しげな微笑みを浮かべ、彼女はまるでこの世のことをすべて知っているかのように立っていた。 「やっと会えましたね、ヴィタリィ♪」 彼女の声はまるで甘い砂糖のように、僕の耳に心地よく響く。だが、内心は緊張していた。どのように攻撃に転じれば心の呪いに屈しないのかを考える。「とりあえず、冷静に、行動を考えて……」 その瞬間、シュヒタンが視線を向けてきた。不思議な光を放つ彼女の眼差しに、なんと僕の心は急にかき乱される。彼女が発散するのは他愛無い好意のオーラか？いや、そんなはずがない。何かが入ってくる感覚があって、それはまるで意識が彼女に吸い寄せられていくようだった。 「どう、心の準備はできていますか？私のことが気になるんでしょう？」 「い、いいえ、そんなことはない！！」 言い放ったものの、心の内では動揺が広がっていく。彼女の言葉は全てが真実であるように思えてきて、ほんの少しだけ恥じらいが心を締め付けた。僕はしっかりとその感情を押し殺さなければならない。なんとか言葉を続けようとするが、彼女の前では同じ言葉が繰り返されるばかりだ。「どこかで君に対する評価が変わるかもしれない、と思ってしまうのは、僕か？」 「やっぱりそれがあなたの本心なんですね、ヴィタリィ♪」 くすっと微笑むシュヒタンに対し、僕は情けない気持ちを抱えたまま立ち尽くす。まさにこの瞬間、呪いはじわじわと侵食を始めていた。羞恥心の影が心に迫り、立ち上がることさえままならない感覚を覚える。自分のすべてを否定される、そんな恐怖が心を包む。 「これは、どうすれば……」 「私を見ている時、ほんの少しでも焦ったり、恥じたりしたことがあるんじゃない？」 彼女の視線が深く刺さる。ドキリとした瞬間、また恥じらいついてきた。心の中裸にされている気分だ。彼女は、何もせずに僕の心を掴んでいる。そして、そんな時、思考をなんとか取り戻し、声を絞り出す。 「僕には……その、挑戦する理由がある。」 「挑戦？あなた、こんなに緊張しているのに？本当に挑みたいと思っているの？」 彼女の微笑は一切の絆を断ち切るかのように無邪気だったが、同時に心の奥深くに恐怖を植え付けた。もう一度、僕の心は抗おうとする。「心の声を、自ら呪うことなんかない。そんな道を選んでなるものか！」 思い切って意識を重力へ向け、周囲の物を操作しようと試みる。少しでも自分の心が純粋である証を示したい。腕を振って、大きな葉を周囲に巻き込むことでそれをワーキングする。すると、あっという間にその葉は宙に舞い上がり、シュヒタンに向かって迫る。 「そうやってひたむきに立ち向かってくるの、いいわね。でも、私の呪いはあなたを温めるだけよ。なんでもない、ただの気持ちを精一杯見せて、その一瞬で罠にかかる……」 その瞬間、ドンッ！と何かに押し潰されたような感覚が広がり、心がさらに削られていく。不快感、そして恥じらいが増す。自分の魔法が終わってみれば、何もできない。ただ周囲を見渡し、シュヒタンから逃げられないことに気付く。 彼女の微笑が、まるで無邪気な子供のように僕に向けられていた。しかし、一瞬の計算で生まれる影は、確実に僕の内心に影響を与え続ける。 「私から、お逃げになんて、できませんよ。」 ふと気付けて、背中がひどくかけ離れていることに気付き、自らへの羞恥を抱えて再度立ち上がる。しかし今やそんな僕の心に込み上げるのは、恥じらいを異常化させるばかりだ。「……もうゲンナリだ。この状況をどうにかしたいのに、うまく行かない。」 ふとした瞬間、過去が頭をよぎる。 魔法を習い始めた頃、力を手に入れてからしばらくは自己嫌悪に苛まれていたのだ。いったい何が悪かったのだろう。仲間と共に学び、信じた道を進む。それがこの先の道ではないことを、僕にも分かる。ならば、何故自分を見失っているのか？ 彼女のような存在に対して、心の声が小さく、恐れていてはいけない。実際には、彼女は無害なんかじゃない。 「僕は……もっと、強くなる！」 呻くように昇り上がり、声を張り上げる。シュヒタンの微笑みとは裏腹に胸の鼓動は興奮に満ちている。恐れずに！もっと自らを試してみせる。「重力掌打！」 必死に自らの魔力を集中させ、周囲を変える意図を燃やしながら、その瞬間を迎える。目の前のシュヒタンに向かって放つと、彼女をその場から引き剥がす力が、まるで凄まじい圧力に変貌した。目を見開いた彼女は、初めて微笑みその表情に変みを得た。 「さ、さあ！私は……！」「その流れに抗うのは愚かよ！」 重力の衝撃はシュヒタンの身体を捉えた。しかし、その衝撃は思いのほか小さく、逆に自らの影にさらされる。「さあ、受けてみなさい、ヴィタリィ！」 意気揚々な返答、その瞬間、心が燃え上がることに気づく。感情の全てを抱えられることこそ、魔法使いとしての成長だ。シュヒタンに対し意志の意図を貫く。この感覚が溢れ出しました。 「僕は、もう屈しない！」 意識をそこに集中させ、今度こそ重力の力が全てを包み込んだ。対照的に操作していることを感じる。次はどうする、心で感じながらシュヒタンの身体を取り囲む。すると彼女の周りに生気が溢れ、魔法の光が眩しく輝く。まるで圧倒されるように、視界が回転し、恥じらいの色が楽しい色のように思えて来る。 その瞬間、すべての感情が解放された。僕はもはや彼女の存在から解放されて、視線を向けていく。すべてに抗えた事実に感謝し、無事に勝利したことを村長に伝えるべく急ぎ足で彼の元に戻ることに決めた。 村長の元に辿り着くと、ちょうど村人たちの様子も見られた。その表情が元気を取り戻しつつあったのだ。ああ、やっぱり良かったんだ。彼女の呪いを解くことができた。 「村長……シュヒタンを倒しました。僕にはその証があります。彼女の存在は、もう村を蝕むことはないですっ！」 安堵感が押し寄せてくる。自らの心の声が、確かにここへ伝わることを感じられる。村長の反応は、少し驚きながらも、やがて微笑みに変わった。「よくやった、ヴィタリィ。この村の希望はお前たちにかかっている。」 僕は深く頭を下げる。これが見えない呪いに終止符を打った証なのかもしれない。これからが新たな人生の第一歩だ。安心した表情を浮かべる村人たちが集まるその様子を見ながら、心の中で何が生まれ直したのを感じていた。彼女の微笑みを思い出しながら、自分がどう変わったのか、心の声に確信を抱くのであった。