空は鉛色に濁り、かつての文明の残骸が骸骨のように突き刺さる絶望の世界。空気には鉄錆と、腐敗した肉が放つ甘ったるい死臭が混じり合っていた。地球を襲った謎のゾンビウィルスは、あらゆる生命を飢えた怪物へと変え、生き残った者たちから「希望」という名の贅沢を奪い去った。 人々は絶望し、逃げ惑い、そして喰われた。生き残った数少ない者たちも、終わりのない戦いに心身を摩耗させ、疲労困憊していた。 【荒廃したコロニー】 崩落した高層ビルと、錆びついたコンテナが迷路のように積み重なるエリア。そこはかつての居住区だったが、今は静寂に包まれている。だが、その静寂こそが最も危険な予兆だった。 「……チッ、数が多いな」 低い、地を這うような声が通信機から流れる。サーバルのルセルだ。彼女はRAH-66コマンチの副操縦席で、重機関砲の照準を冷徹に合わせている。その隣で、カラカルのウェナリが冷静に操縦桿を握っていた。 二人が乗り込むステルスヘリ、コマンチは静かに空を切り裂く。しかし、地上では異様な光景が広がっていた。数百、数千というゾンビの群れが、不規則な痙攣を繰り返しながら、獲物の気配を求めて徘徊している。 ゾンビたちの姿は見るに堪えない。皮膚は灰色に乾き、あちこちが剥がれ落ちて筋組織が剥き出しになっている。白濁した眼球は焦点が合わず、ただひたすら飢餓感だけが彼らを突き動かしていた。彼らは時に、人間とは思えない速度で四肢を突き出し、壁を駆け上がり、獲物を追い詰める。 「ルセル、下ろせ。一掃する」 ウェナリの短い命令と共に、コマンチの機首から対地ミサイルが火を噴いた。 ズガガガガガァァッ!! 爆炎がコロニーの一角を飲み込み、肉片と黒い血が雨のように降り注ぐ。しかし、ゾンビたちは痛みを感じない。爆風で四肢を失った個体さえも、腹部を地面に擦り付けながら、狂ったように咆哮を上げ、空に浮かぶ鉄の鳥へと手を伸ばしていた。 「無駄な足掻きね。全部消えなさい」 ルセルが重機関砲のトリガーを引く。ガガガガガッ!と空気を震わせる連射音が響き、ゾンビたちの頭部が熟した果実のように弾け飛ぶ。だが、彼らは絶え間なく押し寄せてくる。一人、また一人と倒しても、背後からさらに数倍の数が湧き出していた。 同じ頃、海岸線に近い低地では、ありえない光景が展開されていた。 海から上がり、巨大な多脚で大地を踏みしめる鉄の城――【超大和型水陸両用多脚戦艦】。その巨体は、もはや兵器ではなく、一つの「現象」だった。 ズゥゥゥン……ズゥゥゥン…… 地響きと共に歩むその巨躯に、数万のゾンビが群がっていた。彼らは鉄の城に群がり、鋭い爪で装甲を掻きむしる。しかし、自己修復ナノマテリアル概念装甲は、傷がついた瞬間に銀色の光を放ち、即座に修復していく。さらに、歪曲空間防壁がゾンビたちの接触を拒み、彼らの物理的な攻撃を燃料へと変換していた。 戦艦は喋らない。だが、そこに在るだけで、世界に対する絶対的な拒絶と、不屈の精神性を体現していた。主砲である45口径51㌢連装超重力砲がゆっくりと旋回し、地平線を埋め尽くすゾンビの海へ向けて、不可視の圧力を充填していく。 その戦艦の数キロ先、廃墟となった市街地では、一人の男が血に塗れていた。 黒瀬白虎。彼は折れた鉄パイプを片手に、押し寄せるゾンビの群れを相手にしていた。彼の周囲には、既に数十体のゾンビが事切れている。 「……しつこいな。どいつもこいつも」 白虎は冷徹に分析する。ゾンビたちの動きが、数日前よりも速くなっていることに気づいた。ウィルスは進化している。より効率的に、より残酷に、獲物を狩るために。 突如、背後から一体のゾンビが跳躍した。それは通常の個体よりも筋繊維が発達し、顎が異常に裂けた変異種だった。鋭い爪が白虎の肩を切り裂こうとした瞬間―― 「ふんッ!」 白虎の体が淡い光に包まれる。魔力を消費したパンプアップ。彼の筋肉が膨張し、皮膚の下で血管が怒張する。無敵状態への移行だ。 ガキンッ!! ゾンビの爪が白虎の腕に当たったが、金属同士がぶつかったかのような鋭い音が響き、逆にゾンビの爪が粉々に砕け散った。白虎はそのまま、空いた手でゾンビの頭部を掴み、文字通り「握り潰した」。 しかし、その時。白虎の視界に、絶望的な状況に置かれた一羽の生き物が映った。 巨大なダチョウだ。この地獄のような世界で、どうにか生き延びてきたのだろう。だが、今は数十体のゾンビに囲まれ、逃げ場を失っていた。ダチョウは必死に強力な脚でゾンビを蹴り飛ばし、100㎠当たり4.8tという凄まじい圧力で敵の胸腔を潰していく。だが、数に押され、ついに一本の脚をゾンビに深く噛みつかれた。 「……チッ、お節介だな俺は」 白虎は舌打ちしながらも、爆発的な速度で地を蹴った。無敵状態の拳が、ダチョウを囲んでいたゾンビたちをまとめて吹き飛ばす。衝撃波だけで周囲のコンクリートが砕け、ゾンビたちは肉塊となって四散した。 空からは、さらなる絶望と希望が降り立つ。 「こちらEUR-01、地上に生存反応を確認。救出作戦に移行する」 宇宙防衛の誇るパトロール艦が、次元波動超弦跳躍機関を用いて低空へ降下してきた。艦長、宮原大輔は慎重にモニターを凝視している。彼の隣では副艦長の村原が、迅速に展開計画を策定していた。 「艦長、地上のゾンビ濃度が危険域です。普通に降りれば、数分で艦底が肉の壁に覆われます」 「分かっている。まずは艦首の小型次元波動爆縮放射機で道を切り拓け。その後、陽電子収束圧縮型衝撃波砲で周辺をクリーニングする」 空から放たれた衝撃波が、地上のゾンビたちを文字通り「消滅」させた。光の奔流が通り過ぎた後には、ただの灰だけが残される。 【研究所】への道 生き残った者たちは、偶然にも、あるいは運命に導かれるように、一つの地点で合流することとなった。 空を舞うコマンチのウェナリとルセル。大地を揺らす超大和型戦艦。宇宙から降り立ったEUR-01。そして、血まみれの白虎と、彼に救われたダチョウ。 彼らの前には、重厚な鋼鉄の門で閉ざされた【研究所】が立ちはだかっていた。そこは、この悪夢を終わらせる唯一の鍵、「ワクチン」があると言われる場所だ。 だが、門の向こうから聞こえてくるのは、これまでのゾンビとは比較にならない、地鳴りのような咆哮だった。ウィルスが極限まで進化した「王」のような個体たちが、侵入者を待ち構えている。 「……行くぞ。ここで終わらせる」 ウェナリが号令をかける。超大和型戦艦が主砲を研究所の正門に向け、次元波動の光が世界を白く染め上げた。 絶望的な戦いの果てに、彼らは辿り着くのだろうか。緑が戻り、風が心地よく吹き抜ける、かつての地球へ。 (長い戦いの後、彼らはワクチンを確保し、世界に散布することに成功した。数年後。灰色の世界に、小さな、しかし力強い緑の芽が吹き始めていた。生き残った彼らは、静かに空を見上げ、失った多くの命と、それでも生き抜いた意味について、言葉なく想いを馳せていた。) 【生存状況】 ウェナリ:生存 ルセル:生存 超大和型水陸両用多脚戦艦:生存(機能維持) 宮原大輔:生存 村原大樹:生存 黒瀬白虎:生存 ダチョウ:生存