第一章:不可思議な四人、卓を囲む 次元の裂け目から降ってきた正体不明の棒人間、ジョン・ロッド。魔法の杖を抱えておどおどと佇む少女、ウチノコちゃん。ロケットランチャーを肩に担いでハイテンションに跳ね回るメイドロイド、メザン。そして、銀の鎧に身を包み、赤いマフラーをなびかせて静かに佇む巨漢の戦士、炎花。 本来ならば血で血を洗う戦いになってもおかしくない異能の者たちが、なぜか一つの麻雀卓を囲んでいた。場所は虚空に浮かぶ黄金の客間。賭け金は「それぞれの存在の根源に関わる概念的な何か」。負ければ存在が消えるかもしれない、文字通り命懸けの、しかし形式は「普通の麻雀」であった。 「えと……頑張りますぅ……。私、あまりルールに詳しくないですけど……」 ウチノコちゃんが小声で呟き、白いパーカーの袖をいじりながら牌を混ぜる。彼女の下着が水着であることは、この緊張感漂う場において唯一の、そしてあまりに不釣り合いな脱力要素だった。 「掃除の時間っすね!! 牌を混ぜるのもお掃除の一環っす! ガシャガシャ混ぜるっすよ!!」 メザンが銀髪のポニーテールを振り乱し、猛烈な勢いで牌を混ぜる。その振動で卓が激しく揺れるが、炎花は微動だにせず、ただ静かに銀の鎧の隙間から視線を送っていた。彼は口を開かず、手元のメモ帳にさらさらと文字を書き、卓に置いた。 『ルールは東風戦。点数打ち。最後までやり抜くこと。』 「…………」 ジョン・ロッドは無言だ。彼は二本の直線的な棒のような身体を組み替え、機械的な動作で座っていた。彼の正体は不明だが、その佇まいからは底知れない威圧感が漂っていた。 ゲームが始まった。最初は至って平凡な、静かな戦いだった。ツモ、打牌、そして時折混ざるポンやチー。しかし、この四人が集まった時点で、「普通」などという概念が維持されるはずもなかった。 第二章:加速するカオスと「理不尽」な鳴き 東一局。戦況が動き出したのは、メザンが不敵に笑った時だった。 「なんか、この牌じゃ上がれないっす! だから、隣の人のいい牌を借りるっす!」 メザンが突然、隣に座る炎花の捨て牌を強引に掴み取り、自分の手牌に組み込んだ。通常のルールではあり得ない「強奪鳴き」である。炎花は眉一つ動かさず、メモ帳に書いた。 『反則だ。』 しかし、この卓の審判は不在である。あるいは、この空間そのものがカオスを求めていた。メザンが強引に奪った牌でテンパイし、そして上がった。 【ハイライト1:第一回上がリ】 役名:【メイド式・強引な大掃除】(強奪鳴きを伴うリーチ・タンヤオ) 点数:8,000点 構成牌:[2万][3万][4万] [5万][6万][7万] [8万][8万] [中] 持ち点変動: ・メザン:+8,000 ・ジョン:-3,000 ・ウチノコ:-2,000 ・炎花:-3,000 「えへへ……ちょっとは約に立てたかな……あ、私じゃないけど」 ウチノコちゃんが困惑しながらも、どこか楽しそうに笑う。しかし、ここから戦いは異常な方向へ加速していく。 ジョン・ロッドが動いた。彼は牌を捨てる際、その牌を「内面破裂(ワンショット・ティア)」の衝撃波と共に叩きつけた。牌は粉砕され、物理的に消滅した。これにより、場に存在するはずの特定の牌が消え、他のプレイヤーのテンパイを物理的に不可能にするという、記憶と計算を乱す心理戦へと突入した。 「もうっ! 卑怯っす! 私もやるっす!」 メザンがロケットランチャーを卓の下で構える。爆風で牌が舞い上がり、誰の手札が誰のものか分からない混沌状態となるが、彼らはそれを「そういうルール」として受け入れ、舞い散る牌の中から必要なものをキャッチして手牌を構成し始めた。 第三章:概念を越えた役と、絶望のリーチ 中盤に差し掛かると、もはやこれは麻雀ではなく、能力合戦へと変貌していた。ウチノコちゃんが魔法の杖を振るうと、手牌の牌が光り輝き、本来の文字とは異なる形へと変貌した。そこに現れたのは、麻雀牌に存在するはずのない【特級・幸運の星】という牌だった。 「あぅ……こんなの使っちゃっていいのかな……」 その時、ジョン・ロッドがリーチをかけた。卓上の空気が一変する。彼の周囲に鋭い直線的なオーラが立ち込め、触れるものすべてを切り裂くような緊張感が場を支配した。リーチ中のジョン・ロッドは、もはや牌を打つ動作さえも「攻撃」に近い威圧感を持っていた。 炎花が静かに、しかし迅速に動いた。彼は[銀眼弐式]の速さで牌を切り出し、ジョン・ロッドのリーチに敢然と切り込む。しかし、ジョン・ロッドのスキル「理不尽な反殺(ザ・ロッド)」が発動した。 捨て牌がジョン・ロッドの手に触れた瞬間、カウンターが発動。捨てられた牌が逆流し、炎花の手牌を物理的に弾き飛ばした。同時に、ジョン・ロッドは空中に浮かぶ牌を高速移動でキャッチし、完璧な形を完成させた。 【ハイライト2:第二回上がリ】 役名:【理不尽なる直線(ロッド・ストレート)】(縦・横・斜めのすべての方向で揃った概念的な連番) 点数:32,000点(役満扱い) 構成牌:[1筒][2筒][3筒][4筒][5筒][6筒][7筒][8筒][9筒] [特:棒人間] 持ち点変動: ・ジョン:+32,000 ・メザン:-12,000 ・ウチノコ:-10,000 ・炎花:-10,000 「ぶっ飛べーーっ!!」 メザンが耐えきれず、ジョン・ロッドに向けてロケットランチャーをフルスイングした。しかし、ジョン・ロッドは二本の棒に変化して空中に回避。爆風が卓を包み込み、もはや持ち点などどうでもいいほどの惨状となった。 第四章:マイナス点と、究極の終局 ルールに基づき、誰の持ち点がマイナスになろうとも、試合は最終局まで続く。メザンの持ち点は既に底をつき、マイナス数万点に突入していた。しかし、彼女は「掃除」への情熱でそれを無視していた。 最終局。ウチノコちゃんが震える手で、最後の牌を引いた。彼女の周囲に淡い光が集まる。それは、彼女が密かに、そして必死に積み上げてきた「誰かの役に立ちたい」という願いが形になった瞬間だった。 彼女は魔法の杖を掲げ、卓上のすべての牌を浄化した。ジョン・ロッドの攻撃的なオーラも、メザンの爆発的なエネルギーも、炎花の鋭い殺気も、すべてが優しい光に包まれる。 「えと……これ、上がれるかな……」 彼女が提示したのは、この世のどのようなルールブックにも載っていない、奇想天外な役だった。 【ハイライト3:最終局・決着】 役名:【みんなで仲良くお茶会】(全員が1枚ずつ共通の牌を出し合い、最後の一枚をウチノコちゃんがツモることで成立する超協調役) 点数:100,000点(全快・全浄化) 構成牌:[平和][平和][平和] [心][心][心] [杖][杖] [星] 持ち点変動: ・ウチノコ:+100,000 ・ジョン:-33,000 ・メザン:-33,000 ・炎花:-34,000 この役の成立により、マイナスだった全員の点数がリセットされ、心地よい充足感と共にゲームは幕を閉じた。 第五章:戦い終えて 黄金の客間に、静寂が戻った。卓はボロボロで、牌の半分は消滅し、残りは光り輝いている。 ジョン・ロッドは、再び二本の棒に戻ってふわりと浮き上がった。彼は言葉を持たないが、その動きはどこか満足げであり、戦いを通じて得た刺激に満足したようだった。 メザンは、ロケットランチャーを肩に担ぎ直し、快活に笑った。 「いやー! 最高にお掃除できたっす! 物理的に卓を壊したけど、心はスッキリっすよ!!」 炎花は、静かに銀の鎧を整え、メモ帳に最後の一行を書き込んだ。 『……たまには、こういう不合理な時間も悪くない。』 そしてウチノコちゃんは、頬を赤らめて、恥ずかしそうに笑った。 「えへへ……ちょっとは約に立てたかな……。皆さん、ありがとうございましたぅ……」 彼らはそれぞれの世界へ戻るため、再び次元の裂け目へと消えていった。後に残されたのは、粉々に砕けた麻雀卓と、なぜか心地よい香りが漂う虚空だけだった。