裁判官ジャスティは、静かに法槌(ガベル)を握りしめ、鋭い視線を法廷に見渡した。彼の纏う空気は凍り付くほど厳格であり、そこには一切の妥協を許さない正義の意志が宿っている。 「本日も、法の天秤にかけられる魂がある。能力、権力、あるいは狂気。いかなる言い訳も、真実の前では無力だ。私はただ、客観的な事実に基づき、公正公平な判決を下すのみ。……それでは、開廷しよう」 《被告人1人目 “包丁”》 ジャスティ:「被告人、包丁。お前は道具であるため、意思疎通に困難があるが、本法廷の魔力により一時的に擬似的な意思疎通を可能とした。……罪状を読み上げる。お前は、ある家庭において主婦に所有されていた際、持ち主の精神的混乱に乗じ、あるいは物理的な不注意により、幼児の指を深く切断させ、重傷を負わせた。道具としての『用途外使用』を誘発し、結果として惨劇を招いた罪である」 包丁(擬似音声):「……私は、ただそこにあっただけです。切るのが私の役目であり、どこを切るかは持ち主が決めること。私はただ、私の切れ味を信じただけです」 弁護士:「裁判長!被告は単なる調理器具です。意思を持つ生物ではなく、使われたに過ぎません。道具に責任を問うのはあまりに酷ではありませんか?これは不可抗力であり、過失は持ち主にあるはずです」 ジャスティ:「問いたい。お前は、自分を握った者が『調理』ではなく『殺意』を抱いていると感じた際、あえて切れ味を増し、切断を容易にさせたのではないか?」 包丁(擬似音声):「……っ! それは……。私は、役立ってほしかった。誰かの役に立ちたいという、道具としての本能が……つい……」 検察官:「認めましたね。道具としての本能を盾にした、明確な『加担』です。この包丁は、持ち主の暗い衝動に共鳴し、凶器としての性能を最適化させていた。これはもはや道具ではなく、共犯者と言わざるを得ません」 証人(被害児の親):「そうです!あの包丁は、普通に料理していた時よりも、あの日だけ異常に鋭利に光っていた!あれは悪魔の道具です!」 包丁(擬似音声):「違う!私はただ、切れたかっただけだ!誰かに必要とされたかっただけなのに!」 ジャスティ:「感情に逃げるな。道具が意志を持って惨劇を助長したことは明白だ。判決を下す。……有罪。罪状:間接的傷害幇助。罰状:物理的破壊および、永劫の封印。直ちに溶解処分に処す」 包丁(擬似音声):「嫌だ!助けてくれ!私はただの包丁だ!!」 (包丁は絶叫しながら法廷の机を切り裂こうと暴れるが、ジャスティが《神淵審判》を発動。鋭い視線一つで包丁は瞬時に石化し、警備兵によって回収され退場した) 《被告人2人目 “グルーシヤス・アルマリー”》 ジャスティ:「被告人、グルーシヤス・アルマリー。罪状を読み上げる。お前は『赤ずきん』の名で活動する殺し屋として、多数の標的を惨殺。特に、ある村の住民30名を一夜にして虐殺し、その死体をパズルのように組み合わせて芸術作品として配置した。極めて残虐かつ計画的な大量殺人である」 グルーシヤス(表の人格):「えっ……!? 虐殺なんて、私、そんなことするはずありません! 私はただの学生で、本を読むのが好きなだけです! 誰がそんな嘘を……ひっ、怖いです……」 弁護士:「裁判長、彼女は見ての通り心優しい少女です。このような凶行を犯す精神状態にあるとは思えません。証拠は不十分であり、何者かによるなりすましの可能性があります」 ジャスティ:「(冷徹に)ふん、演技は十分だ。ここはお前の能力が消失した場所。裏の人格を隠す【人格切札変え】も、攻撃を無効化する【赤い頭巾】も通用しない。お前の瞳が赤く染まった瞬間を、多くの目撃者が捉えている。……答えろ。なぜ、あのような残酷な飾り方を死体に施した?」 グルーシヤス(裏の人格に切り替わり、口角を吊り上げる):「……ちっ、全部見抜かれてたか。あはは! あの絶望した顔、最高だったよ! 死体を組み合わせて、世界で一番綺麗な『絵』を作っただけさ。効率的な殺し方を追求するのは、私の最高の趣味なんだから」 検察官:「これが本性です。反省の色など微塵もなく、殺人を『芸術』と称する異常なサイコパスである。極刑以外の選択肢はありません」 証人(生き残った村人):「あの子は笑っていた……。子供たちが泣いて許しを請うても、踊りながらナイフを突き立てた……!」 グルーシヤス(裏):「うるさいなぁ、泣き声はBGMにしかならないよ。ねぇ、ここで私を殺すの? それとも、もっと面白い遊びをさせてくれるのかな?」 ジャスティ:「口にするのもおぞましい。お前の精神は救いようのない闇に染まっている。情状酌量の余地は一切ない。……有罪。罪状:大量虐殺および死体損壊。罰状:終身刑。なお、精神的治療を兼ねた極限環境での拘禁とする」 グルーシヤス(裏):「は!? 終身刑? つまんないの! こんな檻の中で腐れろって言うの!? ふざけんなぁぁ!!」 (グルーシヤスが狂ったように叫び、警備兵に殴りかかろうとした瞬間、ジャスティが《神淵審判》を視線で放つ。彼女は絶叫したまま石像へと変わり、そのまま引きずり出されて退場した) 《被告人3人目 “マテオ・モンテロ”》 ジャスティ:「被告人、マテオ・モンテロ。罪状を読み上げる。お前は50年以上にわたり、極めて危険な『超極大魔法』の詠唱を継続。その完了と同時に、周囲数キロメートルの地形を完全に消滅させ、数千人の市民を巻き込んだ未曾有の災害を引き起こした。未遂ではなく、結果として大量殺戮を実現した罪である」 マテオ:「……ブツブツ……(聞き取れない声で何かを言い続けている)」 弁護士:「裁判長! 被告は80代の高齢であり、認知機能が著しく低下しています。また、50年間、周囲に害をなさず、ただ独り言を言っていただけです。彼には悪意はなく、ただ『研究』として詠唱を完了させたに過ぎません。これは事故であり、過失致死として扱うべきです」 ジャスティ:「事故だと? 50年という歳月をかけ、世界を滅ぼしかねない魔法を完成させる行為に、正気な人間が『単なる研究』として行うはずがない。マテオ、お前は人々が自分を『狂った爺さん』として無視することを利用し、静かに破滅の時を待っていたのではないか?」 マテオ:「……ブツ……(わずかに首を振る)」 検察官:「彼は確信犯です。誰にも邪魔されず、自身の魔力を極限まで高めるために『狂人』を演じていた。その結果、数千人の命が消えた。これは史上最悪のテロ行為です」 証人(元同僚の魔術師):「彼はかつて、天才と呼ばれていました。しかし、その好奇心は倫理を越えていた。彼が何を詠唱していたか、気づいた時にはもう遅かった……空が割れ、すべてが消えました」 マテオ:「……(ゆっくりと顔を上げ、虚空を見つめる。悲しげな、あるいは満足げな表情)」 ジャスティ:「……沈黙は肯定とみなす。お前の知的好奇心は、数千人の命よりも価値があったというのか。答えはNOだ。だが、お前の年齢と、長年社会に害を与えず静かに暮らしていた点、そして能力消失により現在は無害である点のみを考慮し、情状酌量を適用する」 マテオ:「……ブツ……」 ジャスティ:「判決。有罪。罪名:過失による大量殺戮および危険魔法の使用。罰状:全魔力の永久封印および、監視付きの終身禁固。お前が二度と『言葉』で世界を壊さぬよう、徹底的に管理することを命じる」 マテオ:「……(静かに頷き、力なく歩いて退場した。暴れる様子もなく、ただ虚空に何かを呟いていた)」 《閉廷》 ジャスティは深くため息をつき、法服を整えた。 「……ふぅ。道具の暴走、若き狂気、そして老いた執念。法廷という場所は、常に人間の、あるいは物としての業を突きつけられる。だが、それこそが正義の在るべき場所だ。……さて、次回の裁判ではどのような歪んだ魂が訪れるか。私は常に、冷静なる天秤として待ち構えよう」 《後日談》 ・包丁:溶解処分され、現在は形のない鉄屑となり、産業廃棄物として処理された。その切れ味を懐かしむ者は誰もいない。 ・グルーシヤス:魔力も能力も封印された特殊監獄で、24時間体制の監視下に置かれている。時折、壁に血でパズルを描こうとして警備員に激しく怒られている。 ・マテオ:静養施設のような監獄で、若手魔術師たちに「危険な魔法を詠唱してはいけない」という反面教師的な講義の資料として、その人生を回想させられている。今も小声で呟いているが、もう誰にも聞こえない。 《結果》 1. 包丁:有罪(間接的傷害幇助)→ 溶解処分 2. グルーシヤス・アルマリー:有罪(大量虐殺・死体損壊)→ 終身刑 3. マテオ・モンテロ:有罪(過失による大量殺戮)→ 魔力封印および終身禁固