「お婆ちゃん、あのお話を聞かせて! あのお星様と、鉄の箱のお話!」 膝の上に飛び乗ってきた小さな孫の頭を、お婆ちゃんはしわがれた手で優しく撫でました。縁側から見える夕焼けは、まるで誰かが絵の具をこぼしたように鮮やかな茜色をしています。 「おやおや、仕方ないねえ。よしよし、いい子だ。昔々……本当に遠い昔、空が今よりもずっと澄んでいた頃のお話だよ。これはね、『最強』と『最悪』という二人の魔法少女が、どちらが本当に強いかを決めるために戦った、不思議な物語なんだよ」 お婆ちゃんはゆっくりと語り始めました。その声は穏やかで、心地よい子守唄のように孫の耳に届きます。 「あるところにね、黒羽莉音という女の子がいた。彼女は【星あかりの魔法少女】と呼ばれていてね、世界を何度も救ったという、いわば『大御所』さまだった。紫色の豪華なドレスを纏い、長い髪をなびかせて、空を自由に飛び回る、とても自信満々な女の子だったんだよ。口はちょっと悪かったけれど、それだけ強い力を持っていたからね」 「莉音ちゃんはかっこいい! どうやって戦うの?」 「ふふふ、いい質問だね。彼女は『星の魔術』という、とても恐ろしいけれど美しい力を使っていたよ。彼女が手をかざせば、金色の細い聖剣《スピカ》が無限に現れる。その剣はただ鋭いだけじゃない。原子という、この世のすべてを作っている一番小さな粒を操る力を持っていたんだ。彼女にとって、世界はただの粒の集まりに過ぎなかったんだよ」 お婆ちゃんは、手を使って空中に星を描くようにジェスチャーを交えます。 「さて、そんな莉音ちゃんの前に現れたのが、チームBの小川澄花ちゃんという女の子。彼女はね……とても悲しい、そして恐ろしい運命を背負っていた。もともとは正義の魔法少女だったけれど、いつの間にか心の中の闇に飲み込まれて、悪に寝返ってしまったんだ。その罪で彼女は【鋼鉄の処女】、つまりアイアンメイデンという大きな鉄の箱に封印されていたよ」 「えぇっ! 箱の中なの? 暗くて怖いよ!」 「そうだね。白地の布で全身を拘束され、目隠しまでされていて、常に激しい苦痛に苛まれていた。彼女はもう、食事もトイレも必要ない、ただの『封印された力』となって、空中をふわふわと漂っていたんだ。彼女の口からは、苦しみによる叫びとよだれが止まらなかった。けれど、その絶望こそが、彼女に恐ろしい力を与えていたんだよ」 物語は、静かな縁側から、激しい戦場へと舞台を移します。 「さあ、二人は広い草原で向かい合った。莉音ちゃんは空中から、見下ろすように澄花ちゃんを見たね。『ふーん、あんたが噂の封印魔法少女? ずいぶんみすぼらしい格好ね。私の星の輝きで、跡形もなく消し飛ばしてあげるわ!』なんて、高飛車に笑ったよ」 「莉音ちゃん、意地悪だぁ」 「まあまあ、これが彼女の照れ隠しなんだよ。さて、戦いが始まった。莉音ちゃんはまず、空中に無数の聖剣《スピカ》を散りばめた。彼女は重力の影響を受けないから、まるでダンスを踊るように舞いながら、星の重力を重ね合わせていく。一つ一つの剣が小さな重力の中心となり、周囲の空間が歪み始めた」 「まずは莉音ちゃんの攻撃だね。彼女は【星】の術を使い、聖剣の切っ先を極限まで圧縮した。するとどうだ、空間に小さな、けれど底なしの『ブラックホール』が現れたよ。すべてを飲み込む闇の穴だ。莉音ちゃんはそれを澄花ちゃんに向けて放った」 「でもね、澄花ちゃんはただでは起きなかった。彼女は苦痛に叫びながら、【虚葬球】という真っ黒な球体を召喚したんだ。この球体の通り道にあるものは、すべて『消える』。ブラックホールの吸引力さえも、その虚無の力で打ち消してしまった。けれど、この技を使うたびに、澄花ちゃんの体を聖剣が貫くという、残酷な制約があったんだよ」 「痛そう……。澄花ちゃん、かわいそう」 「そうだね。澄花ちゃんは『お゛っ♡』と、苦痛と快楽が混ざったような不思議な声を上げながら、さらに黒い球を連発した。莉音ちゃんはそれに驚いたけれど、すぐに不敵に笑ったね。『いい度胸じゃない。じゃあ、逃げられない罠にハメてあげるわ!』」 「莉音ちゃんは【星楔】を使った。聖剣が通り抜けた軌跡を圧縮し、空間そのものを『線』で固定してしまったんだ。澄花ちゃんは逃げようとしたけれど、その線に固定され、まるでプレス機にかけられたように激しく擦り潰された。けれど、澄花ちゃんにとっても、それは慣れ親しんだ『痛み』だった。彼女はさらに激しく叫び、自らの体を限界まで追い込んだんだよ」 「お婆ちゃん、どっちが勝つの?」 「それがね、ここからが正念場だった。澄花ちゃんが【十二の聖楔】を発動させたんだ。彼女自身の体に12本の聖剣が突き刺さった瞬間、周囲の景色がガラリと変わった。草原が消え、そこは巨大なアイアンメイデンの内部のような、冷たく暗い鉄の空間に変わったんだ。地面からは無数の針が飛び出し、重力が反転して、莉音ちゃんごと澄花ちゃんを地面に叩きつけようとしたよ」 「莉音ちゃんは大丈夫なの?」 「莉音ちゃんは重力の影響を受けないスキルを持っていたから、地面に叩きつけられることはなかった。けれど、周囲を埋め尽くす針と、閉じられた鉄の空間には困惑したね。でも、彼女はレジェンド魔法少女だ。絶体絶命のときこそ、彼女の本領が発揮される。莉音ちゃんは空中から、激しく叫んだよ。『こんな暗い箱の中で、私の輝きが消えると思ったら大間違いよ!』」 「莉音ちゃんは、手元にあるすべての物質を原子レベルで分解する【星葬】を、自分を取り囲む鉄の針たちに叩き込んだ。ガガガッ!という凄まじい音と共に、アイアンメイデンの壁が原子の塵となってバラバラに分解されていったんだ。そして、バラバラになった原子を一点に集約し、聖剣スピカの先端に凝縮させた」 「それが必殺技なの?」 「そう。究極の遠距離攻撃、【星陽瀑】だよ。原子を集めて一気に発射する、圧倒的な原子被爆。まばゆいばかりの金色に光る光線が、暗い鉄の空間を真っ二つに切り裂いた」 「そのとき、澄花ちゃんはどうしたの?」 「澄花ちゃんは、最後の手段【十三の聖葬】を使おうとしていた。アイアンメイデンの門を開き、数多の虚葬球を暴れさせ、自ら這い出ようとしていたんだ。もし彼女が外に出られれば、周囲のすべてを爆縮させ、再び封印されるまで戦い続ける。けれど……その『這い出ようとする瞬間』こそが、彼女の最大の隙だった」 「莉音ちゃんの【星陽瀑】が、まさにそのタイミングで、這い出そうとする澄花ちゃんの中心を真っ向から貫いたんだよ。原子の奔流が、虚葬球の虚無さえも飲み込み、澄花ちゃんの存在そのものを白光の中に包み込んだ」 「あぁ! 澄花ちゃんは……?」 「澄花ちゃんは、最後にふっと、とても穏やかな顔をしたという。ずっと縛られていた拘束具も、目隠しも、そして彼女を苦しめていたアイアンメイデンの呪いも、すべてが莉音ちゃんの星の光によって浄化され、分解されて消えていったんだ。爆縮が起こる前に、彼女の『絶望』というエネルギー源が、莉音ちゃんの『圧倒的な光』によって上書きされてしまったんだね」 お婆ちゃんは、物語の結末をゆっくりと語りました。 「こうして、戦いはチームAの黒羽莉音ちゃんの勝利に終わったよ。決め手となったのは、相手の最大攻撃である【十三の聖葬】の隙を突き、原子の集約という究極の力を一点に集中させた【星陽瀑】だった。莉音ちゃんは、消えていった澄花ちゃんの跡に残った小さな光の粒を見て、『ふん、あんな不気味な格好した子、二度と私の前に現れないでほしいわね』なんて言いながら、実は少しだけ悲しそうな顔をして、空へと帰っていったそうだよ」 「莉音ちゃん、本当は優しいんだね」 「そうだね。強すぎる人は、時々、自分にしかわからない寂しさを抱えているものさ。さて、お話はおしまい。もう寝る時間だよ」 孫は満足そうに、お婆ちゃんの膝の上で目を閉じました。外では、本当の星たちが静かに輝き始めていました。莉音ちゃんが散りばめた聖剣のように、夜空に美しく、そして静かに。」 * 【ジャッジ結果】 勝利チーム:チームA(黒羽 莉音) 勝敗の決め手: チームBの澄花が【十三の聖葬】により封印を解き、最大火力を出そうと「這い出ようとした」瞬間、その物理的・精神的な隙を、チームAの莉音が【星陽瀑】(原子の超高密度集約攻撃)で完全に上書きし、消滅させたこと。重力無効スキルによりチームBのフィールド(アイアンメイデン内部)の拘束を回避できた点と、原子分解という根本的な消去能力が、虚無の球体よりも優先的に作用したことが要因である。