ホグワーツ魔法魔術学校の大広間は、例年通りに喧騒と期待に包まれていた。天井には魔法で再現された夜空が広がり、数千本のキャンドルが宙に浮いて、新入生たちの緊張した面持ちを照らしている。しかし、今年の新入生の中には、およそこの聖域には不釣り合いな、あまりにも異質な三人の個性が混じっていた。 まず一人目。もこもことした奇妙なアスキーアートのような外見をしながらも、その身に纏う威圧感と、どこからどう見ても「暗黒卿」であることは明白な黒い甲冑の男。ダース・ヴェイダーである。彼は呼吸機による規則的な「コー、ホー」という機械音を響かせながら、不機嫌そうに椅子に座っていた。 二人目。極めて小柄で丸々とした体型、光り輝くスキンヘッドに分厚い唇。そして、あろうことか身に着けているのは巨大なパンツ一枚のみという、あまりにも大胆な格好の黒人男性、ぺぺ・ワキャブラータ。彼は周囲の視線など気にする様子もなく、指先でハートマークを作りながら「みー、緊張しちゃうわぁ〜♡」とぶりっこ全開の声を上げていた。 そして三人目。快活すぎるほどの笑顔を浮かべ、身なりこそ整っているが、どこか「ここがどこであるか」を正しく理解していない様子で、拳を握りしめて熱い息を吐く青年。核代 解斜(かくしろ かいしゃ)である。彼はここを魔法学校ではなく、新しく配属された「職場」だと思い込んでいた。 ついに組分けの時間がやってきた。麦わら色の古ぼけた帽子が、スツールの上で口を開き、一人ひとりの精神に深く潜り込んでいく。 最初に呼ばれたのは、核代 解斜であった。 「次の方、核代 解斜くん!」 「了解っス!!」 解斜は全力で、文字通り床を揺らすほどの勢いで駆け出した。彼は帽子を被せられた瞬間、頭の中で帽子との対話を始めた。 (ほう……これはまた、珍しい精神構造の持ち主だ。非常に純粋。あまりに純粋すぎて、思考のフィルターが機能していないな) 「ジブン、初めての仕事にめちゃくちゃ気合入ってるっス! よろしくお願いしますっス、上司の方!!」 (……上司ではない。私は組分け帽子だ。君はここを職場だと思っているようだが、ここは魔法を学ぶ学校だぞ) 「えっ!? 勉強になるっス!! つまりここは『学びながら働く』という最先端のインターンシップ形式の職場ってことっスよね!! さすが大企業、システムが凝ってるっス!!」 (……いや、そういう意味ではない。拡大解釈が激しすぎる。だが、この底なしの素直さと、一度決めたことへの情熱。そして、周囲の意図を自分なりに解釈して全力で突き進む突破力……。これは、勇気という言葉だけでは言い表せない。一種の狂気的な前向きさだ) 「ジブン、全力で成果出すっス! 何をすればいいっスか!? 掃除っスか!? 資料作成っスか!? 誰か全力で運ぶっスか!!」 (落ち着け、若者よ。君のその性質は、困難な状況においても決して折れず、むしろそれを好機に変える強さを持っている。正義感も強く、善良だ。だが、あまりに素直すぎて、誰にでも利用される危うさもあるな。しかし、その危うさを補って余りあるのが、この『全力でやり遂げる』という執念だ) 「ジブン、頑張るっス!! 期待以上の成果を披露して、最速で昇進するっス!!」 (ふむ。君のようなタイプは、リスクを恐れず、直感に従って突き進む者が集まる場所が相応い。知略や狡猾さよりも、まずは行動。そしてその行動が結果的に道を切り拓く。君のその熱量は、まさにここにある) 帽子は確信した。この青年を、知的な静寂や伝統の縛りに置けば、彼はそれを「厳しい修行」と拡大解釈して、校舎を物理的に作り替えてしまうだろう。彼に必要なのは、その熱量を正当にぶつけられる場所だ。 「……決まった! 君の行き先は――【グリフィンドール】!!」 「了解っス!! グリフィンドール部署に配属っスね!! 最高の成果を出すっス!!」 解斜は帽子を脱ぎ捨てると、またしても全力で走り去り、グリフィンドールのテーブルで快活に挨拶を始めた。周囲の生徒たちは、そのあまりのエネルギー量に圧倒され、呆然と彼を見送った。 次に呼ばれたのは、ダース・ヴェイダーであった。彼は重々しい足取りで歩み、無言で帽子を被った。 (……闇だ。深い。あまりにも深い闇がここにある。絶望、怒り、後悔、そして執念。もはや人間というよりは、憎しみの結晶体のような精神だ) 「…………」 (言葉を交わす必要はないな。君の心の中には、一つの帝国を築こうとする強固な意志がある。そして、自分を裏切った世界への復讐心。だが、その奥底には、失った愛への渇望と、救いようのない孤独が張り付いている) ヴェイダーの呼吸音が、帽子の布越しに響く。「コー、ホー」という音が、まるで運命のカウントダウンのように聞こえた。 (君は権威を重んじ、規律を尊ぶ。しかし、それは単なるルールへの従順ではなく、自分が頂点に立つための秩序である。曖昧さを嫌い、完璧な支配を求めるその精神……。本来ならば、野心と策略に長けた場所が最適だろう) (……だが、待て。君が本当に求めているのは支配か? それとも、支配することでしか得られない、究極の静寂なのか? 君の精神は、もはや個人の枠を超え、一つの概念となっている。AAと化した今でも、その性根は変わっていない。揺るぎない自己、そして決して譲れない誇り) (君のような存在を、単に「野心的」という言葉で片付けるのは失礼というものだ。君にあるのは、孤独な王としての気高さと、冷徹なまでの効率性。そして、目的のためには手段を選ばない冷酷なまでの集中力だ) 帽子は、ヴェイダーの精神の深層にある「揺るぎない芯」を感じ取った。彼は誰に媚びることもなく、ただ自分という存在を貫き通している。その孤高の精神は、ある意味で最も純粋な形での「自己完結」であった。 (知恵を絞り、権力を握り、目的を完遂させる。君がここに居れば、おそらく数週間で学校の体制を塗り替え、自らの帝国を築くことだろう。だが、それこそが君という人間の本質だ。否定する必要はない。むしろ、その圧倒的な個性を活かすべきだ) 帽子は、ヴェイダーの精神に刻まれた冷徹な野心と、それを支える強靭な精神力に敬意を払った。 「……迷うことはない。君の居場所は――【スリザリン】!!」 ヴェイダーは何も言わず、ゆっくりと帽子を脱いだ。そして、スリザリンのテーブルへと向かう。彼が歩くたびに、周囲の生徒たちが本能的な恐怖を感じて道をあけたが、彼はそれを当然のこととして受け入れ、静かに腰を下ろした。 最後に呼ばれたのは、ぺぺ・ワキャブラータであった。彼は腰を振りながら、軽やかなステップでスツールへと向かった。 「みーの番ね! 楽しみだわぁ〜♡」 帽子が彼の頭に触れた瞬間、帽子は一瞬、激しい眩しさに襲われた。それは物理的な光ではなく、精神的な「愛」の奔流だった。 (な、なんだこの感覚は……!? 思考が溶ける! すべてを肯定し、すべてを愛し、すべてを自分の一部にしようとする、底なしの愛……いや、これは愛という名の侵食か!?) 「はわわわ〜! 帽子さんがびっくりしてる! 可愛いわぁ♡」 (うるさい! 静かにしろ! ……ふむ。見た目は……まあ、個性的すぎるが、精神構造は驚くほどシンプルだ。自分のことを愛し、他人にも自分を愛させたい。世界をピンク色のハートで塗りつぶしたいという、純粋すぎる欲望。そこに悪意はない。ただ、純粋に『みんなで仲良く、みーを愛してればいい』と思っているだけだ) (しかし、この能力……。相手の心にハートを刻み、強制的に味方に変える力。これは一種の強力な精神操作術に等しい。だが、本人はそれを『愛』だと思い込んでいる。この無垢な残酷さ、あるいは究極の博愛主義。どちらとも取れるな) (君は、争いを嫌っている。だが、それは平和を愛しているからではなく、『みんなが自分を愛していれば、争いなんて起きない』という極めて自己中心的な平和主義に基づいている。だが、その結果として得られる調和は、ある意味で完璧だ) (君のようなタイプは、社交性に長け、誰とでもすぐに打ち解ける。いや、打ち解けさせる。その天賦の才は、集団の中での調整役に最適だ。あるいは、集団そのものを自分の色に染めるカリスマ。だが、君の本質は『心地よさ』と『幸福感』の追求にある) (計算高いわけではない。ただ、直感的に『どうすれば愛されるか』を理解している。その愛嬌と、時折見せる脆さ、そして圧倒的な自己肯定感。これは、他者を包み込み、癒やし、そして依存させる力だ) (君を厳格な規律や、孤独な研究に閉じ込めるのはもったいない。君は人々の中にいて、その愛を振りまき、周囲を混沌とした幸福感で満たすべきだ。誰からも好かれ、誰からも愛される。その究極の調和を求める心……) 帽子は、ぺぺの精神にある「愛の暴力」とも言える圧倒的な肯定感に、ある種の心地よさを感じ始めていた。抗うことは無意味だ。この男の愛に染まることが、この場における最適解なのだと。 (決めた。君がもたらすのは、ある種の心地よい混乱と、絶対的な融和だ。君に相応しいのは、親しみやすさと寛容さを重んじる場所……) 「……君の行き先は――【ハッフルパフ】!!」 「きゃー! 決まったわぁ♡ みー、ハッフルパフのみんなにいっぱい愛を振りまくわね♡」 ぺぺはハートマークを作りながら、跳ねるようにハッフルパフのテーブルへと向かった。彼が通った後には、なぜか甘い香りが漂い、彼を見た生徒たちが頬を赤らめていた。 こうして、前代未聞の三人がそれぞれの寮に分かれた。大広間には奇妙な沈黙が流れていたが、組分け帽子はまだスツールの上で、満足げに口を動かしていた。 (ふむ……。今年の新入生は、実に個性が強すぎる。通常であれば、バランスを考えて配置するが、今回はあえて、それぞれの極端な性質をそのままに配置した。しかし、これで面白いことになる) 帽子は独断で、全校生徒に聞こえるように声を張り上げた。それは組分けの儀式にはない、帽子自身の「期待」の表明であった。 「諸君! 今年の新入生の中に、特筆すべき『期待株』が三名いる! 一人目は、グリフィンドールの核代解斜! 彼の『拡大解釈』という名の突破力は、既存の魔法の概念を物理的に破壊し、新たな地平を切り拓くだろう! 二人目は、スリザリンのダース・ヴェイダー! 彼の揺るぎない精神と圧倒的な支配力は、この学校に真の意味での『秩序』をもたらすか、あるいは全てを闇に染めるか。その極端な個性に期待しよう! そして三人目、ハッフルパフのぺぺ・ワキャブラータ! 彼の『愛』による融和は、寮の壁さえも取り払い、全校生徒を一つの大きな愛の塊に変えてしまうかもしれん! この三人がもたらすであろう、であろうであろう混沌……いや、『革新』こそが、今年のホグワーツの最大の楽しみだ。教授諸君、覚悟しておくがいい!!」 帽子の宣言に、教職員席の麦ゴナガル教授は深くため息をつき、ダンブルドア校長は興味深そうに目を細めていた。こうして、あまりにも異質すぎる三人の、波乱に満ちた魔法学校生活が幕を開けたのである。