空は濁った鉛色に塗りつぶされ、地平線の果てまで続くのは、乾ききった赤茶色の荒野だった。風が吹き抜けるたびに、砂塵が視界を奪い、絶望的な静寂が世界を支配している。そこへ、巨大な鋼鉄の城のような「要護衛艦」が、時速10kmという鈍重な速度で進んでいた。 横2km、縦1km、高さ0.5km。その圧倒的な質量を持つ艦のブリッジでは、二十歳の女性操縦者、フェアが明るい声を上げていた。 「みんな! ガンドルド鉱山まであと95km! ちょっと時間はかかるけど、元気に乗り切ろうね!」 彼女の天真爛漫な笑顔は、この殺風景な荒野において唯一の光のように見えた。しかし、彼女の背後に集う護衛陣は、一人として「普通」ではない者たちだった。 超大型擬人化要塞としての威容を誇る『D:DIFENS GADER』。その巨躯からは数千度の蒸気が噴き出し、周囲の空気を歪ませている。金髪の少年『シルド』は、聖盾をしっかりと握りしめ、柔和な笑みを浮かべつつもその瞳には強い意志を宿していた。寡黙な剣客『西舞』は、愛刀「影断」に手をかけ、ただ静かに前を見据えている。事象龍『ラブアリア』は、星空のような瞳で世界を慈しみ、白い少女『有珠』は、全てを内包する虚無の静寂を纏っていた。地形の専門家『フィールド・アベ・ヒロット』は、特殊な視覚で前方の地勢を解析し、そして……なぜか野球の審判服に身を包んだ『糞評審判』が、不機嫌そうに指を鳴らしていた。 彼らが対峙するのは、人類でも魔物でもない。「自然の掟」という絶対的な理だった。 「……来るわ」 ラブアリアが静かに告げた瞬間、世界が変わった。 ルールに基づき、通常の敵は一人として現れない。代わりに現れたのは、絶望的なまでの「自然の猛威」の重ね掛けだった。まず、空が裂け、【超巨大竜巻】が数十年分に相当する暴風となって艦を襲う。同時に、地底から凄まじい振動が走り、【大地震】が地表を波打たせた。さらに、雲の隙間から降り注ぐのは、岩石ほどの大きさを持つ【極低温の氷塊】の雨。そして、大気中の酸素濃度が急激に低下し、同時に猛烈な【電磁嵐】が艦の電子機器を狂わせる。極めつけに、地表からは【酸性の泥流】が噴出し、艦の底部を蝕み始めた。 計5つの天災が同時に襲い掛かる地獄絵図。時速10kmという鈍足の要護衛艦にとって、これは逃げ場のない処刑場に等しい。 「うわあああ! コントロールが効かないよ!!」 フェアが悲鳴を上げる。艦が大きく傾き、酸性の泥流が装甲を焼き、氷塊が上甲板を砕いた。 「僕が止める!」 シルドが最前線へ飛び出した。彼は聖盾を地面に叩きつけ、自身の身を挺して艦の傾きを支えようとする。氷塊が彼を襲うが、聖盾の加護が衝撃を吸収し、光へと変換していく。しかし、同時に襲い掛かる竜巻の風圧は凄まじく、彼の小さな体が木の葉のように舞いそうになる。それでも彼は諦めなかった。泥流を盾で跳ね返し、艦の底部を守り抜く。 「……邪魔だ」 西舞が動いた。彼は「迷絶」により境地へと入り、白く蝕む炎を纏った「火翼」を振るう。斬撃が空を裂き、襲い掛かる超巨大竜巻の「流れ」そのものを断ち切った。物理的な風を斬るなど不可能に近いが、彼の剣は理すら斬る。一瞬の静寂が訪れるが、すぐに電磁嵐が彼を襲う。 「ビャャャイイィィィィ!!」 突然、糞評審判が叫んだ。彼は電磁嵐の落雷に対し、全力で「ストライク」をコールした。本来なら無意味な行動だが、この審判の能力は「理不尽」そのものだ。落雷という「球」に対し、強引にアウトを判定したことで、一筋の雷が不可解な軌道で地面に突き刺さり、消滅した。 「おい! 今の判定はおかしいだろ!」とヒロットが叫ぶが、審判は冷酷に言い放つ。 「フィールド・アベ・ヒロット選手の審判への抗議により退場とします」 「はあああ!?」 ヒロットの体が強制的に空間から弾き飛ばされ、後方の安全圏まで転送された。しかし、彼は転送される直前まで地形を解析していた。彼は遠方から通信で叫ぶ。 「右前方に巨大な岩盤の亀裂がある! そこへ誘導すれば泥流を逃がせるぞ!」 しかし、自然の猛威は止まらない。さらなるハプニングが発生した。【地殻変動による巨大な突き上げ】である。地底から突き出した巨大な岩の柱が、横2kmの巨艦を真下から突き上げた。凄まじい衝撃。艦の中央部がひしゃげ、フェアが悲鳴を上げて転倒する。 「ああああ! もうダメ! 船が壊れちゃう!!」 その絶望的な状況に、ラブアリアが静かに歩み出た。彼女のドレスが風に舞い、薄桃色の髪が輝く。 「愛は、貴方の全てを許します。そして、この世界さえも包み込みましょう」 彼女が権能【万象包愛】を発動させると、艦を包み込むように淡い桃色の光の球体が出現した。それは物理的な防御壁ではなく、「拒絶」ではなく「受容」による保護。酸の泥も、氷の雨も、その光に触れた瞬間に温かな愛へと変換され、消えていった。彼女の慈愛が、自然の猛威という「怒り」を鎮めていく。 だが、それでも自然の掟は絶対だった。光の結界を突き破るほどの、天災の連鎖。空から降ってきたのは、概念的な崩壊を伴う【次元の歪み】だった。物理的な防御が通用しない、空間そのものが消滅する現象。 そこで、白い少女、有珠が目を開けた。 彼女にとって、この天災など、自分が夢見た世界の些細な揺らぎに過ぎない。彼女が権能《外焉(アウターワールド)》を展開した瞬間、艦を飲み込もうとしていた次元の歪み、そして周囲の天災すべてが「意味」を失った。嵐はただの空気の動きに、泥流はただの水に、落雷はただの光へと還元され、有珠の御前で自己否定を起こして消滅した。 「……静かになりましたね」 有珠が淡々と言った。彼女の周囲だけは、完全な静寂と虚無が支配していた。 そこに、最強の盾として君臨する『D:DIFENS GADER』が、垂直に飛び上がった。数千度の蒸気が周囲を焼き尽くし、同時にミサイル25発を空へ向けて投下する。それは敵を撃つためではなく、上空に残っていた不穏な気象の核を破壊するための精密攻撃だった。亜空間転換により、艦が受けたダメージの一部を吸収し、自己修復を開始する。彼の圧倒的なステータスと自動固定能力が、艦の構造的崩壊を無理やり食い止めた。 「よし! 今だ! 加速するよ!!」 フェアが再びレバーを握る。要護衛艦は、Dの推進力と有珠が作った空白地帯を通り、泥濘を乗り越えて突き進む。 道程は険しかった。あと数十キロのところで、最後の一撃として【超大型隕石の落下】が発生した。空を覆い尽くすほどの絶望的な質量。もはや誰がどう動いても避けられない。そんな中、西舞が静かに太刀を構えた。 「……我が真髄、篤と見よ」 彼はすべてを捨て去った境地の頂点に達していた。大上段に構えた「影断」が振り下ろされる。その一撃は、単なる物理的な斬撃ではない。時間、次元、そして「隕石が落ちてくる」という因果そのものを斬り裂く神撃――『裂天割地』。 轟音と共に、空に巨大な亀裂が入った。降り注ぐはずだった隕石は、その次元の裂け目へと吸い込まれ、別の宇宙へと追放された。空に一筋の白い線が残り、やがて静寂が戻った。 そして、要護衛艦はゆっくりと、しかし確実に、ガンドルド鉱山の門をくぐった。 * 【結果:護衛成功】 【生存・死亡・逃亡状況】 ・フェア:生存。操縦を完遂し、無事に目的地へ到達した。精神的にかなり疲弊したが、仲間たちの活躍に深く感謝している。 ・D:DIFENS GADER:生存。圧倒的な防御力と自動修復能力により、かすり傷一つなく任務を遂行。最後は蒸気で周囲を焼き尽くして正座していた。 ・シルド:生存。聖盾による絶え間ない防御で艦の底部とフェアを守り抜いた。ボロボロになりながらも、最後まで諦めなかった勇姿に全員から拍手が送られた。 ・西舞:生存。最終局面での『裂天割地』により、全滅の危機を救った。任務完了後、黙って酒を飲んでいた。 ・ラブアリア:生存。天災の「害意」を愛で包み込み、参加者の精神的な崩壊を防いだ。彼女の愛に触れたフェアは、心の底から救われたと感じている。 ・有珠:生存。外なる神としての権能により、理不尽な概念攻撃をすべて無効化した。彼女にとっては散歩のようなものだった。 ・フィールド・アベ・ヒロット:生存。途中で審判により「退場(強制転送)」させられたが、結果的に安全圏にいたため無傷。最後は不機嫌そうに機械をいじっていた。 ・糞評審判:生存。誰からも嫌われているが、本人は至って満足げに「ストライク」を連呼していた。退場させたヒロットに後で怒鳴られていた。 自然の掟は厳格であったが、それを超える個の力と、奇妙な協力関係(および理不尽な審判)によって、要護衛艦は壊滅を免れ、目的地へと辿り着いたのである。