天を突くほどの巨大な円形闘技場。そこは今、宇宙の命運と王位継承権を賭けた前代未聞の乱戦の舞台となっていた。観客席を埋め尽くす数万の群衆が、地響きのような歓声を上げている。彼らが待ち望んでいたのは、圧倒的な武力か、冷酷な支配力か、あるいは予測不能な混沌か。 「さあ、始まりました! 王位を勝ち取るのは一体誰か! 本日の対戦者は、正義の格闘家・悟空! 宇宙の帝王・フリーザ! 青春を追い求める魔法少女・アオハレ! そして……えー、林業従事者のグロ太郎さんです!」 実況の声が響き渡る中、闘技場の中心に四人が集った。 「へへっ、強そうな奴らがいっぱいだな! オラ、ワクワクすっぞ!」 悟空は道着を揺らし、不敵に笑いながら拳を突き出す。その隣では、白く滑らかな肌を持つ小柄な怪物が、不快そうに目を細めていた。 「おやおや、随分と賑やかな面々ですね。私に王の座など、当然の権利。わざわざ手間をかけさせないでいただけますか?」 フリーザは丁寧な口調ながら、その瞳には絶対的な傲慢さが宿っている。そしてその横には、金色の長髪をなびかせ、手にした酒瓶からグビグビと酒を煽る、どこか疲れ切った表情の魔法少女、アオハレが立っていた。 「あー……もう、面倒くさいわね。青春って何? 結局、酒さえあればいいのよ。さっさと終わらせて飲み直したいわ」 彼女の言葉には、32歳という年齢がもたらす深い疲弊と、失われた青春への渇望が混じっていた。そして最後の一人。血塗られた作業服に身を包み、血に染まったチェーンソーを肩に担いだ男、グロテスク グロ太郎が、ただ黙ってそこに立っていた。 観客席からは悲鳴に近いどよめきが上がる。「あの男は何だ!」「血まみれじゃないか!」「なんて残酷な殺し屋なんだ!」 しかし、当のグロ太郎は心の中で切実に願っていた。 (……帰りたい。まだ森に切りかけの杉があるのに。なんで俺がここに……) 「それでは、戦い開始!!」 合図と共に、悟空が地を蹴った。猛烈なスピードでフリーザへ襲いかかる。しかし、フリーザは指一本動かさず、それをひらりと避けた。 「おっと。そんな単純な攻撃で私に触れられると思っているのですか?」 「速えな! だが、こっからはオラの番だ!」 悟空の拳が空を切る。同時に、アオハレが酔った足取りで魔法のステッキを振り回した。 「あんたたち、うるさいわよ! ちょっとは学生時代のようなピュアな心を持ってみなさい! 『青春の魔法』!」 鮮やかな光が闘技場を包む。アオハレの狙いは、場の空気を一変させ、相手を強制的に「学生」へと変え、自らのミニチュア学校に監禁すること。その拘束力は絶大であり、一度かかれば数年は出られない。 光に飲み込まれそうになった瞬間、フリーザが冷笑した。 「ふん、小癪な真似を。私のパワーで弾き飛ばしてあげましょう」 フリーザが放った不可視の衝撃波が魔法の光を切り裂く。しかし、その衝撃の余波が、ぼーっと立っていたグロ太郎へと向かった。 「……っ!」 グロ太郎は反射的に、護身術で培った身のこなしで身をかわし、同時にチェーンソーを構えた。その動作があまりにも迅速で、かつ血塗られた外見と相まって、周囲には「凄まじい殺気を放った」ように見えた。 「ひっ! あの男、今の衝撃波を完全に読んだぞ!」「なんて恐ろしい人間だ、次は誰を切り刻むつもりだ!」 観客は恐怖に震える。しかし、グロ太郎はただ、チェーンソーのエンジンをふかしていただけだった。彼にとってこれは、単なる道具の動作確認に過ぎない。 「おー、あの人、強いっぽいな! オラも本気でいくぞ!」 悟空が叫び、金色のオーラを身に纏った。髪が逆立ち、金色に輝く。スーパーサイヤ人への変身だ! 全能力値が跳ね上がり、闘技場全体が激しく振動する。 「なっ……!? 変身しただと!? 認めん、認めんぞ! 私が、この私がこんな猿に……ッ!!」 フリーザの余裕が消えた。彼は怒りに任せ、高速の連撃を悟空に叩き込む。金色の光と白い閃光が激突し、爆風が観客席まで届く。格闘戦において、スーパーサイヤ人の悟空はフリーザを圧倒し始めた。鋭い蹴りがフリーザの腹部に突き刺さる。 「ぐはっ!! い、いまのは痛かった……いたかったぞーー!!」 「へへっ、まだまだこれからだ!」 一方、アオハレは酒が切れてきたことに気づき、焦った。彼女は最後の力を振り絞り、最大出力の魔法を放とうとする。 「もういいわ! 全員まとめて、私の学校の1年A組にぶち込んでやるわよ!!」 巨大な校門のような魔法陣が展開され、悟空とフリーザ、そしてグロ太郎を飲み込もうとする。絶体絶命の瞬間、悟空は咄嗟に判断した。 「今だ! 全員、元気を貸してくれーーーっ!!」 悟空が両手を高く掲げる。観客席の人々、そして宇宙の生命たちが、悟空の真っ直ぐな心に共鳴し、小さな光の粒となって集まってくる。巨大な光の球――『元気玉』が完成した。 「そんな大きな球をぶつけたら、この闘技場が消えてしまうでしょうが!!」 フリーザが絶叫する。アオハレの魔法陣が完成する寸前、悟空はそれを全力で投げつけた。 「いっけぇぇぇーーーっ!!」 凄まじい光の奔流が、アオハレの魔法陣ごと、そしてフリーザの防御壁を突き破って、戦場を飲み込んだ。爆発的なエネルギーがすべてを浄化し、白光に包まれる。 静寂が訪れた。煙が晴れたとき、そこには力尽きて大の字に寝転がるフリーザと、魔法の反動で気絶して酒瓶を抱きしめるアオハレ、そして……なぜか全く無傷で、チェーンソーを持って呆然と立っているグロ太郎の姿があった。 悟空は肩で息をしながら、へたり込んでいた。 「ふぅ……。やりきったぜ。……あれ? グロ太郎さん、大丈夫か?」 グロ太郎はゆっくりと悟空を見た。そして、静かに口を開いた。 「……あ、あの。もういいなら……帰っていいですか。杉、切らなきゃいけないんで」 そのあまりにも拍子抜けする言葉と、戦いの中で一度も攻撃を仕掛けなかった(ように見えた)謙虚さに、観客たちは衝撃を受けた。しかし、結果として最後まで立っていた(というか、戦意を喪失させず、物理的に消滅しなかった)のは、精神的な余裕(という名の諦め)を持っていたグロ太郎であった。 審判が宣言する。 「勝者、グロテスク グロ太郎!! 新たなる王は、林業従事者のグロ太郎さんだ!!」 会場は静まり返った後、爆発的な喝采に包まれた。人々は、血塗られた外見の裏に隠された「戦いたくない」という究極の平和主義(に見える態度)に心打たれたのである。 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王グロ太郎の治世は、歴史上最も「静かな」時代となった。彼は王位に就いたものの、政務のほとんどを信頼できる家臣に任せ、自らは王宮の庭に広大な杉の植林地を作って毎日木を切り続けた。争いを嫌い、贅沢をせず、ただ黙々と働く王の姿は、国民に「足るを知る」という教訓を与えた。 結果として、彼の治世は極めて穏やかな善政となり、国はかつてない平和を享受した。彼が「もう十分切り終えたから」と隠居し、森へ完全に帰還するまで、その治世は30年という長きにわたって続いたという。