【狂乱の公道レース:ルール遵守か、絶望の捕縛か】 ■開幕宣言と参加者の意気込み 快晴。全長5kmの一般道路。そこには、およそ「レース」とは言い難い異様な光景が広がっていた。道端には、文字通り「所狭し」と警察官たちが並んでいる。彼らの目は血走り、その手には手錠と警棒、そして絶命覚悟の執念が宿っていた。彼らの至上命題はただ一つ。「交通ルールを破った奴は、たとえ神だろうが巨大ロボットだろうが、地の果てまで追い詰めて捕まえる」ことである。 実況席では、ハイテンションすぎるお姉さんと、人生に疲れ果てた荒々しいおっさんが絶叫していた。 「さああああああ!始まりました!第1回・交通ルール厳守型(?)超次元公道レース!ルールは簡単!5km先まで走り抜けること!ただし交通ルールを破れば、あそこにいる血走った目の警察官たちに全力でボコられて捕縛されます!盛り上がっていきましょうーーー!!」 「……おい、正気か。あんな殺気立った警察が並んでる道路でレースなんて、ただの公開処刑だろ。誰がルールを守って走れるんだよ、この状況でよぉ!」 【参加者の意気込み】 ポーカーフェイス:「ふふん、運さえあればルールなんて些細なことよ。私の『役』でこのレースをジャックしてみせるわ!」(バニースーツで不敵に微笑む) イヴ(ε-ν):「……記憶を取り戻したい。そのためなら、この戦いにも意味があるはず。……頑張ります」(白い巨体を揺らし、静かに決意を固める) ASM-43-FT:「炉活性化。殲滅駆動装置稼働。最短ルートでの目標到達を最優先。障害物は排除する。始。」(機械的な音声で周囲を威圧) 《ж》愛羅:「ふふ、皆さん、ルールは守ってくださいね? 破ったら……お仕置きです」(ギターケースを背負い、おっとりとした口調で銃口を点検する) 《ж》ラフザ:「(あー、早く終わらせて家に帰って寝たい……。仕事、仕事……)」(白衣をなびかせ、死んだ魚のような目で糸を指に絡める) --- ■機体詳細 【ASM-43-FT】 三脚式車輪脚型。高さ12.7mの灰色装甲に、不気味に光る橙色のセンサー。旧時代の遺物でありながら、その堅牢さは折り紙付き。左腕に回転式弾薬供給機「ズェヴィムアート・トュエルブ」、右腕に超長距離狙撃砲「ディルヘス・トュエンティートュー」を装備。移動速度は時速37.4kmと控えめだが、その一撃は必殺である。 【ε-ν(イヴ&イーヴァ)】 全高18mの純白の自立歩行型大型兵器。量産機ε-αをベースにしたカスタム機。AI「イーヴァ」が最適解を提示し、パイロットのイヴが操る。武装は、近接用の「高振動ブレード」と、チャージに時間を要するが破壊力抜群の「レーザーキャノン」を搭載。美しくも儚い白銀の巨神である。 【ポーカーフェイス(運営提供機体:超高速・運任せギャンブル・カート)】 機体がない彼女に運営が用意したのは、アクセルペダルが「当たり・外れ」のくじ引き形式になっている、真っ赤なバニースーツ柄のオープンカー。加速するかブレーキがかかるかは運次第という、正真正銘のギャンブルマシンである。 --- ■レース本編:混沌の5キロメートル 「レディー……ゴーッ!!」 お姉さんの絶叫と共に、号砲が鳴り響いた。直後、地響きと共にASM-43-FTとε-νが猛烈な勢いで加速する。しかし、ここで最初の悲劇が起きた。 「あーっ!! ASM-43-FT、いきなり歩道を突き抜けたー! 通行人の歩行者を無視したー!!」 「当たり前だろ!あんなデカい機械が普通に走れるかよ!!」 ASM-43-FTは合理的判断に基づき、最短距離(歩道)を選択。その瞬間、道端に潜んでいた警察官たちが「獲物だ!!」と獣のような咆哮を上げて飛び出した。数十人の警察官が、全力疾走で12メートル級の機械にタックルを仕掛けるという、絶望的に効率の悪い捕縛作戦が展開される。 「敵兵、排除。効率的でない妨害である」 ASM-43-FTが右腕の狙撃砲を構えようとしたその時、空から一条の光が降り注いだ。 ドォォォン!! 「あらあら、危ないですよ。歩行者優先です」 《ж》の愛羅が、ギターケースから取り出した特製銃で、ASM-43-FTの足元に【魔弾:能力封じ】を撃ち込んだ。衝撃波と共に展開された空間により、機械の駆動系に一時的な機能停止が発生。バランスを崩したASM-43-FTが、盛大に路肩の植え込みにダイブした。 「ぎゃははは! 12メートルの鉄屑が転がったぞ!!」 一方、ポーカーフェイスは運営のクソカートで絶叫していた。 「ちょっと! なんでアクセル踏んでるのにバックするのよー!!」 「あーっと! ポーカーフェイス選手、運悪く『ハズレ』を引いて逆走開始! これは完全に交通違反です!!」 「いいタイミングね!」 白衣の女、ラフザが欠伸をしながら指を弾く。目に見えないほど細い糸が、網のように道路を覆った。瞬時に展開された【瞬九流捕縛術壱式:無能無肢】の変形版。ポーカーフェイスのカートの車輪とハンドルが、ガチガチに糸で縛り上げられ、彼女は慣性で前方に放り出された。 「ちょっと待って! 今、すり替えるから! トランプを……えいっ!」 彼女は空中でトランプを5枚掲げ、周囲に落ちていた警察官の警棒、看板、コンビニのゴミ袋、道端の石ころ、そしてラフザの白衣の裾を瞬時にすり替えた。 「役は……【カオス・フルハウス】!!」 眩い光と共に、彼女の身体能力が爆上がりする。彼女は空中でひねりを加え、ラフザの頭上を飛び越えて再びカートに飛び乗ると、強引に糸を引きちぎり、再び加速を開始した。 しかし、レースはここからさらに地獄へと突き進む。コースの中間地点、2.5km地点に、突如として「それ」が現れた。 【HFC-MCT】 全長20mの六脚型重装甲機械。ただそこにいるだけで「関わるな」というオーラを放つ絶望の塊である。しかも、この機体はレース参加者ではない。ただの「通りすがり」であり、かつ「機嫌が悪い」だけだった。 「なんだあの化け物は!!」 「解説してやるよ! あれはOMEGA軍事共同機関の掃除機みたいなもんだ! 見つけ次第全部ぶっ壊すぞ!!」 HFC-MCTが三連装狙撃砲を斉射した。凄まじい爆風が道路を真っ二つに引き裂く。参加者たちはパニックに陥った。イヴの操るε-νは、その巨体でポーカーフェイスのカートを庇うようにして遮蔽物に隠れた。 「……危ない! 逃げてください!」 「ええっ!? こんなところで親切にされるなんて、私のギャンブル人生にない展開だわ!」 だが、HFC-MCTの攻撃は止まらない。超高出力光線熱圧縮砲が充填される。逃げ場のない直線道路。警察官たちさえも「あんなの無理だろ!」と絶望して、とりあえず道路脇の溝に飛び込んで隠れた。 その時、イヴの脳裏に断片的な記憶がフラッシュバックした。白い部屋、激しい衝撃、そして誰かの叫び声。 「私は……私は、戦うために作られたんじゃない……誰かを守るために……!!」 「イヴ、出力限界を突破します。記憶の断片をエネルギーに変換。承認してください」 AIイーヴァの冷徹ながらも信頼感のある声が響く。イヴは迷わず頷いた。 「やって! オーバードライヴ・オーダー!!」 ε-νの全身から白銀の光が溢れ出し、機体が限界を超えた速度で加速。HFC-MCTの光線砲が放たれる直前、イヴは高振動ブレードを最大出力で叩きつけた。金属と金属がぶつかり合う、耳をつんざく轟音が響き渡る。不条理的装甲を持つHFC-MCTを破壊することは不可能だが、その衝撃で機体を強引に弾き飛ばし、道を開けた。 「いまよ! 行って!!」 イヴの叫びに、ポーカーフェイスは涙目でカートを全開にした。 「恩に着るわよ、白い巨人さん!!」 しかし、ゴールまで残り500メートル。そこには、最強の待ち伏せが用意されていた。 ラフザが静かに、しかし確実に【瞬九流捕縛術弐式:識絶之陣】を展開していた。直径3kmに及ぶ超巨大な法陣。その範囲に入った者は、意識を強制的に断絶され、深い眠りに落ちる。 「あ、あくびが……」 ポーカーフェイスが意識を失いかけ、ハンドルから手が離れる。カートが激しく蛇行し、センターラインを跨いだ。 「あーっと! ポーカーフェイス選手、センターライン越え! 追い越し禁止区域での車線変更! 完全にアウトです!!」 そこへ、愛羅が静かに歩み寄る。彼女の手には、因果律を逆転させる絶対の弾丸が装填されていた。 「もう終わりです。おやすみなさい」 【魔弾:絶対命中】。放たれた弾丸は、物理的な距離も、遮蔽物も、運さえも無視して、ポーカーフェイスのカートのタイヤに正確に命中し、空気を抜いた。同時に【能力封じ】が発動し、彼女の「役」による強化が完全に消失した。 「う、嘘でしょ……私の運が……負けた……?」 ガシャアアアン!! タイミングよく、待ち構えていた警察官たちが一斉に飛び出した。一人、二人、いや、数百人の警察官が、ポーカーフェイスの上に山のように重なり、彼女を完全に包囲し、手錠をかけた。 一方のイヴ(ε-ν)は、記憶を消費しすぎたため、ゴール直前で燃料切れ(および精神的な疲労)により、静かに路肩に停止した。 「……ふふ。記憶、少しだけ、戻ったかも……」 彼女はルールをほぼ守っていた(HFC-MCTに弾き飛ばされたため、意図せず車線を外れたが、それは不可抗力として警察も容認した)。警察官たちは、静かに眠る白い巨人をそのままにして、ゴールへと導いた。 そして、最後の一台。ASM-43-FTは、警察官たちにボコボコにされながらも、時速37.4kmの不変の速度で、ゆっくりと、しかし確実にゴールラインを越えた。 「……目標、到達。完。」 --- ■レース終了後:結末と順位 実況のお姉さんは、興奮のあまり気絶していた。おっさんはタバコをふかしながら、呆れた顔で結果を読み上げた。 【最終結果】 1位:ASM-43-FT 【結末】逃走成功。道中、警察官数百人にタックルされ、装甲に大量の足跡と手形がついたが、撃破不能な装甲のおかげで無傷。本人は「効率的だった」と満足げである。 2位:ε-ν(イヴ) 【結末】逃走成功。ルールを遵守し、かつ他者を救ったため、警察からも(ある種の敬意を持って)見逃された。記憶を一部取り戻し、穏やかな表情で眠っている。 3位:ポーカーフェイス 【結末】捕縛。センターライン越え、逆走、不法占用など、数え切れないほどの交通違反を犯し、愛羅とラフザの完璧な連携によって完全に無力化。現在は警察署で、自分の運のなさを嘆きながら反省文を書かされている。 【感想】 愛羅:「ふふ、いい運動になりました。ラフザさん、お疲れ様です。後で美味しいお茶でも飲みましょう」 ラフザ:「……ん。賛成。もう二度とこんな仕事、やりたくない……(即座に寝転がる)」 イヴ:「……ありがとうございます。また、どこかで」 ポーカーフェイス:「ちょっと!! 次回は絶対リベンジしてやるわよ!! 今度はもっといい役を揃えてやるんだからー!!」 こうして、道路はボロボロになり、警察官たちは疲労困憊し、参加者たちはそれぞれの結末を迎えた。一般車が再び通り始めた道路には、ただ一台の巨大な機械が、誇らしげに(?)立ち尽くしていたという。