【大陸横断狂想曲:コネチカットからLAへ】 序章:スタートラインの不協和音 コネチカット州ダリーン。大西洋の潮風が吹き抜ける海岸線に、およそ「レース」とは言い難い異様な光景が広がっていた。 一台の白い商用車。トヨタ・プロボックス。ドアには「◯EYENCE」のステッカーが誇らしげに貼られ、運転席には死んだ魚のような、しかし瞳の奥に猛烈な使命感を宿した男、操縦◯ーエンスが座っている。彼はハンドルを握りしめ、心の中で呟いた。「納期に遅れることは、死よりも恐ろしい」 その隣には、銀色に輝く究極の兵器。人型機体『Delta-00α』。操縦者のアル・クリステンは、コクピットの中で冷静にシステムチェックを行っていた。極超音速飛行ユニット【Dragoon】が鈍い光を放ち、周囲の空気を振動させている。 さらにその横には、空を切り裂く鋭いシルエットの『ハヤブサ型』。軽量化を極めたその機体は、エンジンのアイドリング音さえも鋭い悲鳴のように聞こえる。 そして、最後に現れたのがそれだった。ただの、巨大な「ダンボール箱」である。約2メートル四方の箱が、ガサガサと音を立てて移動してくる。中には全裸のビッグボスとカズヒラ・ミラーが搭乗していた。彼らは「ダンボールギア」と名付けられたこの人力戦車に乗り、阿吽の呼吸で足を踏み鳴らしている。 「ボス、正気ですか? この距離を人力のダンボールで……」 「カズ、これが究極のスニークだ。誰も我々がレースに参加しているとは思わん。それが最大の武器だ」 スターターの銃声が鳴り響いた瞬間、静寂は爆音へと変わった。 第一区間:東海岸の激走と、古都の洗礼 スタート直後、ハヤブサ型が三次元的な加速で一気に突き放し、Delta-00αがそれに追随する。プロボックスは「経費燃料」による恐ろしいまでの加速力で食らいつき、その後方でダンボールギアが猛烈な二人四脚の走法で、地面を蹴り上げていた。 【通過都市1:ペンシルベニア州 フィラデルフィア】 最初のチェックポイントは、アメリカ独立の地、フィラデルフィア。独立記念館(Independence Hall)の歴史的なレンガ造りの街並みを、異様な集団が駆け抜ける。 ここで最初の異変が起きた。プロボックスの周囲に、けたたましいサイレンが鳴り響く。パトカー三台が、納期に憑りつかれた商用車を執拗に追い始めた。 「職務質問か! だが今の俺には納期という至上命令がある!」 操縦◯ーエンスは「上司からのダウンフォース」を発動。急勾配のコーナーを物理法則を無視した速度で曲がりきり、パトカーを翻弄して振り切った。その際、路肩にいた観光客は、横を猛スピードで通り過ぎる「全裸の男二人が入ったダンボール箱」を目撃し、腰を抜かした。 【順位:1位 ハヤブサ型 / 2位 Delta-00α / 3位 プロボックス / 4位 ダンボールギア】 第二区間:中西部の荒野と、鋼の意志 フィラデルフィアを抜けた一行は、広大な中西部へと足を踏み入れる。直線距離が続くこの区間では、ハヤブサ型の軽量さとDelta-00αの加速力が冴え渡った。しかし、ここに来て「ダンボールギア」の真価が発揮される。 【通過都市2:ミズーリ州 セントルイス】 ミシシッピ川を象徴する巨大な「ゲートウェイ・アーチ」が視界に入る。観光客で賑わうアーチの麓で、順位が激しく入れ替わった。 ハヤブサ型が速度を出しすぎたため、エンジンのオーバーヒートにより一時停止を余儀なくされる。そこへ、静かに、文字通り「気配を消して」接近したのがダンボールギアだった。ビッグボスはスモーク弾を放ち、視界を遮断。混乱したハヤブサ型を抜き去ったのである。 一方、アル・クリステンは空間認識能力をフル活用し、最短ルートを算出。ターミナルアーマーを展開し、障害物をなぎ倒しながら突き進む。しかし、ここで彼を襲ったのがパトカーの追跡だった。 「チッ、効率が悪いな」 アルはΔ粒子収束螺旋砲を空に向けて放ち、衝撃波でパトカーの進路を塞ぎ、鮮やかに振り切った。 【順位:1位 Delta-00α / 2位 ダンボールギア / 3位 プロボックス / 4位 ハヤブサ型】 第三区間:砂漠の死闘と、最終決戦への加速 ルートは西へ。赤茶けた大地と果てしない地平線が続く。もはや精神力の戦いとなった。 【通過都市3:アリゾナ州 フェニックス】 灼熱の太陽が照りつけるフェニックス。ここでは砂漠の観光名所、セドナの赤い岩山を望むルートを通過する。熱波でタイヤが溶けそうな状況の中、プロボックスの「男の樹脂バンパー」と「命とガソリンのハイブリッド」が火を噴いた。 「もう限界だ……だが、まだクレームが来ている!!」 操縦◯ーエンスの精神力が極限に達し、プロボックスが白い閃光となって加速。先頭を走るDelta-00αの懐に飛び込む。そこに、全裸で走るビッグボスとミラーの「阿吽の呼吸」が猛追。ダンボールギアはもはや戦車というより、巨大な茶色の弾丸となって地を這っていた。 ここで運悪く、ダンボールギアにパトカーが遭遇。しかし、彼らは戦術的に「ただのゴミ箱」として擬態。警察官が「なんだこの大きな箱は」と立ち止まった隙に、背後から猛加速して脱出した。究極のスニークである。 終章:レドンドビーチの奇跡 カリフォルニア州、ロサンゼルス。ついにゴール地点であるレドンドビーチが見えてきた。青い海と白い砂浜。そこへ、地平線から四つの影が猛烈な勢いで突進してくる。 先頭を争うのは、Delta-00αとプロボックス。そして、信じられないことに、人力の極致に達したダンボールギアがその鼻先まで迫っていた。ハヤブサ型は機動力を活かし、空から急降下してゴールラインを狙う。 しかし、最後の一瞬。プロボックスの運転手が叫んだ。 「納期まであと0.1秒だああああ!!」 「納期とクレームのツインターボ」が最大出力に達し、プロボックスが物理的な次元を超えた加速を見せた。タイヤからは煙が上がり、車体は悲鳴を上げていたが、その意志だけは鋼よりも硬かった。 ガッシャーーーン!! 激しい音と共に、白い商用車がレドンドビーチのゴールラインをわずか数センチの差で、最初に駆け抜けた。 表彰台とインタビュー 表彰台の最上段に上がったのは、泥と油にまみれた白いプロボックスと、疲れ果てて白目を剥いた操縦◯ーエンスであった。2位にはDelta-00αのアル、3位には全裸で誇らしげに胸を張るビッグボスとミラーが並んだ。ハヤブサ型は、完走したことに満足して静かに着陸していた。 記者がマイクを向ける。 「優勝おめでとうございます! 全米を駆け抜け、最強の機体や伝説の兵士を抑えての勝利です。今の心境を教えてください!」 操縦◯ーエンスは、虚ろな目で空を見上げ、静かに答えた。 「……とりあえず、伝票を処理して、早く帰って寝たいです。あ、あと……経費でガソリン代を落とさせてください」 会場からは、そのあまりに世俗的で切実な勝利宣言に、最大級の拍手と笑いが巻き起こった。アメリカ大陸横断レースは、最強の兵器ではなく、「日本の社畜の意地」が制して幕を閉じたのである。