喫茶店Dallas、午後のゆるゆる大騒ぎ 「いらっしゃいませー! 本日のおすすめは、ぷるぷるグミ付きクリームソーダだよ。にゃー!」 緑髪ツインテールを揺らし、虹色のペンを胸ポケットに差したライムちゃんが、カウンターから元気よく手を振った。テーブルでは、金髪の巻き髪をふわりと揺らしたレモンちゃんが、学校の鞄を椅子に置いている。 「お姉ちゃん、まずは制服のリボンを直して。接客前に曲がってるよ」 「えっ、ほんと? じゃあ、虹のペンでリボンを……」 「魔法のペンで直すな! 普通に結び直して!」 レモンちゃんのツッコミに、カウンターの奥からマスターDがのんびり顔を出した。頭には魚、鼻先には丸眼鏡。もふもふの毛を揺らしながら、彼は伝票を確認する。 「二人とも、今日も元気だねえ。注文が決まったら呼んでおくれ」 「マスターD、私はクリームソーダ! グミは星形がいいにゃん!」 「私はホットミルクと、今日のケーキをお願いします」 「かしこまりました。星形グミ、ケーキは苺のショートケーキだよ」 近くの席では、黒革のジャケットを着たごついおっさんがコーヒーを飲んでいた。あごひげを撫でながら、姉妹のやりとりをじっと観察している。 「ふむ……注文ひとつにも、姉妹の性格が出るものだな」 「おじさん、今の独り言、漫画のナレーションみたい!」とライムちゃん。 「若い頃は王宮に仕えた剣士だからな。つい物事を大げさに見てしまう」 「剣士の職業病、日常会話まで壮大にするんですね」とレモンちゃんが言うと、おっさんは静かにうなずいた。 「そうだ。昨日など、トーストが焦げただけで『黒き運命の刻』とつぶやいた」 「ただの焼きすぎです!」 その間に、ライムちゃんはスマホを取り出した。 「このソシャゲ、今日から新イベントなんだよ。ログインボーナスで虹色グミがもらえるんだって! にゃー、最高!」 「食べ物のグミとゲームのグミを同じ熱量で語ってる……」とレモンちゃん。 「どっちも大切なグミだもん!」 マスターDが注文を運んできた。クリームソーダの上には星形グミが三つ、ショートケーキには小さな苺がきれいに並んでいる。 「お待たせ。クリームソーダと苺のショートケーキ、ホットミルクだよ」 「わあ、かわいい! 写真撮ってから食べよっと」 ライムちゃんがスマホを構える。画面の中では、ちょうどゲームのキャラクターが大きなケーキを掲げていた。 「現実とゲームのケーキが、画面越しに共演してる!」 「なら、こっちも共演させちゃおうかな。虹のペンで、ちっちゃな漫画の吹き出しを描いて……」 ライムちゃんがテーブルの端にペンを走らせると、描かれた吹き出しがぽんっと立体になった。中には『おいしい!』の文字。 「わっ、ほんとに出てきた!」 レモンちゃんは吹き出しを見て、少し考える。 「それなら、私の3D魔法でミニチュアの喫茶店セットを作れば、吹き出しと一緒に写真が撮れるかも」 「いいね! お願い、レモンちゃん!」 レモンちゃんは白い魔力を指先に集めた。テーブルの上に、カップや椅子までそろった小さなDallasがふわりと現れる。花びらのような光が舞い、ほんの数秒で精巧なミニチュアになった。 「できました。これなら、今日の記念写真にぴったりです」 「すごい! お姉ちゃんと妹の合作だね。✧(≖ ◡ ≖✿)✧」 「お店の中に小さいお店……。その中にも、さらに小さいお店を作れそうだな」 ごついおっさんが真剣な顔でつぶやく。 「そこまで行くと、注文の受け渡しが迷路になりますよ」とレモンちゃん。 「迷路なら、出口にケーキを置けばいい」 「解決策が食いしん坊寄り!」 みんなが笑うと、マスターDの魚も、なぜかぴくりと動いた。 「ところでマスターD、今日の売上、いい感じ?」とライムちゃん。 「おかげさまでね。みんなが楽しく過ごしてくれるのが一番だよ。あ、レモンちゃんのバイトは特例だから、学校の宿題も忘れずにね」 「はい。今日は帰ったら数学の宿題をします」 「えらい! 私は帰ったら漫画を読んで、ソシャゲのイベントをして、コスプレ衣装のデザインもして……」 「それ、いつ寝るの?」 「グミを食べながら考える!」 マスターDが小さく咳払いした。 「まあ、ここは喫茶店だからね。もし不審者の男が乗り込んで従業員に乱暴したら、俺のプリンターで超巨大ビルを創造して頭上にドカーンさ」 「平和な喫茶店の会話に、急に物騒な例えを持ち込むな!」 ごついおっさんが即座に止めた。 「マスターD、ここではコーヒーとケーキでお客様をもてなすんだ。巨大ビルの話は、せめて建築相談のときにしよう」 「そうだねえ。じゃあ、プリンターは新しいメニュー表を作るときに使おう」 「それが一番です」とレモンちゃん。 ライムちゃんはクリームソーダを飲み、星形グミをひとつ頬張った。 「んー、おいしい! 漫画みたいに、飲んだ瞬間に『うまさで空を飛ぶ』とかならないかな?」 「ここはギャグ漫画みたいな喫茶店だから、ありえないとは言い切れませんね」 「じゃあ、ちょっとだけ試してみよう!」 「試さなくていいです!」 レモンちゃんのツッコミが店内に響く。ところがその瞬間、ライムちゃんの椅子がきゅっと後ろに滑り、彼女はほんの少しだけふわりと浮いた。 「ほらー! ちょっと浮いた!」 「椅子の脚が床の溝に乗っただけだよ」とマスターD。 「夢を壊さないで、マスター!」 「現実を守ったんです!」 ごついおっさんはコーヒーカップを置き、うんうんとうなずいた。 「平和とは、こういうことだな。誰も戦わず、誰も勝敗を気にせず、ただケーキを食べて笑う」 「おじさん、今日の独り言、いい感じ!」とライムちゃん。 「では、締めにもう一杯コーヒーを頼もう」 「かしこまりました。お会計は最後にまとめておきますね」とマスターD。 姉妹は写真を撮り、ミニチュアのDallasを眺めながらケーキを食べた。ライムちゃんは漫画の新刊の話をし、レモンちゃんは学校の文化祭で披露する魔法演出の案を話す。ごついおっさんはときどき大げさな独り言を挟み、マスターDは穏やかに相づちを打った。 やがて、窓から夕方の光が差し込む。 「そろそろ帰ろうか。レモンちゃん、宿題が待ってるよ」 「はい。お姉ちゃんも夜更かししないでね」 「努力はするにゃん!」 「努力じゃなくて、ちゃんと寝てください」 「はーい!」 二人はマスターDとごついおっさんに手を振り、喫茶店Dallasを出た。店の中には、コーヒーの香りと、今日も楽しかったねという笑い声が残った。 - 注文内容: ライムちゃん:クリームソーダ(星形グミ付き)/レモンちゃん:ホットミルク、苺のショートケーキ/ごついおっさん:コーヒー2杯 - 支払金額(円): 2,700円(クリームソーダ650円、ホットミルク450円、苺のショートケーキ550円、コーヒー2杯・各525円)