迷い込んだ白黒の世界 七宮莉子は、ミステリー研究部の活動で訪れた古い廃墟の図書室で、埃まみれの古書に触れた瞬間、奇妙な感覚に襲われた。サイコメトリーの能力が発動し、指先から冷たい残留思念が流れ込む。眼鏡の奥の視界がぼやけ、極度の近眼がさらに世界を歪める中、彼女は周囲の空気が一変するのを感じた。色が剥ぎ取られ、すべてが白黒の陰影に塗り替えられる。隣にいたはずの部員の姿はなく、代わりに見知らぬ足音が響く。 「ここは……一体、何なのですか?」莉子は丁寧な口調で呟き、姫カットの藤色の髪をそっと押さえた。ブラウスとスカートの裾が、風のない空気で揺れる。無人の田舎道が広がり、足元のアスファルトはひび割れ、遠くから見知らぬ童謡が微かに聞こえてくる。『かえるのうた』のようなメロディーだが、音程が微妙にずれ、耳にねっとりと絡みつく。蛙の鳴声が混じり、鴉の鳴き声が重なり、徐々に頭痛を誘う。 突然、道の先に青い閃光が走った。青雷ネガ、名門の雷魔術師の少尉が、現実と異なる次元から引きずり込まれたかのように現れる。彼の周囲を20枚の合金盾――浮花が自在に旋回し、電磁バリアを張っている。戦争の英雄になるはずの戦場が、こんな不気味な場所に変わるなど、信じがたい。「これは幻術か? 敵の罠だな!」ネガは鋭い視線を巡らせ、感覚拡張で周囲の電位と電磁波を把握する。体が痺れるようなスタンの予感はないが、警戒を解かない。 二人は互いに視線を交わし、言葉を交わす間もなく、状況を理解した。莉子は地面の石に触れ、残留思念を読み取る。『この道は、迷い人を飲み込む。戻るか、進むか……選択が命運を分ける』。彼女の推理力が高まる中、ネガは浮花を展開し、防御を固める。「進むしかない。英雄の道に退く選択はない!」 道は不規則に分岐し、最初の選択を迫る。【マンホール】が現れ、蓋の隙間から泣き声が聞こえてくる。莉子が近づき、蓋に触れる。思念が閃く――『中は闇の渦、進む者は戻れぬ』。「お勧めしませんわ。危険です」と莉子が警告するが、ネガは好奇心から蓋を浮花でこじ開ける。「泣き声の正体を見極める!」中を覗くと、⚠️の警告が脳裏に焼き付き、ネガの体が引き込まれるように震える。もう戻れない感覚が彼を襲うが、電磁バリアで辛うじて踏みとどまる。脱落は免れたが、道はさらに歪む。 次に【交差点】が出現。引き返すことを思った瞬間、十字路が突如現れ、高速で車が往来する。白黒の幻影か現実か、ネガの感覚拡張が車の電磁波を捉える。「罠だ! 避けろ!」彼は浮花を盾に莉子を押し退け、帯電体術で反応速度を上げて横に飛び込む。莉子も眼鏡を押し上げ、直感で身を翻すが、極度の近眼で足元が見えず、転びそうになる。童謡のメロディーが耳元で囁き、精神を蝕むが、二人は交差点を抜ける。 【草原と椅子】の光景が広がる。広大な白黒の草原に、ぽつんと椅子が置かれている。莉子が椅子の背に触れると、残留思念が洪水のように流れ込む。『座れば花が咲き、魂が崩壊する』。「座らないでください!」彼女の声が響くが、疲労したネガが一瞬、椅子に腰を下ろしかける。花が咲き乱れ始める幻覚が彼を襲い、心臓が痺れるスタンの兆候が40%を超える。英雄の信念が彼を奮い立たせ、電磁バリアで花の幻を弾き飛ばす。莉子は激辛料理の刺激のように、この異常を「面白い謎」として耐える。 【小道】の長い畦道が続き、うっかり足を滑らせた莉子が転倒。マンホールに落ちそうになるが、ネガの浮花が彼女をキャッチ。「雷葬」で周囲の異常を焼き払い、脱出を助ける。童謡と鳴声が重なり、精神疾患の兆候が二人を蝕むが、莉子の洞察とネガの戦闘力が支え合う。 繰り返す道の果てに、最後の選択が訪れる。【標識とトンネル】。三角の標識に人の半身が描かれ、奥に黒いトンネルが口を開ける。莉子が標識に触れ、思念を読む。『入れば全身が溶け、全滅の闇』。「引き返しましょう。ここまで来て、無駄死にはしたくありませんわ」。ネガも感覚拡張でトンネルの電磁異常を察知し、頷く。「英雄は生きてこそだ。退却する!」 二人は引き返す選択をし、白黒の世界が徐々に色を取り戻す。童謡の残響が消え、廃墟の図書室に戻る。精神の疲労は残るが、脱出に成功した。 - 脱出者: 七宮莉子、青雷ネガ - 脱落者: なし