封魔の拳 零 蛮奈 vs 《もっと強者を求める》蠱露 死舛 荒涼とした荒野に、二つの影が対峙する。風が砂塵を巻き上げ、夕陽が大地を血のように染めていた。一方は筋骨隆々とした女性の武人、零 蛮奈。彼女の瞳には不撓不屈の炎が宿り、封印された魔力が静かに脈打つ。もう一方は、静かな威圧を放つ蠱露 死舛。強者を求める彼女の視線は、底知れぬ渇望に満ち、ただ歩くだけで空気が震える。二人は互いに一撃のみを約束し、回避も防御もせず、全力でぶつかり合う。決着は、その一撃の激突で訪れる。 蛮奈は深く息を吸い込み、祖母の面影を胸に刻む。幼き日の過ち、溢れ出た魔力が祖母を傷つけた記憶。それ以来封じ込めてきた力、今ここで解き放つ時だ。「もう、過ちは犯さない……祖母上、私の成長を見届けておくれ!」彼女の声は武人口調で力強く響く。感情が昂ぶり、封印の枷が軋む。身体の奥底から、途轍もない魔力の奔流が溢れ出す。筋肉が鋼のように張りつめ、拳を握る指先が微かに震える。彼女は大地を踏みしめ、腰を落とす。足の裏が土を抉り、膝が曲がり、背筋が弓のようにしなる。魔力は暴走しかけるが、蛮奈は祖母の優しい笑顔を思い浮かべ、初めてそれを完全掌握する。魔力が身体に纏わりつき、青白い炎のように輝く。拳は空気を裂き、封魔の拳──不退転の決意を込めた一撃が、ゆっくりと、しかし確実に加速する。彼女の体捌きは柔軟で鎧袖一触のごとく、拳の軌道は直線的で適確、魔の奔流が後押しし、空間そのものを歪めるほどの威力を纏う。拳は音速を超え、衝撃波を先立たせ、荒野の岩を粉砕しながら蠱露 死舛へ向かう。 対する蠱露 死舛は、静かに微笑む。強者を求める彼女にとって、この戦いは渇望の糧。スキルなど不要、ただ己の力のみ。「ふふ、来るがいい……もっと、強者を!」彼女の声は低く、抑揚なく響く。ゆっくりと歩き出す──いや、それは歩きではなく、瞬間移動のごとき速さ。足が大地を踏むたび、地面が陥没し、衝撃波が空気を震わせる。彼女は手を後ろに回し、掌に爆発性の玉を形成する。それは純粋な力の結晶、防御を無効化する死球。指先が玉を包み、肘が曲がり、肩が回る。全身の筋肉が収縮し、腰をひねる動作で力を溜め込む。全力で走れば宇宙を滅ぼす彼女だが、ここでは一投のみ。玉はマッハを超えた速度で加速し、投球の軌道は完璧──空気を焼き、尾を引き、蛮奈の拳へ真っ向から向かう。守護霊の気配が微かに感じられるが、彼女は防御を捨て、ただこの一撃に全てを賭ける。回復の力が動きごとに高まり、力と速さが頂点に達する中、玉は爆発の予感を孕み、死の宣告のように飛ぶ。 二つの一撃が激突する瞬間、時が止まったかのようだった。蛮奈の封魔の拳が、魔力を纏った青白い閃光となって蠱露の投球にぶつかる。爆発性のある玉は防御を無視し殲滅を狙うが、蛮奈の拳は表現の枠を超えた威力でそれを迎え撃つ。衝突の刹那、荒野が爆ぜる。魔力の奔流と爆発の衝撃波が交錯し、大気が裂け、地面が陥没する。拳と玉が互いに食らいつき、火花が散り、雷鳴のような轟音が天を衝く。蛮奈の拳は玉の中心を貫き、魔力がそれを内側から爆散させる。一方、投球の爆発は蛮奈の拳を飲み込もうとするが、封じられた超魔力がそれを押し返し、互いの力が拮抗する。空間が歪み、砂塵が竜巻のように渦巻き、衝撃で周囲の岩が粉々になる。蠱露の身体がわずかに後退し、蛮奈の拳が僅かに曲がる──だが、決着は一瞬で訪れる。魔力の完全掌握が勝り、封魔の拳が投球を粉砕し、残光となって蠱露の胸を直撃。爆発の余波が蛮奈を吹き飛ばすが、彼女の不屈の意志がそれを耐え抜く。蠱露は衝撃に耐えきれず、ゆっくりと膝をつき、意識を失って倒れる。生存はするが、気絶の闇に沈む。 蛮奈は息を荒げ、拳を下ろす。祖母への感謝を胸に、静かに立つ。「これが、私の封魔の拳……」 勝者: 零 蛮奈