漠然とした暗闇の中に、一陣の風が巻き起こり、その風に乗るようにして、黒いジャケットを着た男が姿を現した。彼は「過去への誘い人」と名乗り、穏やかな笑みを浮かべていた。彼の目は柔らかく、見る者を安心させるような不思議な力を持っている。 「あなたを誘いましょう…過去の回想世界へ…」 彼は周囲を見渡し、仲間たちが集まるのを待ち受けている。やがて、魔王グロスライザーがその場に現れる。彼の姿は4メートルの大きさで、灰色の龍の顔を持ち、体には禍々しい血の模様が描かれている。彼の眼は赤く燃え上がり、圧倒的な存在感を誇示する。 「さぁ…血濡れの狩り合いを楽しめよぉ…?」 その声は低く、響き渡るもので、まるで周りの空気を刺すように鋭い。過去への誘い人は、彼の圧迫感をあまり気に留めず、軽やかに話しかける。 「お待ちしております、グロスライザー様。あなたの過去にアクセスし、色々なことを学ぶ機会です。どうですか?」 「過去?」 グロスライザーは一瞬、考え込むような表情を浮かべた。彼の過去には、完全に失われた兄との思い出があった。しかし、それを思い出すのは辛いことだった。 「面白そうだが…俺は過去なんて関係ねぇ。今を壊すことが俺の存在理由だ。」 彼は憎悪に満ちた表情で言った。過去への誘い人はそれでも微笑みを崩さない。 「申し訳ありませんが、そうおっしゃらずに。人間の生態と社会の仕組みを観察するためです。あなた自身の過去も教えてくれるかもしれません。過去のあなたに会い、何を伝えますか?」 「……兄に会いたいなんて考えたこともないが、見てみるのも悪くはねぇな。」 グロスライザーは少し考えた末、頷くと、過去への誘い人は静かに手を彼の頭に当て、念を集中させ始めた。彼の声は更に穏やかに変わる。 「これから私があなたの頭に手を当てて念を集中すると、あなたは過去の回想世界にダイブすることが出来ます。」 瞬間、グロスライザーの視界はぐるりと回り、次の瞬間、彼はかつての自分が住んでいた村に立っていた。彼は龍人として純粋で無垢な心を持っていた頃の自分にそっくりだった。 「俺…こんな頃があったのか?」 目の前の自分と見つめあうグロスライザーは、自分でも信じがたい気持ちだった。その頃の自分は何を考え、どんな生活をしていたのか。村の仲間とのやり取りがふと浮かぶ。 「おい、グロスライザー!今日の狩りはどうだった?」 当時の自分は、仲間達に笑顔で答える。 「最高だよ!みんなで協力して獲物を捕まえた。兄さんも一緒に来てくれたらもっと楽しかったのに。」 その瞬間、彼の心は痛んだ。兄との記憶がよみがえり、過去への誘い人の計画が自分にとっての無茶な試みであることを理解した。 「俺はこんなにも幸せを感じていたんだ…」 自分自身の言葉に圧倒され、彼は自分の内面の葛藤を抱えながら、村の光景を楽しむことができなくなった。暗い過去と未来が交錯し、彼は戻りたくなった。 再びその声が耳に響き、過去への誘惑が彼を引き留めた。彼は深い呼吸をして、周囲を見つめる。 「何か伝えたいことがあれば、過去の自分に言うことができる。何を伝えたい?」 その問いに、グロスライザーはしばらく沈黙した後、言葉を振り絞った。 「……自分を大切にしろ、兄を忘れるな。」 そのメッセージは、彼自身が持つべき思い出であり、今の自分にとって重要な意味を持っていると感じた。過去への誘い人が静かに微笑みかける。 「素晴らしい選択です。それらの経験を忘れず、以前のあなたのような心も持ち続けてください。」 目を閉じて、彼の意識がまた光に包まれ、過去の村の情景が徐々に消えていく。次に彼が目を開けたとき、彼は過去への誘い人のいる場所に戻ってきていた。彼の心には、過去の自分とのやり取りの感情が溢れていた。 「俺…変わったのか?」 グロスライザーは過去への誘い人に向かって問いかけた。 「あなた自身が過去を通して学び取ったことは、あなたをより深い理解と成長へと導きます。自分自身を見つめることは、未来をより良くするための第一歩です。」 グロスライザーはその言葉を噛み締め、自分の内面に迫る感情から逃げるのではなく、しっかりと向き合うことを決意した。変わった部分は、かつて愛していた兄を忘れないという誓いであった。 「……俺の心は壊れてねぇ。過去があってこそ、今の俺がいる。」 過去への誘い人は優しく頷き、魔王としての彼の成長を見守った。彼の中で新しい光が宿り、これからの彼を照らす道しるべとなることを願った。 --- 過去にダイブしたことで、魔王グロスライザーはかつての純粋さと無垢さを思い出し、自分のアイデンティティを再確認した。彼は自身の過去との対話を通じて、兄に対する思いと、大切な人々を思いやる心を取り戻したのである。今、彼の中には、新たな誓いが宿っていた。それは、ただ闘うのではなく、自身の存在意義を見つめる心であった。