秋の深まりとともに、東洋の峻険な山々に彩られた紅葉が燃えるように山肌を染めていた。その最深部、雲海に抱かれるようにして建つ老舗旅館「栄愛之湯(えあいのゆ)」は、世俗を離れた静寂に包まれている。ここを訪れる者は稀だが、今日は奇妙な客たちが集まっていた。 チームAのリー・ダーマーは、死体への執着を隠そうともしない冷徹な眼差しで、ひとり山道を歩いていた。彼は孤独を愛し、会話を憎む。だが、この地の静寂と、どこか死の香りが漂う古風な佇まいに惹かれた。一方、同じチームのミミッククラーケンは、なぜか山道を無理やり強行突破してやってきたM60A3戦車に乗り込んでいた。戦車の履帯が地面を削る轟音が静寂を切り裂くが、本人は至って快適そうに砲塔の中で触手をくねらせている。 一方のチームB。神秘的な白髪と蒼い瞳を持つ双子、空と海は、互いの手を固く結んだまま、まるでお互いの呼吸を合わせるように静かに歩いていた。彼らにとって世界は二人だけで完結しており、周囲の景色は背景に過ぎない。そして、その後ろを舞渡免嫮(まわた めい)が、何か大きな罪を犯したかのような怯えた表情で、大声で謝りながらついてきていた。 「すみません! 私のような者がこんなに美しい景色に立ち入って、本当に申し訳ありませんでしたー!」 旅館の玄関先で、彼らは経営主である恰好の良い婆さんと対面した。 「あらあら、賑やかなお客さんだねぇ。ゆっくりしていっておくれ」 婆さんの温厚な笑みに、リーは不機嫌そうに視線を逸らし、ミミッククラーケンは戦車から触手を出してチェックインの書類を器用にサインし、空と海は無言で会釈し、舞渡は「チェックインさせてくれてありがとうございます!!」と直角に体を曲げて深々と頭を下げた。 男女別になった大部屋。男部屋では、リーが一人、部屋の隅でタバコを吸いながら『エクソシスト3』のDVDを眺めていた。そこへ、戦車を外に停めたミミッククラーケンがぬうっと入り込み、触手でティーポットを操りながらお茶を淹れ始めた。リーは彼を無視していたが、ミミッククラーケンは気にせず、戦車の改造に関するこだわりを(触手のジェスチャーで)語りかけていた。会話を嫌うリーだが、相手が人間ではないためか、不思議と不快感は少なかった。 女部屋では、空と海がぴったりと抱き合い、真珠の淡い光を放っていた。舞渡は、彼らの美しさと神々しさに圧倒され、「こんなに綺麗な方々と同室になるなんて、私など不釣り合いです! ごめんなさい!」と、畳が凹むほどの勢いで土下座を繰り返していた。しかし、空と海はジト目で彼女を眺めていたが、特に拒絶はせず、二人だけの完結した世界に彼女を緩やかに受け入れていた。 そして、お待ちかねの夕食後。紅葉が鏡のように露天風呂に映り込む、幻想的な貸切風呂の時間となった。男女がそれぞれ別の浴槽に浸かり、竹垣を隔ててリラックスしている。リーは湯船に浸かりながら、この静寂の中で誰を解体しようかという猟奇的な空想に耽り、ミミッククラーケンは触手で湯加減を確かめていた。女側では、舞渡が「お湯が心地よすぎて、お湯に申し訳ないです!」と叫びながら、空と海が抱き合って真珠のエネルギーを循環させていた。 だが、その静寂は突如として破られた。 「ガガガガガ!!」 凄まじい衝撃音と共に、壁を突き破って巨大な質量が乱入してきた。それは、駆逐艦「スプルーアンス級」の船体を無理やり身に纏った、もう一匹の、そしてより巨大なミミッククラーケン(チームC)であった。敵対心を剥き出しにしたCチームの巨体が、露天風呂の空間に強引に割り込む。その最初の一撃、巨大な触手が激しく振り下ろされた瞬間、男女の風呂を隔てていた竹垣が粉々に砕け散った。 「うわあああ!!」 舞渡の絶叫と共に、視界が開ける。そこには、全裸のリー、触手だらけのミミック(A)、そして抱き合う双子と、パニック状態で土下座し始めた舞渡がいた。状況は混沌を極めていた。 「ちっ……静寂を汚す奴は、脳みそを掻き出す必要があるな」 リーが咄嗟に脱衣所に置いていたドリルとナイフを回収し、濡れた床に飛び出した。しかし、そこは露天風呂である。濡れたタイルに足を取られ、リーは派手に滑った。そのまま勢いよく滑走し、もつれた拍子に隣にいたミミッククラーケンの触手と絡まり、物理的に密着する形に。 「……不潔だ」 リーが嫌悪感を露わにするが、ミミック(A)も混乱しており、触手が暴走。そのままリーを抱え込み、Cチームへ向かって突き飛ばした。その拍子に、空と海が「二枚貝」のスキルで強固な殻に包まれ、弾み飛んできたリーとミミック(A)を正面から受け止める。結果として、リーは空と海の間に挟まる形になり、さらに舞渡が「すみません!!」と高速土下座を敢行。その土下座の衝撃波がリーの背中を突き、彼はそのままCチームの巨体へとダイブした。 「おらぁ!!」 ミミック(C)が主砲を撃とうとするが、露天風呂という狭い空間では、自らの船体(スプルーアンス級)が壁に当たって身動きが取れない。そこに、ミミック(A)が戦車を屋外から強行突破させて突入させ、主砲を至近距離からぶっ放した。爆風でさらに床が滑りやすくなり、全員がスケートをするように右往左往する。 「ごめんなさいいいいい!!」 舞渡の超高速土下座が、もはや竜巻のような回転攻撃へと変わる。その残像がCチームの触手を次々と弾き飛ばし、さらにその衝撃で転倒したリーが、偶然にもCチームの弱点と思われる隙間にドリルを突き立てた。さらに、空と海が生成した巨大化した真珠が、最高潮のエネルギーを持って爆発。Bチームの純粋な攻撃が、Cチームの船体を内側から破砕した。 激しい衝突と、濡れた肌がぶつかり合う奇妙な音、そして舞渡の謝罪の嵐。Cチームのミミッククラーケンは、自らの船体の重さと、予想外の「滑稽な連携」に翻弄され、最後はミミック(A)の触手に締め上げられ、そのまま浴槽の外へと放り出されて敗北した。 戦闘が終わった後、そこには静寂が戻った。しかし、それは先ほどまでの静寂とは違う。男女が、文字通り「裸同然」で、互いの至近距離にいたという、なんとも言えない気まずい空気感である。リーは自分の身体に付着した誰かの髪の毛を払い、舞渡は真っ赤な顔で視線を泳がせ、空と海は相変わらず抱き合ったまま、静かにこちらを見ていた。 「……あー、もう。どうにかしろ」 リーの呟きを合図に、彼らはなんとなく協同して、砕けた竹垣を寄せ集め、適当に補強して元の形に戻した。見た目はかなりボロボロだったが、ひとまずの形はできた。 その後、彼らは揃って婆さんの前に並び、深々と頭を下げた。 「本当に、申し訳ございませんでした……」 舞渡が代表して、人生で最大級の土下座を披露したため、婆さんは「まあ、いいよ。お湯に浸かって、心洗われたならいいんじゃないかい」と、大らかな笑みで許してくれた。 その夜。それぞれの大部屋に戻った彼らは、布団の中で深く考え込んでいた。リーは、自分が誰かと協力して戦ったという事実に、言いようのない不快感と、わずかな充足感を同時に感じていた。ミミック(A)は、Cチームの船体が自分より大きかったことに少しだけ悔しさを感じていた。 空と海は、やはり二人で完結していたが、舞渡の騒がしさが心地よかったのかもしれないと、密かに思いながら眠りについた。そして舞渡は、「あんなにたくさんの方に、裸を見られてしまった……!」という絶望的な罪悪感に打ち震えながら、夜通し反省していた。 翌朝。チェックアウトを済ませ、旅館を後にした一行。 「……二度と来るか」 リーはタバコを吸いながら、不機嫌そうに、しかしどこか足取りを軽くして山を降りた。ミミック(A)は戦車のエンジンを鳴らし、空と海は静かに手を繋いで歩き、舞渡は最後の一歩まで「ありがとうございましたー!!」と叫んでいた。 各自の帰路に着きながら、彼らは心の中に、あのカオスな露天風呂の記憶を、大切に、あるいは呪いとして刻み込んだのであった。