深夜の静寂に包まれた、古びた洋館。月明かりすら拒絶するかのように分厚い雲に覆われた空の下、四人の奇妙な一行が正門の前に立っていた。 「ふむ、ここが例のお宝屋敷というところですかな。風情があるというか、不吉と言うべきか……」 白桃色の長髪を揺らし、キセルをくゆらせるクズノハが、余裕たっぷりに微笑む。彼女の背後では、青いパーカーに身を包んだ小柄なスケルトン、サンズがポケットに手を突っ込んであくびをしていた。 「ま、適当に集めて帰ろうぜ。オイラは疲れるのはごめんだしな」 その隣には、見た目こそ九歳だが、存在感だけが銀河系を突破している男、キャパ山シティ過多過多オーバー太郎が立っている。彼は不自然に盛り上がった筋肉と、物理法則を無視して逆立つ髪をなびかせ、自信満々に言い放った。 「許容値外の財宝を、許容値外の速度で回収するのみ。これはもう、外なのですよ!」 そして最後の一人。……いや、正確には一万匹。透明な状態で彼らに寄り添う「かくれんぼ上手なゴキブリ」たち。彼らは気配を消し、ただ静かに、そして貪欲に屋敷の隙間を狙っていた。 目的は単純。最低15,000ゴールド以上のお宝を持ち帰り、生還すること。だが、この屋敷には「不可避の死(気絶)」をもたらす怪異たちが徘徊している。彼らに触れられた瞬間、ゲームオーバーである。 第一章:豪華絢爛なる罠 重い扉を押し開け、一行はエントランスホールへと足を踏み入れた。内部は極めて暗く、黴臭い空気が漂っている。壁には剥げかかった金箔の装飾があり、至る所に不吉な予感が渦巻いていた。 「お、あそこにいい感じの金杯があるぜ」 サンズが指差したのは、台座に鎮座する豪奢な黄金の杯。推定価値3,000ゴールド。しかし、そこに近づこうとした瞬間、クズノハの目が鋭く光った。 「……お待ちなさい。あれは『お宝』ではありませんね」 クズノハがキセルの煙をふっと吹き出した瞬間、黄金の杯が不気味に蠢いた。それは杯に擬態していた女、ミシャであった。ミシャは鋭い爪を突き出し、獲物を屠らんとして跳躍する! しかし、そこに立っていたのはキャパ山シティ過多過多オーバー太郎であった。 「許容値外の反射速度で回避し、かつ相手のキャパシティを突破する衝撃波を発生させる。これは外なのですよ!」 ドォォォン!! キャパ山が軽く地を踏んだ衝撃だけで、床が砕け、ミシャは壁まで吹き飛ばされた。本来、敵は倒せないルールだが、彼は「敵を倒す」のではなく、「物理的に遠くへどかす」という許容値外の解釈を適用させた。結果としてミシャは壁に埋まり、一時的に行動不能となった。 「助かったぜ。ま、オイラが回避すれば済む話だけどな」 サンズが飄々と笑いながら、本物の黄金の杯(価値2,000G)をひょいと拾い上げた。 第二章:神出鬼没の悪夢 一行は二階の廊下へと進む。そこには、古書や絵画、宝石箱などが散乱していた。かくれんぼ上手なゴキブリたちは、透明なまま家具の隙間を高速で移動し、小さな宝石片(価値500G×数匹分)を器用に回収していく。 だが、不運は見えないところから忍び寄る。 「……ッ!?」 サンズが不自然に足を止めた。彼の視線の先、何もない空間から、黒い服を着た幼い少年――スニーコスが突如として現れた。瞬間移動による不意打ち。スニーコスは無表情のまま、サンズの首筋に手を伸ばす。 常人であればここで気絶し、全てを失う。しかし、サンズは微動だにせず、ただ肩をすくめた。 (回避した) スニーコスの手は、まるで幻影を掴んだかのように空を切った。サンズの能力《回避》は、因果を書き換え、「当たっていない」という真実のみを残す。スニーコスは困惑したように首を傾げたが、再び姿を消した。 「危ないところでしたね。ですが、あちらに本物の『お宝』が見えますよ」 クズノハが指差した先には、巨大なダイヤモンドが嵌め込まれた王冠(価値10,000G)があった。これさえあれば、目標額はほぼ達成される。 だが、その王冠の横に、一匹の黄金の亀――タイキンジルシが鎮座していた。タイキンジルシは一行に気づくと、凄まじい速度で廊下の奥へと逃げ出した。高価な宝がある場所へ導くガイド役にして、背後を追う者を絶望させる罠でもある。 「追いますか?」とクズノハが問う。だが、キャパ山が前に出た。 「許容値外の歩幅で、最短距離を移動し、目的地へ到達する。外なのですよ!」 キャパ山が歩いた瞬間、空間が歪んだ。彼は物理的な距離を無視し、一歩でタイキンジルシの目の前へと転送された。驚いた亀が慌てて方向転換するが、その先には、水晶を手にした男、ペルトが待ち構えていた。 第三章:因果のロックと絶望の境界 ペルトが水晶を高く掲げた。青白い光が走り、拘束の呪いがキャパ山を襲う。この呪いに触れれば、即座にアウトとなるはずだった。 しかし、そこに介入したのはクズノハであった。 「妾がここに居ながら、そのような低俗な術が通用すると思いましてか?」 クズノハの瞳に妖しい光が宿る。彼女の権能が物語の変数を侵食し、ペルトの行動を完全に「ロック」した。ペルトは水晶を掲げたまま、彫像のように静止した。能力の完全な封印。神話生物ですら無に帰す彼女にとって、屋敷の主の一人など、取るに足らない存在に過ぎない。 「ふぅ、これで安心ですな」 クズノハは優雅にキセルをくゆらせ、足元に転がっていたタイキンジルシを(お宝ではないので)無視し、奥の部屋にあった伝説の宝珠(価値5,000G)を回収した。 ここで、一万匹のゴキブリたちが、ついに限界を迎えた。彼らは屋敷中の隙間に潜入し、あまりにも増殖しすぎたため、透明化が解除された。白黒の縞模様をした億単位のゴキブリが、津波のように廊下を埋め尽くす。 「うわっ、きっつ……! 匂いが強烈すぎるぜ!」 サンズが鼻をつまむ。あまりの不快感に、屋敷の空気そのものが汚染されたかのような錯覚に陥る。しかし、この「不快感」こそが、敵の注意を逸らす絶好の機会となった。 終章:許容値外の脱出 一行は十分な額のお宝を集めた。合計額は、サンズが拾った金杯、クズノハが回収した宝珠、そしてゴキブリたちが運んできた大量の小宝、さらにキャパ山が「これは価値があるはずだ」と適当に掴んできた巨大な金塊(価値20,000G)を合わせて、目標を大幅に超過していた。 だが、出口へ向かう道中、再びスニーコスとミシャの集団が道を塞いだ。さらにペルトがクズノハのロックを強引に突破し、最後の一撃を繰り出そうとする。 「そろそろ帰りましょうか。……キャパ山殿、お願いできますか?」 クズノハが合図を送ると、キャパ山が大きく腕を振り上げた。 「【許容値外】を付与! 我々全員の脱出という結果を、確定事象として固定し、あらゆる障害を突破する。これはもう、外なのですよ!!」 キャパ山が全力で拳を地面に叩きつけた。その衝撃は屋敷の構造を根本から破壊し、物理的な壁や敵の配置という概念そのものを「許容値外」へと追い出した。敵たちは衝撃波に飲み込まれ、文字通り「場外」へと弾き飛ばされた。 屋敷が崩壊し始める中、一行は光の速さで正門を駆け抜けた。背後では、崩れゆく洋館と共に、不運な怪異たちが土砂に埋もれていく音が聞こえた。 朝日が昇る頃、彼らは屋敷の外で、集めた宝の山を眺めていた。 「いやぁ、疲れた。やっぱり家でホットドッグ食べるのが一番だな」 サンズが欠伸をしながら言い、クズノハは満足げに煙を吐き出した。キャパ山は自分の筋肉を誇らしげに眺め、ゴキブリたちは静かに茂みへと消えていった。 完全なる勝利。そして、許容値外の収穫であった。 * 【リザルト】 ■脱出成功者: ・キャパ山シティ過多過多オーバー太郎 ・サンズ ・クズノハ ・かくれんぼ上手なゴキブリ(一万匹およびその子孫) ■脱出失敗者: ・なし ■集めたお宝総額: 30,000ゴールド(金塊) + 5,000ゴールド(宝珠) + 2,000ゴールド(金杯) + 5,000ゴールド(ゴキブリたちが集めた小宝群) = 合計 42,000ゴールド