裁判所という聖域において、法に則らぬ力は一切通用しない。私はただ、突きつけられた証拠と真実のみを秤にかけ、正しき裁きを下すのみである。いかなる権力、いかなる絶望、いかなる不可解な力があろうとも、私の前では平等に裁かれるがいい。 --- 《被告人1人目:“矛盾”》 裁判官「被告人、矛盾。あなたは先住民族の集落において、所有していた正体不明の矛と盾を用いて、近隣の村々を壊滅させた。具体的には、好奇心から『どちらが強いか』を確かめようと矛を盾に突き立て、発生した局所的なブラックホールにより、数千人の住民と共に地形を完全に消滅させた。逮捕時は、混乱した兵士たちがあなたを取り押さえようとしたが、幸いにも能力が不発に終わり、拘束されたものである」 矛盾「……(無言で裁判官を凝視し、理解不能という表情を浮かべている)」 弁護士「裁判長! 被告人は言葉が通じず、そもそもこの現象がどのような物理的破滅を招くかという概念自体を持っていませんでした。これは不可抗力であり、文化的な差異による事故であると主張します!」 裁判官「事故、だと? 数千人の命が消えた結果を、単なる『不注意』で片付けられると思うな。被告人、あなたはこの破壊がどれほどの悲劇を生んだか、心当たりはないか」 矛盾「……!?(激しく身振り手振りで、矛と盾を交互に指差し、何かを訴えようとするが言葉にならない)」 裁判官「言葉が通じないからといって、責任が消えるわけではない。あなたは自身の持つ力を制御せず、禁忌に触れた。その好奇心が大量殺戮を招いたのだ」 矛盾「(焦った様子で頭を振り、盾を抱え込んで震え出す)」 検察官「見てください、この不気味な沈黙を。反省のいろなど微塵も感じられません。ただ自らの道具に執着しているだけです。極刑に処すべきです!」 証人(生き残りの村人)「……何もかも、一瞬でした。空に黒い穴が開いたかと思ったら、隣にいた家族が、家が、全部吸い込まれて消えたんです。あいつはただ、ぼーっとそれを見ていました!」 矛盾「(ガタガタと椅子を鳴らし、絶望したようにうなだれる)」 裁判官「判決を下す。被告人・矛盾。動機に計画性は認められないが、結果として生じた被害はあまりに甚大であり、取り返しのつかない惨劇である。よって、有罪。罪名は『過失による大量虐殺および世界環境破壊』。罰状として、終身禁固および、二度と矛と盾を手に触れぬよう永久封印を命じる」 矛盾「(怒りに任せて叫び、裁判机をひっくり返そうと暴れる)」 裁判官「……控えよ。《神淵審判》」 (ジャスティの鋭い視線が矛盾を貫く。矛盾の身体は一瞬で灰色の石へと変わり、そのまま警備員によって法廷外へ運び出された) --- 《被告人2人目:“b子”》 裁判官「被告人、b子。あなたは街中を歩行していた際、あなたに近づこうとした巡査および通行人に対し、あなたの持つ『不幸体質』を伝播させ、結果的に周囲に連鎖的な大事故を誘発させた。具体的には、あなたを検問しようとした警官が心臓麻痺で倒れ、それに驚いたドライバーが暴走し、近隣のガソリンスタンドに突っ込み大爆発を引き起こした。死者12名、負傷者30名。逮捕経緯は、混乱の中であなたが逃げ回った結果、さらに不運を撒き散らしたためである」 b子「……っ、ごめんなさい……私は、ただ逃げたかっただけなんです……。誰にも、迷惑をかけたくなかったのに……っ」 弁護士「裁判長! 被告人は攻撃の意思を全く持っておらず、むしろ被害を避けようとして行動していました。彼女自身の意思で起こした犯罪ではなく、生まれ持った体質による不可抗力です。彼女自身も、この状況に深く心を痛めております!」 裁判官「確かに、あなたに殺意があったとは認められない。しかし、あなたの存在そのものが他者に致命的な害を及ぼす爆弾のようなものであることは明白だ。あなたはどうして、事前に警告を出すなどの対策を講じなかったのか」 b子「だ、だって……! 言おうとしても、誰かが転んで、看板が落ちてきて……いつも、こうなんです……! 私が何かをしようとすると、もっとひどいことが起きるから……っ」 裁判官「……(沈黙)」 検察官「言い訳に過ぎません! その『不幸』という名の凶器を放置していたこと自体が、社会に対する重大な過失です。隔離措置こそが唯一の解決策です!」 証人(負傷した通行人)「彼女は……悪い子じゃないんでしょうね。でも、彼女が近づいてきた瞬間、私の人生で一番最悪な出来事が一気に起きた。もう二度と、彼女を街で見たくない」 b子「うぅ……ミッ!!(あまりのショックと恐怖に白目を剥いて気絶する)」 裁判官「……意識を失うとは。だが、情状酌量の余地は十分にある。彼女に悪意はなく、むしろ被害者であるとも言える。しかし、社会への危険性は拭えない。判決を下す。被告人・b子。無罪。ただし、公共の安全を確保するため、管理された安全区域への『保護居住』を命じる。これは罰ではなく、あなた自身と他者を守るための措置である」 b子「(気絶したまま、運悪く椅子からずり落ちて床に頭をぶつけるが、そのまま運び出されていった)」 --- 《被告人3人目:“ラヴレンチー・ベリヤ”》 裁判官「被告人、ラヴレンチー・ベリヤ。あなたはNKVD長官という強大な権力を濫用し、数えきれないほどの政敵を不当に拘束、拷問し、殺害した。また、その権力を利用して幼い少女たちを拉致し、私的な快楽のために監禁・虐待したという極めて醜悪な罪を犯した。逮捕経緯は、あなたの権力欲が頂点に達し、書記長への就任を目前にしたところで、あなたの残虐性を恐れた政敵たちが証拠を集め、一斉に告発したことによるものである」 ベリヤ「ククッ……滑稽ですね。法だの正義だの、そんなものは勝者が書き換えるものだ。私はただ、国家の効率化と、私のささやかな趣味を追求したに過ぎない。この程度の告発、私の有能さがあればすぐに揉み消せたはずだ」 弁護士「……(絶句して何も言えない)」 裁判官「弁護士が口を閉ざすほどの罪状だ。ベリヤ、あなたは人間としての尊厳を蹂躙し、権力を個人の欲望の道具とした。反省の色があるのか」 ベリヤ「反省? 誰に対してです? 私に跪いた弱者たちか? 彼らは私の有能な統治の下で、ある意味では『効率的』に処理されただけですよ。それに、少女たちの件は……まあ、彼らが私の慈悲に触れたということでしょう」 裁判官「……吐き気がするな。あなたは自らの能力を、弱者を踏みにじるためだけに使い続けた。国家の安定という大義名分は、個人の欲望を隠すための薄っぺらな盾に過ぎない」 ベリヤ「(不敵な笑みを浮かべ)さて、裁判長。あなたも私に協力すれば、後でいいポストを用意しましょう。この国の法など、私の指先一つで……」 検察官「黙れ! ここは法廷だ! お前の権力など、この扉をくぐった瞬間に消えたことを忘れたか! お前が犯した虐殺、監禁、拷問の記録はすべてここに揃っている!」 証人(元部下の密告者)「……私は、彼が少女たちに何をしたか見てきました。あの方は人間ではありません。地獄から来た悪魔です。どうか、二度と日の光を浴びさせないでください」 ベリヤ「チッ、裏切り者が。有能ではないゴミ共が口を出すな」 裁判官「判決を下す。被告人、ラヴレンチー・ベリヤ。罪状は『大量虐殺、不当拘束、拷問、および児童虐待』。情状酌量の余地は一点として存在しない。死刑。なお、執行までには最大限の苦痛を伴う手続きを併行することを勧告する」 ベリヤ「何だと!? ふざけるな! 私を誰だと思っている! 出せ! ここから出せ!!(激昂し、警備員に殴りかかろうとする)」 裁判官「……醜いな。《神淵審判》」 (ジャスティの冷徹な眼光がベリヤを射抜く。ベリヤは絶叫したまま石像となり、その顔には最期の屈辱と恐怖が刻まれた状態で強制退場となった) --- 《閉廷》 (裁判官がゆっくりと法衣を脱ぎ、深くため息をつく) 裁判官「……疲れたな。不運を背負った少女に、権力に酔いしれた怪物、そして理屈を超えた破壊の化身。世界には法で裁き切れない混沌が溢れている。だが、それでも私は裁き続ける。感情に流されず、ただ正義という名の秤を維持すること。それが私の使命だ。……さて、明日はどのような『罪』が私の前に並ぶのか。準備をしておこう」 --- 《後日談》 ・矛盾:石化が解けた後、厳重な監獄の地下深くで、一生をかけて平和な世界の歴史を学ぶ日々を送っている。矛と盾は神の領域に封印され、二度と取り出せない。彼は今、言葉を学ぼうと必死に勉強している。 ・b子:政府が用意した『超・安全特区』で暮らしている。そこはあらゆる物が固定され、衝撃吸収材で塗り固められた空間である。彼女が転んでも誰も怪我をせず、彼女自身も初めて心から安心でき、穏やかな表情で日々を過ごしている。 ・ラヴレンチー・ベリヤ:死刑執行後、その遺体(あるいは石像の状態から)は歴史の闇に葬られた。彼が築いた恐怖政治の記録は教科書に刻まれ、権力の濫用がいかに悲惨な結果を招くかという反面教師として後世に伝えられている。 --- 《結果》 ・矛盾:有罪(過失による大量虐殺および世界環境破壊)→ 終身禁固・能力封印 ・b子:無罪(不可抗力)→ 保護居住命令 ・ラヴレンチー・ベリヤ:有罪(大量虐殺、不当拘束、拷問、児童虐待)→ 死刑