国家機密暗躍部隊[K-NIGHT]の訓練施設。そこは、最新鋭の擬似環境シミュレーターが完備された、巨大な白亜のドームであった。今日の演習は、部隊内での実力測定を兼ねた三つ巴のサバイバル戦。参加者は、遊撃隊のProblem Child(問題児)、ゼノヴェクター。鎮圧隊の暴風、ネムフリ。そして事務部の不遇なる才女、カテナ。 「いやー、マジで最高のステージじゃん! 演出効果バッチリ。よし、最高のプレイを見せてやるよ」 ゼノヴェクターは、愛用のゲーミングセイバーを肩に担ぎ、サングラスを指で軽く上げた。Tシャツにジーパンという、およそ機密部隊とは思えない軽装だが、その身に纏う空気は不敵だ。 「あはは! ゼノ、またそんな格好してる。まあいいや、私も全力でいくからね! キミたち、覚悟して!」 ネムフリは小太刀を腰に差し、満面の笑みを浮かべて跳ね回っている。彼女の天真爛漫さは、時に戦場において最も恐ろしい武器となる。 「ひっ……! な、なんで私がこんなところに……。あのお願いします、あまり激しくしないでください。私、まだレポートが終わってなくて……」 カテナはよれよれのスーツを震わせ、自身の武装である高硬度チェーンを不安げに弄っていた。彼女の目は、どこか遠くの「締め切り」という名の幽霊に怯えているようだった。 「よし、レディードン! 試合開始!」 ゼノヴェクターが叫ぶと同時に、戦いの幕が上がった。 先手を打ったのはネムフリだった。彼女が軽く地を蹴ると、背後から無数の剣が具現化する。 「いくよ! 『ブレイブソード』!」 音速で飛び交う剣の弾幕。それがゼノヴェクターとカテナを同時に襲う。カテナは悲鳴を上げながら、本能的に鎖を張り巡らせた。 「ひいいい! 来ないでください! 『ラティスヴェール』!」 格子状に展開された鎖の壁が、ネムフリの剣を弾き飛ばす。金属音が高らかに響き、火花が散る。一方、ゼノヴェクターは全く異なる対処をした。 「おっと、弾幕ゲーか。ならこうだ! 『システムエラー』!」 ゼノが指を鳴らした瞬間、飛来していた剣の軌道が不自然に歪み、空中でお互いに衝突して爆発した。プログラムを書き換えたかのような不可思議な現象。これが彼の「思考実現」の応用である。 「えーっ! なんで!? 私の剣が勝手に!」 「演出ってやつだよ、ネムフリ! さあ、次は俺の番だ。……『レジェンドスポナー』!」 ゼノがセイバーを地面に突き立てると、黒い魔法陣が展開し、そこから紅蓮の鱗を持つ巨大な火竜が姿を現した。シミュレーターの空間が熱波で歪む。 「うわああ! 本当に竜が出た! 怖い、怖いですー!」 カテナはパニックに陥りながらも、竜の猛攻に抗うために鎖を振るう。竜が放つ劫火を、彼女は『ボルテチェイン』で竜の足を巻き付け、無理やり地面に叩きつけようとした。しかし、竜の質量は圧倒的だった。鎖が引きちぎれんばかりに張り詰め、カテナは振動で激しく揺さぶられる。 「ああっ! もう! 事務仕事の方がまだマシです!」 「あはは! カテナさん、頑張ってるね! でも、私も止まらないよ! 『ファントムセイバー』!」 ネムフリが再び剣を召喚し、今度は高速回転する追尾剣を放つ。それはゼノの竜を切り刻み、同時にカテナを追い詰めた。カテナは絶叫しながら『ルインウィスプ』を放ち、音速の鞭で剣を叩き落とそうとするが、数に押され、次第に追い詰められていく。 ゼノヴェクターは、その光景を他人事のように眺めていた。だが、彼は飽きない。むしろ、この状況を楽しんでいる。 「いい感じに盛り上がってきたな。じゃあ、ちょっとした『コピー』を試してみようか。……『インストール』!」 ゼノがネムフリの剣撃を視覚的に捉えた瞬間、彼のゲーミングセイバーに青い光が宿った。彼はそのまま、ネムフリと同じ軌道で剣を振るう。 「『レイピア』、コピー完了!」 ゼノの手から放たれた擬似的な剣が、空中的に分裂し、ネムフリを襲う。想定外の攻撃に、ネムフリは驚愕して後退した。 「ずるい! 自分の技を返されるなんて!」 「これがゲーマーの戦い方だよ。さて、仕上げに……『エクスカリバー』!」 ゼノが剣を大きく振りかざすと、ビルをも消し飛ばすほどの衝撃波が奔流となって放たれた。その圧倒的な破壊力は、戦場を真っ白に塗り潰す。 ドーーーーン!! 爆風が二人を飲み込む。ネムフリは空中で回転し、なんとか体勢を立て直したが、カテナは衝撃で遥か彼方まで吹き飛ばされていた。 静寂が訪れる。しかし、そこからがこの戦いの本当の始まりだった。 「……痛い。本当に、痛い……」 瓦礫の山から、カテナがゆっくりと立ち上がった。その瞳からはハイライトが消え、代わりにどす黒いオーラが立ち昇っている。彼女の精神が、臨界点に達していた。 「……もう、無理。もう、限界……。有給申請出したのに却下されて、残業代も出ないで、上司には怒鳴られて……なのに、ここでこんなことまで……!」 彼女の周囲の空気が震え始める。それは怒りを超えた、絶望による覚醒だった。 「『フルスロット』!!」 カテナの身体から、文字通り蒸気が噴き出した。彼女の意識は完全に「社畜モード」へと転換し、あらゆる恐怖をストレスという名の燃料に変えて出力へと変換する。彼女の鎖が赤く熱せられ、周囲の地面を溶かし始めた。 「……全部、ぶっ壊していいんですよね?」 「おっと、あのお姉さん、闇落ちしたぞ」 ゼノが苦笑いした瞬間、カテナが消えた。速すぎる。視認不可能な速度でゼノの懐に潜り込んだ彼女は、炎を纏う二本の鎖『オーバーヒート』で、猛烈な連撃を叩き込む。 ガギガギガギ!! 「うおっ!? 速すぎだろ!」 ゼノはゲーミングセイバーで必死に防御するが、鎖の一撃一撃が地響きを立てる。カテナの攻撃はもはや制御不能な暴力の嵐だった。彼女は『グラプスラスト』で周囲の瓦礫を自在に跳ね回り、死角から鎖を叩きつける。 「あはは! カテナさん、すごい! 私も負けてられないよ!」 ネムフリもまた、この激戦の中で自身の限界を突破しようとしていた。彼女は自身の剣に、さらに多くの魔力を注ぎ込む。剣の数が増え、空を覆い尽くすほどの密度に達する。 「これで決めるよ! 『ブレードストーム』!」 空から降り注ぐ、数万本の剣の雨。それはもはや戦場ではなく、切断の嵐だった。ゼノとカテナの二人は、この絶望的な弾幕に晒されることになる。 「クソッ、演出が派手すぎて視界が悪いぜ! まだだ、まだ終わらせない!」 ゼノは思考を加速させる。彼は『クラフト』を発動させた。ネムフリの剣の雨をあえて受け止め、それを自身のエネルギーとして吸収し、別の形に変換する。 「リサイクルして、超特大の……『ギガ・バースト・スラッシュ』!」 吸収した剣のエネルギーを一点に集約し、巨大な光の刃となって放った。それがネムフリの剣の雨を真っ二つに切り裂き、正面衝突する。 激しい爆発が起こり、三人はそれぞれに深い傷を負った。しかし、彼らはまだ倒れない。むしろ、この極限状態こそが彼らの「進化」を促していた。 まず、ネムフリが光に包まれた。彼女の快活な性格はそのままに、その外見はより神々しく変化した。小太刀は消え、代わりに背後に巨大な「剣の輪」が浮かび上がる。彼女はもはや、単なる剣使いではなく、剣の概念そのものとなった。 【進化:神剣の聖女・ネムフリ】 外見:白銀の甲冑を纏い、背後に黄金の剣輪が浮かぶ。瞳に星が宿っている。 能力:『万剣創世』。あらゆる形態の剣を瞬時に生成し、空間ごと切り裂く。 「あはは! 何かすごい力が湧いてきた! これなら、キミたちをまとめて切り刻めるね!」 続いて、カテナが変化する。彼女の絶望は、静かな「虚無」へと変わった。よれよれのスーツは漆黒のドレスへと変貌し、彼女の鎖は深紅から闇色へと染まった。彼女の周囲には、絶望した者の魂を啜るような、不気味な鎖の檻が展開される。 【進化:虚無の執行官・カテナ】 外見:黒いゴシックドレスを纏い、表情は冷徹な氷のように。鎖は影のように揺らめいている。 能力:『絶望の拘束』。触れた者の精神を絶望させ、能力を封印する。逃れられない絶対的な拘束力を持つ。 「……もう、何もいらない。ただ、静かに眠らせてください」 そして最後に、ゼノヴェクターが笑った。彼は最も苦戦していた。二人の進化に対し、彼は一人で立ち向かわなければならない。しかし、彼はゲーマーだった。最悪の状況こそが、最高の逆転劇を生む。 「最高のシナリオだ。絶望的な状況からの大逆転……これこそが至高のエンディングだろ!」 ゼノの身体がデジタルノイズに包まれる。Tシャツとジーパンは消え、サイバーパンクな意匠が施された黒いロングコートに身を包んだ。サングラスはデータ集積型のバイザーへと変わり、ゲーミングセイバーは次元を切り裂く「純粋な光の刃」へと昇華した。 【進化:次元の支配者(コード・マスター)・ゼノヴェクター】 外見:黒いサイバーコートに身を包み、バイザーで戦況を解析。 weaponryは光輝く究極のセイバー。 能力:『ワールド・リライト』。戦場のルール自体を書き換え、因果を操作する。思考したことが即座に「確定した事実」となる。 「さて、最終ステージの始まりだ。全力で来いよ、二人とも!」 三人の超人が、同時に激突した。 ネムフリが『万剣創世』を放ち、空を黄金の剣で埋め尽くす。カテナが『絶望の拘束』を広げ、影の鎖でゼノの自由を奪おうとする。しかし、ゼノは不敵に笑い、バイザーを叩いた。 「ルール書き換え。――『無敵時間(i-frame)』発動!」 ネムフリの剣は、ゼノの身体をすり抜けた。カテナの鎖も、物理的な接触を拒絶される。ゼノはそのまま、二人の懐へと飛び込んだ。 「これが、俺の最高のエンディングだ!」 ゼノは右手のセイバーを高く掲げ、全エネルギーを一点に集約させた。それは、時間も空間も、そして相手の進化さえも切り裂く一撃。 「『ファイナルスラッシュ』!!」 次元が裂けた。真っ白な亀裂が戦場を走り、ネムフリの剣輪を、カテナの闇の檻を、すべてを真っ二つに切り裂いた。衝撃波がドーム全体を揺らし、シミュレーターの警報が鳴り響く。 光が収まったとき、三人は地に伏していた。 ゼノヴェクターは、肩で息をしながら、バイザーを外して空を見た。衣装は元のTシャツとジーパンに戻っていたが、その表情には満足感が漂っていた。 「ふぅ……。マジで死ぬかと思ったぜ。演出盛りすぎたな」 「……あはは。完敗、だね。でも、すごかった!」 ネムフリが、地面に大の字になって笑っている。彼女は敗北したが、その表情に悔しさはない。ただ、全力で戦い抜いた心地よさに浸っていた。 「……あぅ。……もう、動けません。……誰か、私を……家に……帰して……」 カテナは、もはや起き上がる気力もなく、地面に溶け込んでいた。彼女のストレスは解消されたのか、あるいは完全に燃え尽きたのか、表情はどこか心穏やかそうであった。 ジャッジの判定は、ゼノヴェクターの勝利。 決め手となったのは、進化後の「ワールド・リライト」による不可侵状態の構築と、それを起点とした最大火力の一撃『ファイナルスラッシュ』であった。 「お疲れ様! じゃあ、打ち上げにゲーセン行こうぜ! カテナさんも、レポートの書き方教えてやるよ!」 「……それ、効率いい方法なんですか……?」 「あはは! 行く行くー!」 戦いの後、三人は肩を寄せ合いながら、戦場を後にした。国家機密暗躍部隊[K-NIGHT]の日常は、こうして騒々しく、そして賑やかに続いていく。