黄金の荒野に舞う絶望と鉄の祝祭:ガンドルド鉱山護衛戦記 【序章:静寂なる出撃】 空は焼けたオレンジ色に染まり、地平線まで続くのは乾いた砂と岩塊のみが支配する絶望の荒野であった。そこに、全長2km、幅1km、高さ0.5kmという、もはや移動要塞と呼ぶに相応しい巨体を持つ「要護衛艦」が、時速10kmという鈍重な速度で進んでいた。操縦席に座るのは、二十歳の女性フェア。彼女は持ち前の明るさで、緊張に包まれる艦内に無線を通じて声を飛ばす。 「皆さん!目的地ガンドルド鉱山まであと95kmです!ちょっと遅いけど、安全運転で頑張りますからねっ!」 その屈託のない声とは裏腹に、艦の周囲を固める護衛陣は極めて異様かつ強大であった。黄土色の軍服に身を包み、金色の瞳を輝かせる美少女エントラが、特注の狙撃銃「スターライファス」を肩に担いで不敵に微笑む。 「ふふん、朕に任せておくがよいですわ!この道中の全ての障害を、朕の資金力とこの銃でねじ伏せて見せましょう!」 彼女の傍らには、完璧な所作でティーカップを捧げるメイド、コルナが控えていた。スーツに身を包んだ彼女は、戦場という極限状態にありながら、静かに微笑む。 「エントラお嬢様、お茶が入っております。戦いの中にも優雅さを。……それでは皆様、どうぞ。心を落ち着けていただけますよう」 コルナがスキル〈どうぞ。〉を発動させると、空間から最高級の珈琲と茶が振る舞われ、護衛陣の精神状態は最適化された。上空にはAWACS「スカイアイ」が旋回し、戦域全域を監視。その背後からは、核熱ロケットエンジンを噴射するF-09 ファイヤースター3機編隊が、銀色の閃光となって空を切り裂いている。さらに、地上には狂気的な質量を誇る「カール自走臼砲」が鎮座し、その砲身は静かに、しかし確実に、あらゆる障壁を粉砕する準備を整えていた。 そして、この奇妙な集団を遥か高空から見下ろす、闇の都市「アルトタイクーン」。核融合エンジンの轟音と共に浮遊するその巨大要塞は、今回、護衛側の強力なバックアップとして同行していた。 しかし、彼らはまだ知らなかった。この世界そのものが、ある「執筆者」の退屈しのぎに過ぎないことを。傍らでふわふわと浮遊する緑色の折り紙の亀「おりがめ」だけが、メタ的な視点からこの惨劇の予兆を察し、静かに読者へと語りかけていた。 【中盤:億の軍勢、地平線を埋める】 旅が始まって数時間後、スカイアイから緊急の警告が飛んだ。 『こちらAWACSスカイアイ!前方30km、地平線全てを埋め尽くす反応を確認!正体は……正気か!?機械軍団、そして魔族、さらに堕ちた神々の軍勢だ!数が……数億人規模に達している!』 フェアが絶叫する。「数億!?冗談じゃないわよ!」 地平線の彼方から、鋼鉄の足音と魔的な咆哮が地鳴りとなって押し寄せてきた。機械軍団の冷徹な計算と、魔族の破壊衝動、そして堕ちた神々の狂気が混ざり合った絶望の波。彼らは要護衛艦という巨大な獲物を喰らおうと、文字通り「壁」となって迫ってくる。 「いいですわ!数など関係ありません!朕の財布の中身と、この砲撃があれば十分です!」 エントラが号令をかける。直ちにカール自走臼砲が火を噴いた。 【六〇センチ重臼砲】――発射! 空気が圧縮され、衝撃波だけで周囲の砂漠が円形に抉れた。着弾地点では、数万の機械兵と魔族が、防御魔法ごと物理的に圧殺され、文字通り「消滅」した。さらに【必滅の咆哮】が大地を揺らし、直径15mのクレーターが数千箇所に同時に生成される。敵の波に巨大な穴が開いた。 上空ではF-09 ファイヤースターが超高速で旋回し、〈空対空核ミサイル〉を連射。核爆発のキノコ雲が次々と上がり、敵軍の後方を焼き尽くす。さらにアルトタイクーンがその巨大な爪腕を振り下ろし、極大荷電粒子砲を掃射。闇ブローカーたちの物量攻撃が、敵の軍勢を文字通り「肉片と屑鉄」へと変えていった。 「コルナ、次のお茶を!」 「承知いたしました、お嬢様。……Смерть всем врагам(敵に死を)」 コルナは冷静にティータイムとコーヒーの拳銃を連射し、精密な射撃で敵の指揮官クラスを次々と排除していく。エントラはスターライファスを構え、数km先の敵将の眉間を正確に撃ち抜いた。金色の瞳には、天才的な計算に基づいた最適弾道が描き出されていた。 【転換:不条理なる介入】 戦況は護衛側の圧倒的火力により、数億の軍勢を相手にしながらも優勢に見えた。しかし、そのとき、戦場の「色」が変わった。 空に、巨大な「原稿用紙」のような断層が現れる。そこに佇んでいたのは、この世の理を超越した存在、「イマジナリープロット」であった。 彼は退屈そうに、手にしたペンを回していた。 「ふむ。あまりに一方的だ。火力バランスが壊れている。こういうところは、もっと絶望的な展開にした方が『物語』として面白いだろうな」 彼がペンを一本走らせる。瞬間、世界に「修正」が入った。 【気紛れ捏造世界】――「今の攻撃はすべて、幻覚だったことにしよう」 一瞬にして、消滅したはずの数億の軍勢が完全に復活した。それどころか、彼らは先ほどまでの攻撃で得た「データ」を学習し、さらに強化されて襲いかかる。さらに、不運なことに自然災害が重なった。激しい地殻変動による大地震が発生し、要護衛艦が大きく傾く。 「きゃああっ!」 フェアが操縦桿にしがみつく。不運は重なる。地震による地割れに要護衛艦の右舷が乗り上げ、バランスを崩した巨大艦は、そのまま隣の深い谷間へとゆっくりと、しかし確実に転落し始めた。 「嘘でしょう!?こんなところで!?!」 【終盤:崩壊と絶望の結末】 要護衛艦は、高さ数百メートルの谷底へ墜落した。激しい衝撃と共に、艦底部が岩壁に衝突。燃料タンクが炎上し、巨大な爆発音が荒野に響き渡る。時速10kmで進んでいた鈍重な巨体は、今や逃げ場のない鉄の棺桶と化した。 「ああ……もう、お茶を淹れる時間がありませんわね」 コルナが静かに呟く。周囲を、復活し強化された数億の軍勢が取り囲んでいた。アルトタイクーンは上空から援護しようとしたが、イマジナリープロットが「ここで要塞が介入するのは展開として不自然だ」と一行書き加えたため、強制的に戦域外へ転送された。 エントラはスターライファスを構え、最後の抵抗を試みる。しかし、彼女の弾丸はイマジナリープロットによって「ただのインクのシミ」へと変えられた。 「朕は……負けるなど、認めませんわ!」 だが、物語の執筆者に抗う術はない。イマジナリープロットは、退屈そうに口を開いた。 「さて、この章はここまでだ。あまりに贅沢な設定を盛り込みすぎた。整理しよう」 【落書きの顛末】――発動。 要護衛艦を包んでいた炎、叫び、絶望、そして最強の兵器たち。そのすべてが、白い原稿用紙の上にこぼれたインクのように処理されていく。もはや戦いではない。それは単なる「消しゴムによる消去」であった。 「待って!まだ、目的地まで……!」 操縦者のフェアの悲鳴も、書き換えられた。彼女の存在そのものが、没プロットとして破棄された。 【結末:白紙の虚無へ】 世界が真っ白に染まっていく。もはやそこには、黄金の荒野も、ガンドルド鉱山も、誇り高き機械傭兵も存在しない。 最後に残ったのは、小さな緑色の折り紙の亀、おりがめだけだった。彼は、この物語の結末を書き換える権利を持つ、唯一の「遊戯」を始めた。 (……さて、読者の皆様。このような悲惨な結末では満足いただけないでしょうね。ですが、これが『作者』の気まぐれというものです。あはは、滑稽です。それでは、この物語を完全に削除し、新しい白紙へと戻しましょうか) おりがめが小さく跳ねた瞬間、物語の最後の行にこう書き込まれた。 『この物語は削除済み』 --- 【最終結果報告】 護衛結果:失敗 (原因:物語の執筆者「イマジナリープロット」による気まぐれな世界改変および、不運な谷間への転落による要護衛艦の大破・全損のため) 生存・死亡・逃亡状況: フェア(操縦者):死亡(消滅) 理由:イマジナリープロットの【落書きの顛末】により、没プロットとして存在を消去されたため。 エントラ:死亡(消滅) 理由:同上。どれほどの資金力や天才的な知能を持っていても、物語の「設定」を書き換える権限の前には無力であったため。 コルナ:死亡(消滅) 理由:同上。主人と共に物語から抹消された。 カール自走臼砲:破壊(消滅) 理由:物理的な破壊を経て、最終的にデータとして消去されたため。 アルトタイクーン:逃亡(強制排除) 理由:イマジナリープロットにより「展開に不自然」と判断され、戦域外へ強制転送された。その後、世界削除と共に消滅した可能性が高い。 スカイアイ:死亡(消滅) 理由:上空から消去処理を受けたため。 F-09 ファイヤースター編隊:死亡(消滅) 理由:同上。 イマジナリープロット:生存 理由:本物語の執筆者であり、唯一の絶対権限保持者であるため。 * おりがめ:生存(メタ存在として) 理由:物語の外部(読者側)を認知しており、消滅を演じる能力を持つため。物語の削除後も概念として残存。 【総評】 圧倒的な戦力を保有していた護衛陣であったが、対戦相手に「物語の作者」という概念的超越者が含まれていたため、いかなる戦略・火力も意味をなさない結果となった。要護衛艦は物理的な事故(転落)とメタ的な消去の二段構えで完全に崩壊し、目的地への到達は不可能となった。