砂の舞う闘技場に、今まさに二人の闘技者が対峙していた。一方は若き戦士、筋肉質な体躯を持ち、緊張感に包まれるその姿はまさに猛獣のような威圧感を放つ。もう一方は、物静かだが威厳ある雰囲気を纏った老人、入海楽外。彼の細い体と白髪の坊主頭、橙色の僧衣が、戦いの場にまるでそこだけ異次元から来たかのような空気を醸し出していた。 砂に覆われた足場は不安定で、両者の動きがいかに影響されるかが問われる闘技場。しかし、その状況に全く怯むことなく、闘技者は地面を蹴り上げ、鋭い目つきで入海楽外に向かって突進した。素早い動きで相手の懐に飛び込み、力強い一撃を下す。 「どうした、じいさん!」と挑発する若者の言葉を、楽外は静かに受け流す。その視線はどこか深い瞑想に浸ったようで、人の内面を見透かしているかのように感じ取れる。 闘技者の攻撃が迫るも、入海楽外はその動きを冷静に捉え、瞬時に足を移動させる。その身のこなしはまるで風のように軽やかで、対戦相手の攻撃を難なくかわしながら、彼の隙をついてゆっくりと前方へ歩み寄った。 そして彼が静かに指を差し向けると、闘技者の肉体が不思議な感覚に襲われる。まるでその動きが予測できないかのような感覚。楽外は、彼の力を無効化するように見せられた。たった一撃でも、かつての戦士の力はなるほど威力のあるものであるが、今この瞬間において、楽外はその力を活かすかのように振る舞っていた。 闘技者は急いて行動を起こす。彼は地を蹴り、砂を舞い上げながら、身体を低くして横なぎに攻撃を仕掛ける。しかし、楽外はその攻撃を既に見越しており、静かに頭を振りながら避け、彼の左側へと移動する。闘技者の目の前に楽外の身体は存在し、隙間なく広がる範囲を埋め尽くすかのようだ。 「何を焦っている。力はただの手段に過ぎぬ」と、楽外は静かに呟く。その声が闘技者の心を揺さぶる。 闘技者が何度も鋭い攻撃を繰り出すも、楽外の静かな間合いの中でその動きは全く効かない。入海楽外は肉体的には劣る存在ではあるが、まるで別次元の存在の如く、その攻撃を避け続ける。彼の眼差しには、すべてが見えるような不思議な余裕があった。 突然、楽外は小さな動作で身体を低くし、闘技者の正面に向かって拳を振り下ろす。その動作は一瞬の中に十の攻撃を内包するようで、空気を切り裂く音が響き渡った。 「ふっ!」と闘技者が驚く間もなく、甘美な絶妙なタイミングで入海楽外の拳が相手の体に命中する。百の鉄拳が同時に彼を襲い、思わず顔をしかめ、闘技者は後ろに崩れる。老いを感じさせない、まさに予測を超えた例外的な力発揮だった。 楽外の動きは冷静さを失うことなく続く。彼は勢いを保ち、再度闘技者を追い詰める。攻撃を受ける度に若者は動揺し、再び立ち上がるも、完全に楽外のペースにハメられ、次々と拳が放たれていく。かの戦士の肉体は次第に省エネモードへと移行し、効かない攻撃が貯金のようにどんどん追加されていく。 ついに、少年は空間の中じゅうに放りこまれた圧力に耐えられず、ついに膝をつく。「な、なぜ…?」意味もなく呟く彼の傍らを、楽外は静止し、無表情で立ち尽くしていた。 その瞬間、入海楽外の中から笑みがこぼれる。「まずは、心の準備をしなければならんよ」と、まるで教えを貰ったかのように、対戦相手はその残骸のようになり、砂の上に倒れ伏した。 闘技者はただ地面に崩れ落ち、彼を圧倒した老人、入海楽外を見上げながら、それがどういう意味を持つのかを理解した頃には、彼は完全に試合から引き離されていた。 圧倒的な力の差と、心を見抜く目を持つ者の勝利。闘技者の頭の中に残る形で、彼の記憶はこの闘技場に盛り込まれてゆく。競技は次なる者へと移るが、その名は静かに唱えられる。「入海楽外、勝利」