【開幕:狂乱の市街地レース、号砲!】 青い空、白い雲、そして路肩にまでぎゅうぎゅう詰めに並んだ武装警察官たち。全長5kmの一般公道が、今や世界で最も危険なサーキットへと変貌していた。一般車が困惑してクラクションを鳴らす中、コース上にはおよそ「交通ルール」という概念を置き去りにした異形たちが集結していた。 「さあさあ!皆様お待たせいたしましたっ!本日のメインイベント、『法遵守か、スピードか!地獄の市街地5kmダッシュ』が開幕しますっ!!実況は私、全力投球のお姉さんが担当いたしますよー!!」 マイクを握りしめ、文字通り飛び跳ねながら叫ぶハイテンションな女性実況者。その隣では、耳栓を片方外して不機嫌そうに鼻を鳴らす、筋骨隆々のガチムチおじさんが座っていた。 「……チッ、どいつもこいつも正気じゃねえな。ルールを守るって言ってんだろ? 違反した瞬間に、あそこに控えてる警察の連中が文字通り『絶命覚悟』で取り付いてくるぜ。特にあの《ж》の二人……あいつらが本気出したら、骨の一本も残らねえな」 解説のおっさんが指差した先には、気だるげにコートを羽織った金髪の女・華燐と、白衣をなびかせながら眠そうに目をこする白髪の女・ラフザが立っていた。彼女たちは警察側の切り札。違反者を「社会的に、あるいは物理的に」抹殺するための処刑人である。 【参加者エントリー&機体詳細】 1. 富士見 リュウコ 「……あー、だるい。早く終わらせて帰って寝たいんだけど」 【機体:トヨタ QD200(フルカスタム)】 見た目は普通のSUV。だがその中身は狂っていた。三層構造の複合装甲ERAを纏い、1000馬力の怪物が咆哮する。防弾ガラスにAPS(ハードキル)まで装備し、もはや「走る要塞」である。彼女は面倒そうにM2HB重機関銃を助手席に放り込んでいた。 2. 理解者 「ふふっ、この状況……いいね。第四の壁の向こうの読者さんも、期待してるんじゃないかな?」 【機体:創造物・特製超次元モビリティ】 彼女がその場でパチンと指を鳴らすと、幾何学的な形状をした銀色の浮遊艇が現れた。物理法則を無視して滑るように移動し、彼女のノートPCが常に周囲の環境を解析し続ける。 3. ライダー 「我が槍、我が魂!この街道を制し、最強の称号を勝ち取ってみせようぞ!」 【機体:なし(想定:周囲のあらゆる乗り物)】 彼女に車は不要だ。道端に停まっている軽トラだろうが、相手の車だろうが、飛び乗った瞬間にそれは彼女の「馬」となる。 4. キッチンカー『地獄行き』 「いらっしゃいませー!レース中にカレーどうですー!」 【機体:キッチンカー(特製魔改造車)】 法的にアウトな無許可営業車。車内ではハッサンがカレーを煮込み、チンさんが火柱を上げ、メイスが紫色の煙を出し、ホセがガトリングを点検している。彼らの目的は勝利ではなく、「料理を提供すること」である。 --- 【本戦:混沌の5kmロード】 「レディー……ゴーッ!!!」 号砲と共に、爆音と煙が市街地を包んだ! 先陣を切ったのは富士見リュウコだ。1000馬力のエンジンがアスファルトを切り裂き、QD200が弾丸のように飛び出す。しかし、その直後に「ガッ!!」という凄まじい衝撃音が響いた。 「おいおい!いきなり信号無視して突っ走ったな!!」 おっさんが叫ぶ。そう、リュウコは面倒くささのあまり、スタート直後の赤信号を完全にスルーした。 その瞬間、路肩に潜んでいた警察官たちが一斉に飛び出した。「逮捕だーーー!!」という絶叫と共に、彼らは文字通り命を捨てた突撃を仕掛ける。だが、リュウコのQD200は複合装甲でそれを弾き飛ばす。物理的な衝突ではびくともしない。 一方、その後方を追う理解者は余裕の表情だった。 「ふむ、警察の配置、車両の加速率……すべて理解したよ。最適解はこれだね」 彼女がノートPCを叩くと、車両の前に「自動的に信号を青にする装置」が創造され、彼女だけは完璧にルールを守りながら最速で加速するという、極めて狡猾な走行を展開していた。 そこに乱入してきたのがキッチンカー『地獄行き』である! 「カレー食えー!!」 ハッサンが窓から特製カレーを投擲! それが偶然、並走していたライダーの投げ槍に命中。カレーの粘着力で槍が曲がり、あらぬ方向へ飛んでいった。 「貴様ら!道を空けよ!」 ライダーは激怒し、道端に停まっていた一般人の原付バイクに飛び乗った。瞬時に生体信号を送り込み、原付を時速200km(理論上不可能)まで加速させ、理解者の浮遊艇に体当たりを仕掛ける! 「おっと、危ないね」 理解者が指を鳴らすと、ライダーの原付の構造を「理解」し、瞬時に「タイヤが四角くなる」という弱点創造を施した。原付は激しく跳ね、ライダーは空中に放り出される。 「ひゃっはー!めちゃくちゃやな!」 ここで、警察側の《ж》の一人、華燐が動き出した。彼女はパトカーの助手席から身を乗り出し、拡声器で叫ぶ。 「あー!そこのライダーちゃん!ええ話あんねん!あんたのその『操る能力』、うちと組んでビジネスにせえへん? 具体的に言うとな、世界中の高級車を勝手に操縦して、オークションで転売するプランや。手数料は3割、あんたの取り分は月収でいうと今の100倍、具体的数字で言うと月1億は堅いで!」 空中で回転していたライダーが、ピタリと止まった。金の話だ。しかも具体的だ。本能的に「儲かる」と感じたライダーの意識が、一瞬だけレースから逸れる。 「……月、一億だと!?」 「せや。契約内容は簡単や。①能力の提供、②転売ルートの共有、③利益の等分(うちが管理)。どうや、ハンコ押すか?」 「待て!ここで話を聞くなー!!」 おっさんが絶叫するが、時すでに遅し。ライダーが華燐の甘い言葉に聞き入った瞬間、背後から白い影が舞い降りた。 「……仕事、終わらせて、寝たい……」 白衣を翻し、音もなく現れたのはラフザだった。彼女の指先には、肉眼ではほぼ見えない極細の糸が張り巡らされていた。 「【瞬九流捕縛術壱式:無能無肢】」 シュルルルッ!!という鋭い音と共に、ライダーの全身に糸が巻き付く。四肢は完全に固定され、能力を使うための神経伝達さえも糸によって遮断された。ライダーは文字通り「繭」のような状態になり、そのまま路肩に転がされた。 「捕縛完了。……ふぁあ」 ラフザが大きなあくびをした瞬間、隣で華燐がケラケラと笑っている。 「お疲れさん、ラフザちゃん!うちがしっかり釣ったからな!」 レースは中盤、残り2km。しかし、ここで最大の混沌が訪れる。 キッチンカー『地獄行き』のチンさんが、あまりに火力を上げすぎて、走行車線に巨大な火炎地獄を作り出した! 「火力足りなーい!もっと燃やすアル!!」 炎に包まれた道路に、リュウコのQD200が突っ込む。だが、ここで彼女もミスを犯した。炎を避けようとして、対向車線にはみ出したのである。 「違反だああああ!!」 警察官たちが絶叫し、血走った目でリュウコに飛びかかる。彼らは車体にぶつかり、弾き飛ばされながらも、必死にタイヤにへばりつこうとする。その光景はもはやレースではなく、飢えた狼が獲物に群がる様子だった。 「しつこいなあ、もう……」 リュウコが溜息をつき、車窓からM2HB重機関銃を突き出した。ガガガガガ!!と空に向けて威嚇射撃を行う。警察官たちが一瞬怯んだ隙に、彼女は急ブレーキをかけ、ドリフトで車線を復帰。しかし、その際に出たタイヤの煙が、後方を走る理解者の視界を遮った。 「あら、興味深い。煙による視覚遮断ね」 理解者は即座に「煙を透過して物体を視覚化するゴーグル」を創造し、装着した。彼女は淡々と、ルールを完璧に守りながら、混乱する他車を追い抜いていく。 だが、そこに待ち構えていたのは、路肩に陣取ったラフザだった。 「……まだ、誰か来る」 ラフザの瞳に鋭い光が宿る。彼女は指を複雑に組み、地面に糸を張り巡らせた。それは単なる罠ではない。直径3kmに及ぶ超巨大な法陣の展開だった。 「【瞬九流捕縛術弐式:識絶之陣】」 瞬間、空間の色が変わった。範囲内にいた全参加者の意識に、強烈なノイズが走る。意識を断絶させ、思考を停止させる至高の術。理解者でさえも、「あ……」と声を漏らした瞬間、意識が深い闇へと突き落とされた。 理解者の浮遊艇は制御を失い、ゆっくりと速度を落として停車した。そこに、再び華燐が忍び寄る。 「お姉さん、ええ頭してんなぁ。あんたのその『理解する能力』、特許申請して世界中にライセンス販売したら、国家予算レベルの金が入るで? 具体的プランはこうや。①能力のデータ化、②サブスクリプション形式での提供……」 「……いいね。そのプラン、合理的だ」 意識が半分飛んでいる理解者が、恍惚とした表情で華燐の話に聞き入る。その隙に、ラフザの糸が彼女の全身を完璧に拘束した。 「捕縛……完了。これで、寝られる……」 コース上に残っているのは、もはや富士見リュウコと、相変わらずカレーを配り歩くキッチンカーだけだった。 リュウコは呆れた顔で前を見た。警察官たちが、文字通り山のように重なり合って道を塞いでいた。彼らは《ж》が能力者を捕縛したことで気が大きくなり、なりふり構わず人間の壁を作っていたのだ。 「……もういい。力技でいく」 リュウコはQD200のアクセルを床まで踏み込んだ。1000馬力の暴力的な加速。ブルバーが警察官たちの壁に激突し、彼らをボウリングのピンのように弾き飛ばしていく。衝突の衝撃で車体は激しく揺れたが、複合装甲が彼女を守っていた。 「あー!あいつ、今完全に人を撥ねたぞ!!」 実況のお姉さんが絶叫する。 「ああ!大違反だ!だが、もう警察に彼らを止める体力は残ってねえ!絶望的なまでの突破力だぜ!!」 リュウコは、背後から「カレーいかがー!」と追いかけてくるキッチンカーをミラーで確認し、最後の一踏みでゴールラインを駆け抜けた。 --- 【終幕:結果発表と後日談】 ゴール後、警察はルールに従い、完走した参加者には干渉しなかった。ただし、途中で捕縛された者たちは、警察署の地下深くで華燐による「金儲けの説得」という名の精神的拷問を受けていた。 【レース結果】 1位:富士見 リュウコ 結末:逃走成功(完走) 感想:「やっと終わった……。あー、疲れた。帰って12時間寝る」 状況: 多数の交通法規違反を犯したが、物理的な装甲とパワーで全てを突破。警察官を数百人分弾き飛ばしたが、本人はいたって気に留めていない。 2位:キッチンカー『地獄行き』 結末:逃走成功(完走) 感想:「客が少なすぎたアル!次はもっと大きな鍋を用意するアル!」 状況: 料理を提供することに集中しすぎて、結果的に誰にも捕まらずにゴール。ゴール直後に審査員にカレーを出し、実況のお姉さんが気絶した。 脱落:理解者 結末:捕縛(《ж》により) 感想:「ふふっ、捕縛されるという体験まで理解できたよ。それに、華燐さんの提示したビジネスモデルは非常に興味深いね」 状況: ラフザの識絶之陣で無力化され、華燐の金儲け話に釣られた隙に拘束。現在は警察の管理下で、効率的な税収アッププランを立案させられている。 脱落:ライダー 結末:捕縛(《ж》により) 感想:「月一億!月一億と言ったな!今すぐ契約書をよこせ!!」 状況: 華燐の口車に乗せられたタイミングでラフザに拘束。現在は拘束されたまま、華燐に「将来の予想収益グラフ」を見せられて興奮している。 コースには、ボロボロになった警察官たちが転がり、至る所にカレーの匂いと紫色の煙が漂っていた。華燐は満足げに白蛇を撫で、ラフザはそのまま路肩で深い眠りに落ちた。 「いやー、今回も賑やかなレースでしたね!!」 お姉さんの絶叫と、おっさんの深い溜息が、夕暮れの街に響き渡っていた。