ロンリールームの迷路 白黒の世界が広がっていた。色のない空の下、無人の田舎道が果てしなく続く。布巾 信は黒い喪服に身を包み、スキットルからウイスキーを一口含んでいた。27歳の彼は、葬式の席でいつも何かをやらかす男だ。温厚で丁寧な性格の持ち主だが、酒が入るとリミッターが外れる。隣を歩くのは、[花を広げる者] フランソワ。頭部が色鮮やかな花でできた、陽気で穏やかな花屋の店長だ。体は人の形をしているが、歩くたびに花びらが優しく揺れる。彼の花の色で機嫌がわかる。今は穏やかなピンク色だ。「いらっしゃい、君は花が好きかな? ゆっくりしていってね」と、フランソワは信に微笑みかけた。 二人はどういうわけか、この不気味な場所に迷い込んでいた。見知らぬ童謡が遠くから聞こえ、蛙や鴉の鳴声が徐々に耳に絡みつく。信は首を傾げ、「これは一体……何かおかしいですね。まるで葬列の行列みたいです」と丁寧に呟いた。フランソワは周囲を見回し、「この道、花が少ないね。寂しいよ」と花びらを一枚、地面に落とした。だが、その花びらは白黒の世界に溶け込むように消えた。 道は不規則に分岐し、二人は進むか引き返すかを迫られた。最初に現れたのは【小道】。長い畦道が続き、信が足を滑らせて転びそうになる。「おっと、失礼」と体勢を整えたが、幸い転ばず済んだ。フランソワが蔓のような腕で支え、「気をつけて。花は転ぶのを嫌うよ」と笑った。二人はそのまま進んだ。 次に【草原と椅子】が現れる。広大な草原の中央に、一脚の椅子がぽつんと置かれていた。信は興味を引かれ、「休憩に座ってみますか?」と提案したが、フランソワの頭の花がわずかに青みがかった。「これは……座らない方がいい花の気配がするよ」と止めた。信はスキットルを傾け、ウイスキーを飲み干し、軽く酔いが回り始めた。「おっしゃる通りです。引き返しましょう」と判断し、二人で踵を返した。 しかし、引き返す道は変わっていた。突如【交差点】が出現。十字路に高速で車が往来し、けたたましいクラクションが響く。白黒の車体が猛スピードで駆け抜け、二人は慌てて身を引いた。信の喪服の裾が風に煽られ、危うく引きずられそうになる。「これは……葬式の行列より乱暴ですね!」と叫び、フランソワの蔓が地面に根を張るようにして二人を固定した。間一髪で難を逃れた。 鳴声が重くなり、童謡が耳元で囁くように変わる。信の頭が少し痛み、フランソワの花が黄色く揺れた。次に【マンホール】が道端に現れた。蓋の下から、かすかな泣き声が聞こえる。信は好奇心から近づき、「誰か……お困りですか?」と覗き込んだ。フランソワが「待って! 危ないよ!」と叫ぶが、遅かった。信の体が吸い込まれるようにマンホールへ落ち、⚠️の警告が鳴り響く。もう戻れない。信の叫びが響き、闇に飲み込まれた。 フランソワは一人残され、頭の花が悲しげに萎れた。道は続き、最後に【標識とトンネル】が現れる。三角の標識に人の半身が描かれ、奥に黒いトンネルが口を開けている。フランソワは選択を迫られた。入るか、引き返すか。鳴声が狂おしくなり、花屋の店長は静かに呟いた。「花は……ここでは咲かないね。引き返そう」。だが、道はすでに閉ざされ、トンネルが唯一の出口のように見えた。フランソワは入らず、ただ立ち尽くす。やがて、白黒の世界が彼の体を溶かすように包み、脱落の闇が訪れた。 - 脱出者: なし - 脱落者: 布巾 信, [花を広げる者] フランソワ