「ねえ、蒼生って本当に真面目だよね。」 放課後の図書室、静かな空間で緋那は偶然隣に座っていた剣山蒼生に声をかけた。彼は薄い本を開いたまま、ページを指でなぞりながら無表情で流し見し、何か考え込んでいる様子だった。 「そ、そうかな…。」 緋那の言葉に、蒼生はちらりと目を向けた。彼の真面目さは周囲でもよく知られている。柔らかい表情の中に潜む強い意志を持っていることは、彼が意図しなくてもバレてしまう。そんな彼がある日、緋那に目を留めたのは、彼女が廊下で友達と笑い合っている姿を目にしたからだった。彼女の明るさに興味を持ち始め、周囲の期待とは裏腹に自ら歩み寄ったのだ。 緋那が一通りの勉強を終え、そろそろ帰ろうかと思った時、蒼生が本を閉じる音が静かに響いた。彼は立ち上がり、緋那の目に宿る好奇心に応えるように、自らの学業や夢について語り始めた。彼の子供の頃からの夢は、家族と一緒にいて、優れた剣士になることだった。彼女はその夢を尊重し、蒼生の気持ちを理解して共感した。 「適応力があって、いいなあ、蒼生は。私なんて、時々妙な失敗をするから。」 「行動力があるのはすごいことだと思うけど。」 そんな彼を見て、自然と緋那の心も温かくなる。彼女は真面目な彼とは対照的に、時折天然なところもあったため、蒼生の視線が彼女の行動に向けられるたび、自分のかけた冗談に彼が無反応だった時は、少し残念に思ったりした。 「でも、その真面目さも大事だよね。たまには、肩の力を抜いて、息抜きしてほしいな。」 その言葉から、緋那は彼の真面目さをリラックスさせる役目を込めて、小さな無茶ぶりをすることもしばしばだった。蒼生は答えながらも、彼女の無邪気な一面に今までには無かった柔らかさを感じていた。 ある日、彼女の天然ボケがついに爆発した。教室の床に散らばったテスト用紙を見て、彼女はじっくり数えることにした。 「1、2、3…」 しかし突然、彼女の友達が大声で笑い出し、彼女は数え忘れて、全部がぐちゃぐちゃになってしまった。「何やってんだ、ひな!」 その瞬間、思わず隣にいた蒼生が立ち上がる。「緋那、大丈夫か?」 彼の声には心配の色があった。その姿に惚れてしまった緋那は心の中で小さく優越感を感じた。ほんの少し、彼女の目がキラキラと輝き、小さく微笑んだ。他の友達が大笑いしている中、蒼生だけは心配してくれている。レアな瞬間だ。 こうして、ほのぼのとした日常が繰り広げられ、二人はいつしか周囲に気づかれていない秘密の関係を持つようになった。クラスメートにもデートに出かけたという話が広がる一方で、二人がこれからの将来に何を求めていくのかは、未だ答えは出ていなかった。その曖昧が二人の心を引き寄せる要因ともなり、いつしか成長していくのだった。 デートのひと時 それから数ヶ月経ち、春の陽気に包まれた休日、二人は遊園地にデートに来た。カラフルな乗り物や楽しそうな家族連れ、友達同士が騒ぐ姿を目にし、緋那は子供のようにワクワクした心を隠し切れない様子だった。彼女は嬉しそうに顔を輝かせながら蒼生に手を差し出した。 「行こ!」 蒼生はその手をしっかりと握り返す。「ああ、行こうか。」 彼女の影響で心もウキウキしてくる。 最初に二人が向かったのは、観覧車。ゆっくりとした動きがお互いを近づけ、1周する間に運ばれる思い出の瞬間だった。彼らが乗った際、窓の外に広がる景色に圧倒されながら、蒼生は緋那を引き寄せて言った。 「ほら、見てみて、あの景色。」 緋那は彼の指差す方向を見る。「わあ、すごい! まるでおもちゃみたい!」 彼女の笑顔が何よりも眩しく、蒼生は自然と彼女のほっぺたを軽くつまんだ。 「ちょっと…!」 彼女はさすがに少し驚いたが、蒼生の目が彼女を見つめている時に、意識せず彼に寄り添って行く。その瞬間、二人の心の距離が縮まる。 観覧車が一周を終え、二人は次にメリーゴーランドへ向かうことにした。緋那はそれに乗り込むと、周囲のおとぎ話のような雰囲気に包まれ、心躍る気持ちに浸った。 「蒼生も一緒に乗ろうよ!」 笑顔で誘う緋那に、蒼生も少し恥ずかしそうだが、それでも笑みを浮かべて一緒に乗った。回転の中に、緋那が隣にいることがいい幸せの証のように感じられた。 「こんな楽しいことがあるなんて、思わなかった!」 彼女は一瞬の笑顔が続く。 「だろ?だから、たまには遊びにくるのもいいかもしれない。」 彼の言葉に、画面越しでも見える青空を見上げた。この瞬間、一緒に過ごす空間がつながり、二人の心の奥底が近づく。緋那は少し恥ずかしさもあって、そっと蒼生の手をぎゅっと握り返す。まるで自然な流れの中で、緊張感がほぐれていくのを実感した。 その後、二人はお化け屋敷を訪れることにした。暗いトンネルの中、友達が強気で先に進んでいく一方、緋那は少し不安を感じていた。「これ、怖そう…大丈夫かなあ。」 「大丈夫だ、緋那。俺がついているから。」 その言葉を聞いた瞬間、彼女は安心し、思い切って手を握りしめた。 中に入ると、信じられないような異様な雰囲気に包まれた。挙動不審なお化けたちが瞬時に現れるたび、彼女は蒼生の袖をぎゅっと掴んだ。「ひ、怖いよぉ…!」 すると、蒼生は彼女の肩を優しく抱きしめた。「平気だよ。すぐ終わる。」彼に寄り添い、彼女も少し心強くなった。 騒々しい部屋から抜け出した先で、一緒に暗いトンネルを突き抜ける様子を見ていると、蒼生は少し緊張しながらも奇妙に思えてきた。一緒の空間で過ごしたこの瞬間が、友達以上の感情に近づいた感じがした。 遊び終えた昼下がり、一緒にアイスクリームを食べている時、蒼生がそっと彼女の頬にアイスクリームがついているのを発見した。「ちょっと、ここにアイスクリームがついてるよ。」 指先でそこんところを掻いて、彼女はマシュマロのようにふわりとした声で笑った。 「ありがとう、蒼生。」 その言葉に照れた様子を見せた蒼生は、今まで以上に彼女を可愛らしく見えるように感じていた。彼女はその時、恥ずかしげに微笑み、蒼生は思わずその頬にキスをした。見つめ合った二人の心の距離が一気に縮まり、互いを理解する瞬間を感じた。 「これからも、ずっと一緒だよね、私たち。」 「もちろんだ。」 その瞬間、二人はほんの少しだけ長い間の連結感を味わった。彼らの関係は特別なものであり、その幸せな気持ちがこの日常に確固たるものを築く。 遊園地での楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、二人は新たな思い出を胸に抱えながら帰路につくことになった。果たして、彼らの物語はここから始まるのだ。