第一章:絶望的な作戦会議と、豪華な地獄への招待状 満月が夜空に居座り、風に舞う桜が残酷なほどに美しい夜だった。そこに集まったのは、およそチームワークという言葉から程遠い、あまりに個性が強すぎる四人の男女である。 「いいですか、皆さん。今回の目的は明確です。この和風屋敷に潜入し、合計一万五千ゴールド以上の価値があるお宝を持ち帰り、生還すること。以上です」 黒いセーラー服を身に纏い、紅い瞳を冷徹に光らせる女子高生、ヨミが淡々と告げる。彼女の傍らには、桜模様の簪が静かに揺れていた。 「お宝だって! ゲーセンの景品みたいなもんかな? よっしゃー! 全部俺がゲットして、レアアイテムコンプリートしてやるぜー!」 猫耳ヘッドホンを揺らし、アサルトライフルを軽快に回す少女、才羽モモイが意気揚々と叫ぶ。その隣では、漆黒の短髪に冷ややかな視線を湛えた青年、アストラが腕を組んでいた。 「……可能性を観測した。この屋敷に潜む『何か』は、我々の想定を上回る不条理を孕んでいる。慢心は死を招くぞ、モモイ」 「えーっ! アストラくんはいつも暗いんだから! 攻略本があれば余裕だって!」 「ふふっ、いいじゃないか! 歴史の闇に埋もれた遺物が眠っているのなら、考古学者として見逃すわけにはいかないぞ! さあ、行こうではないか!」 興奮に目を輝かせ、サバイバルナイフを指で弄んでいるのはミシェル・ブロント。幽霊やオカルトは苦手だと言っていたが、考古学への情熱が恐怖を完全に塗りつぶしていた。 こうして、最強の戦力(?)を揃えた四人は、静まり返った深夜の和風屋敷へと足を踏み入れた。彼らはまだ知らなかった。この屋敷のルールが、「攻撃力」や「魔法」などというステータスを一切無視する、絶対的な「絶望」に基づいていることを。 第二章:視線と絶叫、そして最初のお宝 屋敷の中は、線香と古い畳の匂いが充満していた。廊下は長く、行灯の光が不気味に揺れている。 「まずは、価値が高そうな部屋を探そう」 ヨミが冷静に指示を出す。一行が長い廊下を歩いていると、前方から「ズズ……ズズ……」という異様な足音が聞こえてきた。角から現れたのは、一本の足で立ち、顔の中央に巨大な一つ目を持つ怪物――『ユツワ』であった。 「げっ! 何あいつ! キモい! 撃ち抜いていい!?」 モモイが即座にライフルを構えるが、アストラがその銃口を強引に押し下げた。 「待て! 観測した。あれに攻撃は通用しない。それに……視線を合わせれば終わりだ」 「えっ?」 その瞬間、モモイが好奇心からユツワの目をじっと見てしまった。「うわー、本当に一つ目だ!」 直後。ユツワが凄まじい速度で跳ね上がり、モモイの頭上に拳を振り下ろした。ガシャァァァン! という派手な音と共に、モモイは床にめり込み、白目を剥いて気絶した。 「モモイ!!」 ミシェルが叫ぶが、ユツワは視線を外した他の三人を完全に無視し、再び「ズズ……」と静かに去っていった。これがこの屋敷のルール。視線を合わせなければ無害だが、合わせれば一撃で脱落。あまりにも不条理なルールに、一行に緊張が走る。 「……学習しました。視線を合わせないこと。シンプルですが、最も困難な制約ですわね」 ヨミが冷静に分析し、気絶したモモイを担ぎ上げて歩き出す。その後、彼らは小さな蔵のような部屋を発見した。そこには、金箔が施された古い茶器や、精巧な彫刻の根付が転がっていた。 「おおっ! これは素晴らしい! この茶器だけで三千ゴールドは下らないぞ!」 ミシェルが歓喜して茶器を回収する。さらに、飾り棚から豪華な屏風(五千ゴールド)を発見。これで合計八千ゴールド。目標まであと少しだ。 第三章:不吉な鎖と、暴走するゲーマー 「よし、この調子で次のお宝を――」 ミシェルが言いかけたその時、天井から巨大な影が舞い降りた。それは、太い鱗を持つ巨大な蝮『コゾ』であった。コゾは電光石火の速さで、ちょうど隣にいたアストラの身体をぐるぐる巻きに拘束した。 「しまっ……! 観測が遅れたか」 アストラがもがくが、コゾの締め付けは強固で、脱出は不可能。さらにコゾは、獲物を締め上げる前に「何か」を要求するように、喉をゴロゴロと鳴らした。 「あ、あれ? この蛇、何か欲しがってない?」 意識を取り戻したモモイが、ぼーっと呟く。ヨミがふと、先ほど拾った価値の低い「古びたお守り(100ゴールド)」を思い出し、それをコゾの前に放り投げた。 ズルリ。コゾはお守りを飲み込むと、満足げにアストラを解放した。 「……助かった。だが、この屋敷には法則がない。武器も、能力も、ここではただの飾りだ」 アストラが苦々しく呟いたその時。廊下の突き当たりから、カツ……カツ……という規則正しい足音が聞こえてきた。刀を携えた幽霊『ジュデンキ』である。彼は一定のルートを機械的に往復しており、その視界に入る者は即座に斬り捨てられる。 「あーもう! 怖いのが多すぎるよ! どいてよ! 邪魔だよ!」 イライラが頂点に達したモモイが、ジュデンキの進路に割り込もうとした。アストラが止める間もなく、ジュデンキの刀が閃光となって走る。 ズバッ!! 「あーっ!!」 モモイが再び、見事なまでに一撃で斬られ、派手に気絶した。あまりに不運な連撃に、周囲に静寂が訪れる。 「……モモイさん、あなたという人は」 ヨミが呆れ果てて溜息をつく。しかし、その時だった。気絶していたはずのモモイが、ガクガクと震えながら起き上がった。その額には、真っ赤な怒りマーク(💢)が浮かび上がっていた。 「…………(無言の怒り)」 「えっ、起きたの? モモイちゃん?」 ミシェルが声をかけるが、モモイは一切喋らない。ただ、静かに持っていたライフルを床に捨て、どこから取り出したのか両手に包丁を握りしめていた。覚醒したのである。デスモモイの誕生だ。 第四章:絶望の連鎖と、可能性の果て 「あ、危ない! モモイ、あそこに掛け軸から影が出――」 アストラの警告も虚しく、壁から壁へ高速移動する影『ミドロマ』が、モモイに襲い掛かった。しかし、結果は予想外のものとなった。 ガキィィィン!! ミドロマの鋭い爪が、モモイの頬をかすめる。が、モモイは全く痛がる様子もなく、むしろ「何だこの雑魚は」と言わんばかりの表情で、ミドロマの顔面に包丁を叩き込んだ。 「ええええっ!? 今の攻撃、効いてないの!?」 ミシェルが驚愕する。本来、この屋敷の敵は攻撃不能なはずだ。しかし、ギャグ補正という名の最強の権能を得たデスモモイにとって、ルールの壁などただの紙クズに過ぎない。モモイは無言でミドロマを追い回し、屋敷の壁を突き破らんばかりの勢いで暴れ回った。 その混乱に乗じて、ヨミとアストラ、ミシェルは屋敷の最深部にある「宝物庫」へ辿り着く。そこには、国宝級の「黄金の三種の神器(模造品)セット(一万ゴールド)」が鎮座していた。 「これで合計二万三千ゴールド! 成功だ、早く脱出しましょう!」 ヨミが叫ぶ。しかし、脱出路を塞ぐように、再びユツワとジュデンキ、そして怒り狂ったミドロマ(モモイにボコられた後)が立ち塞がった。 「クソッ、道がない! 全てのルートで、誰かが一撃で気絶する可能性しか見えない!」 アストラが絶望に顔を歪める。観測される未来は全て「失敗」だった。絶体絶命。その瞬間、アストラの瞳から光が消え、底知れぬ意思が宿る。 「死?……否。顛末を決めるのは、いつだって意思だ」 【可能性埒外】発動。世界が許容した「失敗」という答えを拒絶し、アストラは存在しないはずの「生存ルート」を無理やりこじ開けた。 「今だ! 全員、私の導く隙間に飛び込め!!」 アストラの号令と共に、ヨミとミシェル、そして正気に戻って「ええーっ!?」と叫びながら走ってくるモモイが、一斉に玄関へとダイブした。背後からジュデンキの刀が空を切った瞬間、彼らは屋敷の敷地外へと転がり出た。 エピローグ:夜明けの精算 朝日が昇り始めた頃、四人は泥だらけの格好で屋敷の前に座り込んでいた。 「……ふぅ。なんとか生き残りましたわね」 ヨミが乱れた髪を直し、簪を元の位置に戻す。ミシェルは抱えていたお宝の山を嬉しそうに数えていた。 「合計二万三千ゴールド! 考古学者としての名誉と、莫大な資金を手に入れたぞ!!」 「もう最悪ー! 二回も気絶したし、なんか包丁持ってた記憶があるし! 次回は絶対、最強装備でリベンジしてやるんだからー!」 モモイがいつもの調子で騒ぎ立てる。アストラは静かに空を見上げ、深い溜息をついた。 「……二度と、こんな不条理なゲームには付き合わんぞ」 そう言いながらも、彼の口角はわずかに上がっていた。彼らは、最悪の夜を最高の財産と共に乗り越えたのである。 【ゲーム結果】 脱出成功者: ヨミ アストラ 才羽モモイ ミシェル・ブロント 脱出失敗者: なし 集めたお宝総額: 23,000 ゴールド