ロンリールームの迷宮 霧雨が降りしきる夕暮れの田舎道。白黒に染まった世界が、どこまでも広がっていた。刻に生きる者、クルルは黒い傘を差してゆっくりと歩を進めていた。オーバーコートに身を包み、金で装飾されたヴィンテージの時計を手に、頭部が時計の文字盤でできた彼の姿は、この異界に溶け込みながらも異質だった。一方、その隣を歩くのは、真の最強犬。筋肉モリモリのマッチョな体躯に、柴犬の顔が不気味に笑みを浮かべ、常に攻撃的な視線を周囲に投げかけていた。二人は、知らぬ間にこの場所へ迷い込んだ。見知らぬ童謡が遠くから聞こえ、蛙の鳴声と鴉の叫びが混じり合い、徐々に心を蝕むような不協和音を奏でていた。 「ふむ、ここは珍しい場所だな。まるで時間が止まったような……」クルルは紅茶の香りを想像しながら呟いた。争いを好まぬ彼は、ただこの異常な空間の謎を解きたかった。一方の犬は、無言で周囲を睨み、足音一つ立てず進む。その足の速さは、必要とあらば一瞬でクルルを置き去りにするだろう。 道は細く、畦道のように続き、突然現れた小道が二人の前に広がった。長い畦道。片側は田んぼ、もう片側は荒れ果てた草原。童謡のメロディーが頭の中で反響し、クルルの時計の針がわずかに乱れる感覚があった。「この音……精神を乱すな。注意せねば。」彼は相手の表情を読む癖から、犬の笑顔の下に潜む冷静な攻撃性を察知していたが、今は協力する時だ。 犬が先陣を切り、ジャンプ力で小さな窪みを越える。クルルも傘を杖代わりに進むが、道は滑りやすく、うっかり足を滑らせた。瞬間、地面が崩れ、マンホールのような穴が口を開けた。「これは……!」クルルが叫ぶ間もなく、二人は穴の中へ落ちていく。暗闇の中で、泣き声が響き渡った。⚠️の警告が脳裏に閃く――もう戻れない。 穴の底は、再び白黒の道だった。無人の田舎道が続き、鴉の鳴声が重くのしかかる。精神が蝕まれ、クルルの視界が歪み始めた。犬は動じず、予測不可能な動きで周囲を警戒する。「可愛い顔で誘惑するまでもないな。ここは戦場じゃない。」犬は心の中で呟いたが、表情は変わらず笑顔だ。 次に現れたのは交差点。引き返すことを思案した瞬間、十字路が突如出現した。高速で車が往来し、けたたましいクラクションが響く。白黒の世界なのに、車の影は現実の脅威だ。犬の足の速さが活きた。ジャンプと疾走で路地を抜け、クルルも時間固定を発動しかけたが、精神の乱れで集中が切れる。「この場所は、時間を弄ぶな……」二人は辛うじて脱出。 繰り返す道。草原と椅子が現れる。広大な草原に、ぽつんと椅子が一つ。座れば花が咲き乱れ精神崩壊――そんな予感がした。クルルは座らず、犬も無視して進む。だが、童謡の声が大きくなり、蛙の鳴き声が頭痛を誘う。犬の圧が周囲を威圧し、回避を無効化するような空気が漂うが、敵はいない。ただの迷宮だ。 再び小道。転倒の危機。今回は犬がクルルを引きずるように助け、落ちずに済む。だが、精神の疲労が蓄積。鴉の叫びが、クルルの時計を狂わせる。「このままでは……限界だ。」 そして、突然の変化。道が尽き、最後の選択が現れた。【標識とトンネル】。三角の標識に、人の半身が描かれ、奥に黒いトンネルが口を開けている。入れば全身が一瞬で溶ける――そんな絶望的な気配。引き返すか、入るか。 クルルは時計を握りしめ、犬の笑顔を見つめた。「ここで終わる場所ではない。引き返そう。」犬は無言で頷き、背を向ける。二人は来た道を戻り始めた。だが、迷宮は許さない。背後からトンネルの闇が迫り、精神の崩壊が一人の心を折った。 真の最強犬の冷静さが、限界を超えた。笑顔のまま、突然その体が崩れ落ちる。精神疾患の重篤な波が、研究所の呪縛を超え、犬を消滅させた。予測不可能な攻撃パターンも、不死身の頭も、この場所の理に屈したのだ。 クルルは一人、黒い傘を差して道を進む。時間操作のスキルで精神を固定し、脱出の糸口を探す。ロンリールームの出口は、遠くに見えた。 - 脱出者: [刻に生きる者] クルル - 脱落者: 真の最強犬