第一章:不吉なる招待状と黄金の誘惑 深夜。月さえも厚い雲に覆われ、世界がどろりと濁った闇に染まる頃。森の奥深くに鎮座する、古ぼけた、しかし不気味に巨大な屋敷の前に四人の男女が集まっていた。 「アハハハ! 見てよこの空気感、最高にゾクゾクするね! 確かなものなんてつまんないじゃん?」 金色のバニースーツに身を包み、プラットフォームブーツで石畳を鳴らすのは、兎獣人の博徒プレジア。彼女は興奮に目を輝かせ、自分の幸運を信じて指を鳴らしていた。 「……ふむ。この屋敷から漂う瘴気、並大抵のもではないな。だが、お宝があるというのであれば、この我も付き合おうではないか」 高貴な黒のローブを纏い、銀の王冠を戴いた陛下ハルヴィVII世が、宝飾された杖を軽く地面についた。その威厳ある佇まいは、ここがホラーゲームの舞台であることを忘れさせるほどだった。 「おー! 宝物か! 全部私のものにしてやるからな!」 ピエロのような派手な衣装を身に纏い、青と白の髪を揺らして跳ね回るのは高校生のラリ。彼女はすでに戦意に満ち溢れ、周囲を武器に変える機会をうかがっていた。 そして、彼らの中心には――なぜか、白いベビードール姿で、すやすやと気持ちよさそうに眠る美少女、ネムがいた。彼女はここに来る前から眠っていたし、今この瞬間も深い眠りの中にある。 「おい、この子どうすんだよ。運ぶのが面倒だぞ」 ラリが呆れたように言うが、ハルヴィ陛下は静かに微笑んだ。 「案ずるな。彼女には神々の加護がある。むしろ、この不気味な屋敷において、彼女の穏やかな眠りが唯一の救いとなるかもしれん」 彼らの目的は単純。屋敷に潜入し、価値あるお宝を最低15,000ゴールド分集めて脱出すること。しかし、彼らはまだ知らなかった。この屋敷には、物理的な攻撃が一切通用しない、絶望的な「ルール」が支配していることを。 第二章:暗闇の迷宮と「見えない請求書」 屋敷の中は、外から想像していた以上に暗かった。懐中電灯の光が届く範囲だけが切り取られ、その外側には濃密な闇が口を開けて待っている。足を踏み出すたびに、床板が不気味な悲鳴を上げ、冷たい風が首筋を撫でる。 「見て見て! あそこに金色の燭台があるよ!」 プレジアが駆け出した先には、豪華な装飾が施された燭台があった。彼女がそれをひょいと持ち上げた瞬間、ガシャン! という大きな音が響き渡った。燭台を固定していた台座が、不運にも崩落したのだ。 その時だった。天井から、不快な金属音が聞こえた。 「……ギギギッ」 現れたのは、恐竜のおもちゃのような姿をした怪物、ザックだった。ザックは喋らないが、その手には一枚の紙が握られていた。それは「屋敷の修理費・請求書」である。 「げっ、何このおもちゃ! 殴らせろ!」 ラリが勢いよく飛びかかり、その能力でザックを武器に変えようと試みる。しかし、ザックはすり抜けるように逃げ、プレジアが持っていたお宝の横に「請求額:1,000ゴールド」と書かれた札を叩きつけた。 「ええっ!? 持ち出したお宝から引かれるの!? けち! 厳しすぎない!?」 プレジアが叫ぶ。この屋敷のルールは残酷だ。暴れれば暴れるほど、彼らの取り分は減っていく。 そんな混乱の中、ハルヴィ陛下は冷静に周囲を観察していた。彼は気づいた。闇の向こうから、巨大な「顔」がこちらを凝視していることに。 「……来たか」 それは【ブルラエ】。執念深く、一度獲物を定めたら逃がさない巨大な顔の怪物。ブルラエが地響きのような唸り声を上げ、凄まじい速度で彼らに向かって突進してきた。 「わあああ! 逃げて逃げて!!」 プレジアが叫び、全力で廊下を走る。ハルヴィ陛下は杖を振り回して攻撃を試みたが、ブルラエの肌はあらゆる衝撃を無効化した。攻撃力30など、この屋敷のルール前では無意味な数値に過ぎない。 「ラリ! 細い道へ逃げ込め! ここなら逃げ切れる!」 陛下の指示通り、彼らは狭い書斎の隙間に滑り込んだ。ブルラエは巨大すぎるため、その細い道に入ることができず、壁の外で激しくのたうち回り、絶望的な唸り声を上げていた。 第三章:静寂の罠と、不運の連鎖 なんとかブルラエを撒いた一行。しかし、彼らの疲労はピークに達していた。特に、ずっと抱えられていたネムの心地よい眠気が、周囲に伝播し始めていた。 「ふぁあ……なんだか、すごく眠い……」 ラリが欠伸をした。その瞬間、彼女の視界に「それ」が入った。 廊下の突き当たり、ぼんやりと立っている黒い服の幼い少年――【スニーコス】だ。 「あ、子供が……」 ラリがそう思った瞬間、スニーコスがパッと消えた。そして、次の瞬間に彼女の真後ろに現れた。 「ひゃあああ!!」 スニーコスの一撃は、回避不能な速度でラリの背中を捉えた。ラリは悲鳴を上げる間もなく、そのまま意識を失い、床に崩れ落ちた。このゲームのルールだ。敵の攻撃はすべて一撃で気絶させる。 「ラリ! 貴様、しっかりしろ!」 ハルヴィ陛下が駆け寄る。しかし、そこへ追い打ちをかけるように、壁の中から巨大な山のような怪物が現れた。【ロウデット】である。その巨体は廊下の半分を塞ぎ、逃げ道を断った。 「くそっ、運を使い切ったか!? どいてよこのデカブツ!!」 プレジアがダイスを振る。彼女の【フェイト・ルーラー】が発動し、奇跡的にロウデットの視界の外へ回り込むことに成功した。しかし、ロウデットの巨体が壁となって、彼らの退路を完全に塞いでしまった。 絶体絶命。前にはスニーコスが、後ろにはロウデットが、そしてどこからかブルラエの唸り声が近づいてくる。さらに、ザックが「壁の傷」として追加の修理費を請求し始めた。 その時、眠っていたネムが、ふにゃあ……と小さく声を漏らして目を覚ました。 「……ん……ふわぁ……。ここ、どこ……?」 彼女がゆっくりと、目の前にいるスニーコスをジーッと見つめた。 「……きみ、寂しそう……」 その瞬間、不思議なことが起きた。ネムの放つ強烈な「眠りの加護」が、周囲の空気を一変させたのだ。襲いかかろうとしていたスニーコスが、そのままガクンと膝をつき、深い眠りに落ちた。ロウデットまでもが、心地よい静寂に包まれ、壁に寄りかかって寝息を立て始めた。 「……今だ! 氷水を探せ!!」 ハルヴィ陛下の鋭い指示に、プレジアが慌てて近くの棚を漁り、奇跡的に【氷水】を発見した。それをラリの顔にぶっかけると、ラリは「むぎゃあ!!」と叫んで飛び起きた。 第四章:強欲と脱出のギャンブル 「もういい! お宝さえ集まればいいんだろ!」 ラリは半泣きになりながらも、屋敷の奥にある「宝物庫」へと突撃した。そこには、金塊、宝石、古美術品、そしてなぜか「黄金のバニラアイス(超高価)」が山積みになっていた。 「全部持ってけ! 運んで! 運ぶんだ!!」 プレジアの指示で、彼らはなりふり構わずお宝を袋に詰め込んだ。しかし、欲を出せば出すほど、ザックの請求書は増えていく。彼らが豪華な絨毯を汚し、壁を壊しながらお宝を回収したため、請求額は跳ね上がった。 「陛下! もう十分集まったはずです! 早く脱出しましょう!」 ラリが叫ぶ。もはや背後からは、眠りから覚めたブルラエが、壁をぶち抜きながら迫っていた。ロウデットが道を塞いでいるため、彼らは狭い通路を全力で駆け抜けるしかない。 「待て! あの黄金のバニラアイスだけは、ネムに……!」 プレジアが欲を出して戻ろうとしたが、ハルヴィ陛下が彼女の襟首を掴んで強引に引きずった。 「強欲は身を滅ぼすぞ、博徒よ! 今こそ脱出だ!!」 彼らは崩落する屋敷の玄関へと転がり込んだ。背後からブルラエの巨大な口が彼らを飲み込もうとした瞬間、彼らは外の冷たい夜気に飛び出した。同時に、屋敷の扉がガチャンと閉まり、内側から凄まじい咆哮が聞こえたが、彼らはもう安全な場所にいた。 「……ふぅ。死ぬかと思った……」 ラリが地面に大の字に寝転がる。プレジアは集めた袋の中身を確認し、ガッカリした顔をした。 「あーっ! ザックの野郎に修理費を引かれすぎて、思ったより少なくなってるー!!」 しかし、計算してみると、最低ラインの15,000ゴールドはギリギリ超えていた。彼らは、お互いの顔を見て、そしてまだ眠り続けているネムを見て、同時に吹き出した。 --- 【リザルト】 脱出成功者: 陛下ハルヴィVII世 ネム 金色の博徒 プレジア・ゴールドラッシュ ラリ・アイド 脱出失敗者: なし 集めたお宝総額: 18,400ゴールド(ザックによる屋敷修理費の請求額 7,600ゴールドを差し引き後の純利益)