秋の深まりとともに、東洋の険しい山々に囲まれた秘境に、一軒の老舗旅館がひっそりと佇んでいた。名は「栄愛之湯」。紅葉が燃えるように山を彩り、澄んだ空気が心地よい季節。そこへ、奇妙な縁で同行することになったABチームの面々が訪れる。 ティーダは水色の剣を背負い、「いやぁ、景色最高っすね!」と軽く跳ねながら山道を歩いていた。その隣では、草凪蓮が立ったまま半分寝ている。気配に敏感な彼は、意識が混濁しながらも、太極拳のような緩やかな足運びで、驚くほど正確に目的地へと向かっていた。 一方、チームBのスピッキーは、なぜか道端に落ちていたカボチャに「こんにちは、友達!」と話しかけながら歩いていた。その後ろを、白髪ポニーテールの美少女、じんちゃんが、退屈そうに、しかし光のような速さで周囲を警戒しながら付いてくる。 旅館に到着し、古びたが手入れの行き届いた玄関先で、彼らを迎えたのは腰の曲がったが眼光の鋭い経営主の婆さんだった。 「おやおや、賑やかなこと。予約の確認をさせておくれ」 婆さんのチェックインの手続きの間、ティーダは「ここ、いい雰囲気っすね!」とあちこちを覗き込み、スピッキーは婆さんの格好を真似て、急に l字型の腰つきで「うんうん、いいですね」と頷き始めていた。蓮は相変わらず立ったまま微睡んでおり、じんちゃんだけが「お腹空いた」と無邪気に呟いていた。 男女別の大部屋に分かれた後、一行は和気藹々と雑談に花を咲かせた。 男部屋では、ティーダが蓮に「蓮さん、本当によく寝れますね。どうやったらそんな風に立てながら寝れるんすか?」と疑問をぶつけていた。蓮はゆっくりと目を開け、「……波長を合わせて、意識を外に逃がしているだけです。ティーダさんは、もっと肩の力を抜いたほうがいい」と穏やかに答える。ティーダは「余裕っすねぇ」と笑いながらも、消えた父親や故郷への思いをふと口にし、蓮はそれを静かに聞き届けていた。 女部屋では、スピッキーがじんちゃんに「ねえねえ、じんちゃんはカボチャ粥食べたことありますか? でも食べちゃダメですよ、友達ですから!」と熱弁していた。じんちゃんは「えー、美味しそうじゃん。でも、私は斬る方が得意かな」と、腰に差した二本の刀を愛おしそうに撫でている。Dカップの曲線美を強調する浴衣姿で、じんちゃんは「結婚してるから、食事は適当でいいんだけどね」と、さらっと衝撃的な事実を告げ、スピッキーは「なるほど! 夫婦の絆はカボチャの絆と同じですね!」と的外れな結論に達していた。 そして、待ちに待った夕食後のひととき。男女別々に、しかし同じタイミングで、彼らは貸切の露天風呂へと浸かっていた。目の前には、夜の闇に浮かび上がる鮮やかな紅葉。湯煙の中で、心身ともにリラックスした時間が流れていた。 だが、その静寂は唐突に、暴力的な殺意によって切り裂かれた。 「――死ね」 冷徹な声と共に、男風呂の壁を突き破り、漆黒の衣を纏った美青年――暗殺者「黒月を載く終焉の刃」が襲撃した。彼は一切の予備動作なく、神域の暗殺術をもってティーダと蓮を抹殺せんと短剣を突き出した。その衝撃波と攻撃の余波により、男風呂と女風呂を隔てていた伝統的な竹垣が、派手な音を立てて全壊した。 「ぎゃあああああ!?」 ティーダが悲鳴を上げる。同時に、竹垣の崩落によって、男風呂のティーダ・蓮と、女風呂のスピッキー・じんちゃんが、文字通り「丸見え」の状態に。現場は大混乱に陥った。 「な、なななな何なんだよこれ! ヤバいっす!!」 ティーダが慌てて体を隠そうとするが、足元の濡れたタイルに足を滑らせ、「どしゅっ!」と激しく転倒。運悪く、その拍子に隣で転んでいた蓮の脚に絡まり、二人してもつれ合う。さらに、混乱して飛び出してきたスピッキーが、滑ったティーダの背中に乗り、そのままじんちゃんの豊かな胸元へとダイブする形となった。 「わお! 柔らかい友達です!」 「ちょっと! 何してんのよー!」 じんちゃんが反射的に刀を抜こうとしたが、足元がぬるぬるとしており、バランスを崩して水没。激しく水しぶきを上げる。そこに、冷徹な暗殺者が「冥夜符・終焉ノ帳」を展開し、無数の黒刃を放った。 「くっだらねぇなんだよそれ! 馬鹿馬鹿しい!」 ティーダが水色の剣を振り回し、必死に黒刃を弾くが、濡れた床で足が滑り、攻撃の軌道が大きくズレた。その剣先は、ちょうど立ち上がろうとしていた蓮の尻をかすめる。「あうっ」と小さく声を漏らす蓮だったが、ここぞというところで「背水の陣」を発動。妖怪本来の力を解放し、鋭い波動弾を連射した。 「危ないっす!」 ティーダの叫びと共に、蓮の波動弾が暗殺者を襲うが、暗殺者は認識不能の速度で回避。しかし、その回避先には、ちょうどもつれ合って転がっていたスピッキーの「かぼちゃ魔法」が炸裂していた。爆発したカボチャの破片が暗殺者の視界を遮り、そこにじんちゃんが「十二刀流・疾風斬」で割り込む。 ガガガガッ!! 光よりも速い斬撃が放たれたが、あまりに床が滑りすぎていたため、じんちゃんは慣性で制御不能となり、そのままティーダと蓮の上にダイブ。四人が巨大な「人間ボール」となって、露天風呂の湯の中で回転し始めた。そこに暗殺者が【禁符】「黒月夜行」で追い打ちをかけようとしたが、回転する人間ボールの遠心力で飛び出したティーダの靴が、暗殺者の顔面にクリティカルヒットした。 「……っ!?」 冷静沈着な暗殺者が、人生で初めて「靴」という不潔な物体に顔を撃たれ、一瞬の隙が生じる。そこを逃さず、蓮が「終月脚」を叩き込み、さらにじんちゃんがもつれ合いながらも放った「二十刀流・轟炎斬」が、暗殺者を真正面から焼き尽くした。 「お、お前なんなんだよ! ここは風呂だっての!」 ティーダが叫ぶ。暗殺者は、濡れた床で滑って体勢を崩したところを、全員の集中攻撃(および物理的な衝突による事故的な打撃)を受け、ついに意識を失い、湯船に沈んで敗北した。 戦いが終わり、静寂が戻った。しかし、そこには全壊した竹垣と、男女が入り乱れて湯船に浸かり、互いの肌を密着させた状態で固まっているという、なんとも言えない、気まずすぎる光景が広がっていた。 「……あー。えーと。あはは……」 ティーダが頬を赤らめながらゆっくりと離れる。じんちゃんは呆れた顔で髪を払い、スピッキーは「いいお風呂でしたね」と無邪気に笑っていた。蓮だけが、悟りを開いたような顔で天井を見上げていた。 その後、彼らは共同作業で、壊れた竹垣をなんとか修復した。釘を打つティーダ、波動で材木を固定する蓮、カボチャのツルで補強しようとするスピッキー、そして手際よく結び目を作るじんちゃん。完成したのは、どこか歪で、しかし頑丈そうな、奇妙な形状の垣根だった。 彼らは総出で婆さんの元へ向かい、深く頭を下げた。 「本当に申し訳ございませんでした!!」 婆さんは、ボロボロになった彼らの姿と、妙に補強された垣根を見て、「……まあ、いいだろう。若いもんは元気でいい。次はもっと静かに楽しんでおくれ」と、呆れ顔で許してくれた。 その夜、それぞれの大部屋に戻った彼らは、布団の中で考え込んでいた。 ティーダは、自分の不器用さと、不意に触れた異性の体温、そして正体不明の敵の恐怖を思い出し、「……明日こそは、ゆっくり寝たいっす」とため息をついた。 蓮は、自身の波動が乱れたことに気づきながらも、賑やかな騒動にどこか心地よさを感じていた。じんちゃんは、自分の刀が滑った屈辱を噛み締め、スピッキーは「また友達を増やしたいな」と、夢の中でカボチャと踊っていた。 翌朝。チェックアウトを済ませた彼らは、朝霧に包まれた「栄愛之湯」を後にした。 「いやぁ、いい旅だったっすね」 ティーダが快活に笑う。しかし、その心の中には、昨夜の混乱と、誰にも言えない気まずい記憶がしっかりと刻まれていた。じんちゃんは「次はもっと広い風呂がいいな」と独り言を言い、蓮は再び眠りにつきながら歩き始める。スピッキーは、またどこかで新しい「友達」を探してスキップしていた。 それぞれが異なる思いを胸に、彼らは再び、果てしない旅路へと帰路についた。背後には、少しだけ歪な形に直された竹垣が、秋の陽光に照らされていた。