空は濁った鉛色に塗り潰され、太陽の光は厚い雲と降り積もる灰に遮られていた。かつて文明が栄えた都市は、今やコンクリートの骸と、腐敗した肉の臭いが立ち込める墓場と化している。地球を襲った謎のゾンビウィルスは、生存者の希望を絶望へと塗り替え、世界を静寂と絶叫の交差する地獄へと変貌させた。 生き残った者たちは、互いの存在を知らぬまま、この地獄を彷徨っていた。彼らは皆、極限の疲労に苛まれていた。眠りは死と同義であり、わずかな油断が喉元への鋭い牙として突き刺さる。彼らが求めるのは、もはや正義でも名誉でもなく、ただ「明日も生きていること」という残酷なまでの生存本能だけだった。 【エリア:荒廃したコロニー】 錆びついた鉄柵と崩落したビル群が立ち並ぶコロニー。ここは比較的ゾンビの密度が低いとされるが、それでも路地裏には「飢えたものたち」が潜んでいる。 ガガガッ、と不快な金属音が静寂を切り裂いた。地響きと共に現れたのは、鋼鉄の怪物。ソビエトの狂気と技術の結晶、MBT『オブジェクト195』である。車長、砲手、操縦手の三名は、数週間にわたる不眠不休の戦闘で目の下に深い隈を作っていたが、その瞳に宿る不屈の精神は消えていない。 「……目標確認。前方100、歩兵系ゾンビの群れだ。排除する」 車長の冷徹な命令と共に、152mm滑腔砲が唸りを上げた。ドォォォォン! という鼓膜を突き破るような衝撃波が周囲の窓ガラスをすべて粉砕し、着弾地点にいた数十体のゾンビを一瞬で肉塊へと変えた。しかし、ゾンビたちは恐怖を知らない。四肢がねじれ、内臓をぶちまけた個体までもが、執念深く戦車へと這い寄ってくる。 「不気味な連中だ……。30mm機関砲、掃射開始!」 タタタタタッ! と激しい銃声が鳴り響き、接近するゾンビの頭部を次々と弾けさせた。だが、彼らは気づいていなかった。この世界のゾンビは、時間が経つにつれ、生物学的な限界を超えて「進化」していることに。 その時、コロニーの広場に、場違いな姿をした一匹の犬が現れた。『勇者わんこ』である。彼は疲れ切った足取りで、血に染まった剣を杖代わりに歩いていた。 「ハァ……ハァ……。もう、たくさんだワン……」 彼が独り言を漏らした瞬間、建物の影から異常な速度で「何か」が飛び出した。それは皮膚が剥がれ落ち、筋肉が剥き出しになった変異種だった。口からは粘着質な涎が垂れ、瞳は濁った赤色に光っている。ゾンビの動きは、もはや人間のそれではなく、捕食者のそれだった。 「わんっ! 『かたくなる』!」 反射的にスキルを発動させたわんこの体に黄金の光が纏う。変異種の鋭い爪が彼に突き刺さるが、鋼のような防御力に弾かれた。しかし、変異種は怯まない。そのままわんこを押し潰そうと、巨体をぶつけてくる。 「くっ……! 『ためる』……!!」 1分間の静止。死の恐怖が押し寄せる中、わんこは全神経を剣に集中させる。変異種が最後の一撃を繰り出そうとした瞬間、凝縮された魔力が爆発した。 「まじん切りーーー!!」 閃光が走り、変異種の巨体が真っ二つに両断された。だが、周囲からはさらに数百、数千の呻き声が聞こえ始めていた。一人では限界がある。彼は遠くに聞こえる戦車の砲声に、微かな希望を抱いた。 一方、コロニーの地下通路。そこには、物理法則を無視した「絶望」が漂っていた。 霧のような姿をした個体、『Eve』。彼女(あるいはそれ)が通り過ぎるだけで、壁のコンクリートは砂のように崩れ、迷い込んだゾンビたちは悲鳴を上げる間もなく分子レベルで分解されていく。Eveが地面に触れると、黒い触手が脈動しながら地表を覆い、周囲の空気を凍りつかせた。そこにあるのは生命の肯定ではなく、完全なる虚無であった。 その虚無の領域に、一人の女性が歩み寄る。黒髪に青い瞳、冷徹な美貌を持つネクロマンサー、『アニマ』である。 「あなた……他とは違うわね」 アニマは冷たく微笑む。彼女の背後には、彼女が殺し、そして蘇らせたゾンビたちの軍勢が、感情のない目で直立していた。彼女にとって、この地獄は最高の素材が集まる庭に過ぎない。 「私の駒になりなさい。それとも、ただの死体として私の足元に伏したい?」 Eveの触手がアニマを襲う。しかし、アニマは動かない。彼女が使役する魂たちが盾となり、Eveの崩壊の力を肩代わりしては霧散していく。互いに相容れない異能を持つ二者は、静かに、しかし激しく火花を散らした。 そして、天から舞い降りたのは、純白の翼を持つ少女、『【白き堕天使】小雪』であった。 彼女が降り立った瞬間、周囲に猛烈な『エンジェルオーラ』が展開される。その圧力だけで、半径数百メートルのゾンビたちが押し潰され、地面にめり込んだ。彼女の瞳には、慈悲などない。あるのは、この汚濁した世界を浄化しようとする絶対的な意思のみである。 「……あまりにも醜い。すべてを無に帰しましょう」 小雪がオリハルコンのレイピアを軽く振るうと、空間そのものが切り裂かれ、次元の裂け目から白い光が溢れ出した。それは攻撃というよりも、存在の抹消であった。周囲の建物ごと、数千体のゾンビが一瞬で消滅し、そこにはただの「空地」だけが残された。 【運命の邂逅と、絶望への行進】 オブジェクト195の砲声、わんこの叫び、Eveの虚無、アニマの死霊術、そして小雪の浄化。バラバラだった彼らは、磁石に引き寄せられるように、ある一点へと集結した。 そこは、この地獄の根源にして、唯一の希望が眠るとされる場所――【研究所】への入り口だった。 「……協力し合う必要はない。だが、あそこを突破するには数が必要なようね」 アニマが冷酷に言い放つ。オブジェクト195の車長も、ハッチから顔を出し、納得したように頷いた。彼らは互いを信頼してはいない。だが、生き残るという目的だけは一致していた。 彼らが【研究所】の重厚な鋼鉄扉を開けた瞬間、警告アラームが鳴り響いた。同時に、肺を刺すような異様な臭いが漂う。 (空気感染率80%) 「くそっ、ガスマスクを!!」 オブジェクト195の乗組員が叫ぶが、時すでに遅い。研究所の廊下から現れたのは、これまでのゾンビとは比較にならない、皮膚が硬質化した「超進化種」の群れだった。彼らは壁を走り、天井から降り注ぎ、152mm砲の射線さえも回避する超速の動きを見せる。 「ワンワンフラッシュ!!!」 わんこが絶叫し、世界中の犬の力を込めた一撃を放つ。光の奔流が廊下を白く染め、超進化種を吹き飛ばすが、その数に限りはない。絶え間なく、暗闇から赤い目が光り、飢えた咆哮が響き渡る。 小雪が時空間を支配し、敵の動きを鈍らせる。Eveが触手で敵を崩壊させ、アニマが倒れた敵を即座に兵士へと変える。そしてオブジェクト195が、至近距離で152mm砲をぶっ放し、廊下ごと敵を粉砕した。 しかし、戦いは始まったばかりだった。深部へ進むほど、空気中のウィルス濃度は上がり、肉体は蝕まれていく。誰かが噛まれ、誰かが感染し、誰かが消えていく。彼らが辿り着いた最深部で待っていたのは、ウィルスそのものが意思を持ったかのような、巨大な肉塊の化身であった。 血と鉄と魔力が混ざり合う、極限の死闘。生存への道は、あまりにも狭く、険しい。 【結末】 激闘の末、小雪の『終焉支配』と、オブジェクト195の最後の一撃、そしてわんこの『爆発』による特攻が重なり、肉塊の化身は消滅した。同時に、研究所に保管されていたワクチンが全世界に散布されるシステムが作動した。 空を覆っていた灰が晴れ、数年後、世界には再び緑が戻った。生き残った彼らは、もはや戦う必要のない世界で、静かに目を閉じた。 【生存状況】 ・オブジェクト195:生存(車体は大破したが、乗員3名は生還) ・勇者わんこ:生存(『爆発』で瀕死となったが、小雪の力で回復) ・[Eve]:生存(概念的な存在であるため、影響を受けず) ・アニマ:生存(多くの魂を失ったが、本人は無傷) ・【白き堕天使】小雪:生存(世界を浄化し、再び天へと戻る) 結果:世界は救われた。