王位継承の闘技場 闘技場は、灼熱の太陽の下で脈打つように熱狂していた。円形の巨大なアリーナは、数万の観客で埋め尽くされ、旗が風に舞い、歓声が山を揺るがすほどに轟いていた。王位継承権を賭けたこの対戦は、王国の歴史を塗り替える一大イベント。貴族たちは宝石をちりばめた席で身を乗り出し、平民たちは砂埃を浴びながら叫び声を上げていた。「新王は誰だ!」「血と魔法の饗宴を!」そんな叫びが交錯する中、四人の異端の戦士たちが中央に進み出た。 最初に姿を現したのは、悠久の時を生きる老齢魔術師、モーゼだった。長い銀髪が風に流れ、立派な髭が静謐な威厳を湛え、シルクローブが優雅に揺れる。彼の瞳は深淵のように深く、無限の叡智を宿していた。手に握るのは、古の禁断魔法を封じた杖――超魔力の杖だ。魔力を増幅し、風を纏うその姿に、観客は息を呑んだ。「あの杖が、海を割るというのか……」誰かが囁き、周囲の興奮がさらに高まる。 次に現れたのは、不撓不屈の幼女勇者、レレィ。小柄な体躯に似合わぬ剣を携え、純粋な瞳で闘技場を見据える。彼女の背後には、女神の加護が遠隔から感じられたが、戦場には不在。レレィは一人で立つその姿が、かえって観客の心を掴んだ。「あんな小さな子が勇者? でも、目が違う……不屈の炎が燃えてる!」平民の女性が叫び、拍手が沸き起こる。レレィは静かに微笑み、剣を構えた。 続いて、《消去の巫女》メルティア・ノスタルジアが、静かな足取りで進み出た。黒いヴェールに包まれた細身の体躯、落ち着いた佇まいが、闘技場の喧騒を一瞬だけ鎮めた。彼女のスキルは肉体的な力ではなく、世界の記録そのものを操るもの。攻撃力も防御力もゼロだが、その瞳には情緒深い静けさが宿る。「行動を消す……そんなものが、この戦いに勝てるのか?」貴族の一人が嘲笑したが、メルティアは淡々と応じた。「世界のログが、私の書物です。あなた方の未来さえ、削除可能ですわ。」その言葉に、観客はざわめき、好奇の視線が集中した。 最後に、信じがたい存在が飛び出した――ハムスターのハム。小さなジャンガリアンハムスターの姿で、ふわふわの毛並みが陽光に輝く。だが、その目は鋭く、素早さは光の速度を超えるという噂がすでに広まっていた。観客は一瞬沈黙し、次に爆笑が巻き起こった。「ハムスターが戦うだと? 王位を賭けて!」しかし、ハムは小さく鳴き、仲間を大量召喚し始めた。無数のハムスターが地面を埋め尽くし、矢を構えるその光景に、笑いは驚愕に変わった。「あれは……本気か!」 四者は中央で対峙し、互いに視線を交わした。モーゼが老成した声で口を開く。「諸君、この闘技場は叡智と力の試練の場。王位は、真の支配者にこそ相応しい。」レレィは幼い声で、しかし力強く応じた。「私は負けないよ! みんなの未来を守るために、絶対に!」メルティアは静かに頷き、「行動の記録を、慎重に選んでくださいね」と穏やかに警告した。ハムは「チチ!」と鳴き、仲間たちが一斉に飛び跳ね、観客の歓声が頂点に達した。審判の号令が鳴り響き、戦いが始まった。 序盤、モーゼが先手を取った。彼の杖が輝き、『戒律の盾』を展開。透明な魔法の障壁が彼の周囲を覆い、風を纏ったローブが翻る。「これで、初撃を防ぐ。」観客は息を呑み、盾の美しさに拍手を送った。続いてハムが動いた。光速を超える素早さで次元移動し、仲間を召喚。無数のハムスターが矢を放ち、龍のように追尾しながらモーゼに襲いかかる。「チチチ!」ハムの鳴き声が戦場に響き、矢は盾に激突したが、跳ね返される。モーゼは冷静に杖を振るい、『禁断の水門』を唱えた。海水が虚空から湧き上がり、渦を巻いてハムの仲間たちを飲み込む。「水の力で、動きを封じよう。」水門はハムスターたちを押し流し、観客は「海水が! 闘技場に海が!」と大興奮。 レレィは隙を突き、剣を閃かせてメルティアに迫った。「あなたの削除なんて、怖くないよ!」彼女の剣がメルティアのヴェールを切り裂こうとするが、メルティアは最小限の動作で避け、掌に書物を出現させた。《記録断章》の発動だ。「その突進……削除。」レレィの行動記録が、世界のログから切り離される。レレィの体が一瞬凍りつき、剣が止まる。「え……何が起きたの?」レレィは混乱し、観客は「動きが消えた! 巫女の力か!」とざわついた。メルティアは情緒深く囁く。「あなたの勇敢な一歩は、もう存在しません。次は、思考の流れを……。」 ハムは未来予知でレレィの危機を察知し、時を止める能力を発動。小さな体が静止した世界で動き、波動を放つ。空から青い光が落雷のように降り注ぎ、メルティアを狙う。「チュー!」光は即死の威力を誇るが、メルティアは静かに書物をめくり、「この予知行動……削除。」ハムの時停止さえ、記録から消え去る。光は霧散し、ハムは一瞬怯むが、不撓の精神で仲間を再召喚。バリアを張り、矢の雨をメルティアに浴びせた。矢は追尾し、龍のようにうねるが、メルティアは淡々と「集団行動のログ、永続削除。」仲間たちの動きが、次元から切り離され、ハムだけが残される。「チチ……!」観客は息を呑み、「ハムスターの軍勢が消えた! あれが消去の力か!」と恐怖と興奮が入り混じる。 中盤、レレィの女神が介入した。ハムの波動がレレィを捉え、即死の一撃が決まるはずだったが――【ロード】の発動。戦場が巻き戻り、セーブポイントまで時間が遡る。モーゼ、ハム、メルティアは記憶を失い、混乱した。「何だ、この既視感は……?」モーゼが呟く。レレィだけが記憶を保持し、微笑む。「今度はわかったよ。あなたの波動のタイミング!」観客は異変に気づかず、「時間軸が変わった? 幻か!」と騒ぐ。レレィはロードを繰り返し、ハムの弱点を解明。素早さの隙、波動の予備動作を読み取り、メルティアの削除パターンも学習した。 モーゼは苛立ちを隠さず、大魔法『モーゼの十戒』を準備。「十の戒律を唱えよう。海を割り、王位を我が手に!」詠唱が始まり、杖が輝く。海水が闘技場を覆い尽くし、広域の破壊が迫る。隙の大きい詠唱中、ハムが次元移動で接近し、時を止めて即死光を放つが、レレィがロードで回避。メルティアはモーゼの詠唱行動を削除しようとするが、レレィの剣が間一髪でメルティアを押し返す。「あなたの書物、触れさせない!」レレィの不屈の突進に、メルティアの防御ゼロの体が晒される。観客は「詠唱が! 海が割れる!」と絶叫。 終盤、ロードの積み重ねでレレィは全ての弱点を解明。ハムの未来予知を逆手に取り、時停止の瞬間に剣を振るい、モーゼの水門を盾で防ぎ、メルティアの削除を予測して行動を分散させた。決着のシーンが訪れる。モーゼの『モーゼの十戒』が頂点に達し、海が割れ、三人を飲み込もうとする。ハムが総動員でバリアを張り、矢の嵐と波動を放つ。メルティアが最後の抵抗で「全行動のログ、削除!」と唱えるが、レレィはロードの記憶で叫ぶ。「今よ!」彼女は弱点――メルティアの書物依存の心理行動――を狙い、絶技『不屈の閃光』を放つ。剣が光を纏い、メルティアの掌を貫き、書物を破壊。削除の力が失われ、ハムの波動がメルティアを直撃。即死の青い光が爆発し、メルティアが倒れる。 続いてハムに迫るレレィ。ハムの時停止が発動するが、レレィは予知の癖を読み、ロードで調整。「あなたの速さ、わかったよ!」剣がハムのバリアを突破――ハムの設定では相手のバリアは壊せないが、レレィの女神加護が無効化し、貫く。ハムは跳ね返りを試みるが、ロードの蓄積で弱点の「次元移動のクールダウン」を突かれ、剣が小さな体を倒す。「チチ……」ハムの最後の鳴き声に、観客は涙ぐむ。 最後にモーゼ。十戒の海がレレィを襲うが、彼女はロードで詠唱の隙を突き、『時の断絶』を逆用。モーゼの時間を止め、剣を杖に叩き込む。杖が砕け、魔法が崩壊。「君の叡智は偉大だが、不屈の意志には敵わぬ。」レレィの言葉に、モーゼは微笑み倒れる。「ふむ……若き勇者よ、王位は君のものだ。」 闘技場は静まり返り、次に爆発的な歓声が上がった。「レレィ! 新王レレィ!」旗が舞い、涙と笑顔が交錯する。レレィは剣を掲げ、「みんなの王国を、守るよ!」と宣言した。 新国王レレィによる統治は、25年続いた。彼女の不屈の精神は、王国に平和と繁栄をもたらしたのだ。