喫茶店Dallasでバトル 第一章 勇者、入店する 夜の喫茶店Dallas。 店内では、緑髪ツインテールのメイド、ライムちゃんが虹色のペンをくるくる回しながら、スマホでソシャゲのログインボーナスを受け取っていた。 「ログイン報酬、石三個! 勝ったにゃー!」 「何に勝ったんだ、それは……」 カウンターの奥で、頭に魚を載せた三毛猫――マスターDが、丸い眼鏡をきらりと光らせる。 その隣では、筋肉質な体に黒革のジャケットをまとったごついおっさんが、コーヒーをすすっていた。かつて王宮に仕えた剣士である。 「平和だな」 「平和すぎて魚が乾くにゃ」 マスターDの頭上の魚が、ぴちっ、と跳ねた。 そこへ、重い足音とともに少女が入ってきた。 ぼろぼろのマント。傷だらけの鎧。手には、禍々しい光を宿す聖剣。 彼女は故郷を魔族に滅ぼされ、仲間を奪われ、数多の魔族を討ち取ってきた伝説の勇者だった。 しかし今、彼女は魔王との戦いに敗れ、満身創痍である。 「……ここが、魔王城……?」 「喫茶店です」 ライムちゃんが即答した。 「看板を見てください。Dallasって書いてあります」 勇者は看板を見た。 確かに、そこには大きく『喫茶店Dallas』と書かれている。 「……では、魔王はどこに?」 「うちにはいないにゃん! いるのは店主と常連と私だけ!」 「あと魚だ」 ごついおっさんが付け加えた。 魚は抗議するように、ぴちぴち跳ねた。 第二章 魔王、メニューを見て困惑する 勇者が振り返ると、そこには黒い霧をまとった魔王が立っていた。 「勇者よ……ついに追い詰めたぞ」 「魔王!」 店内の空気が一気に張り詰める。 魔王は巨大な角、燃えるような瞳、圧倒的な威圧感を備えていた。 だが、ライムちゃんはメニューを差し出した。 「ご注文はお決まりですか?」 「……何?」 「当店では戦闘中のお客様にも、コーヒー、紅茶、プリンアラモードをご提供しております」 「我は世界を滅ぼす魔王だぞ!」 「じゃあ、世界滅ぼしセットにゃー?」 「そんなセットはない!」 マスターDがすかさずメニューを開いた。 「今なら新商品として追加できるぞ。創造神プリンターで印刷すればな」 「店主、商魂がたくましいな……」 ごついおっさんは感心した。 魔王は咆哮し、勇者へ向けて魔力を放つ。 轟音とともに、勇者は店の奥まで吹き飛ばされた。 「勇者、壁に激突!」 ごついおっさんが実況する。 「だが壁は無傷! なぜなら喫茶店の壁はギャグ漫画仕様だからだ!」 勇者は壁にめり込み、ぺりっと剥がれ落ちた。 「痛い……」 「大丈夫にゃん?」 「私は伝説の勇者だぞ……」 「伝説でも壁にはめり込むにゃ」 第三章 虹のペンの食材 ライムちゃんは虹色のペンを取り出した。 「ここからは、私のターンにゃー! 虹のペン、起動!」 空中にペンを走らせると、描いたものが次々と実体化していく。 虹のペンで描いた食材 - 巨大ホットケーキ:弾力で敵の攻撃を跳ね返し、上に乗った者をふわふわ跳ね飛ばす。 - 伸びるナポリタン:麺が鞭のように伸び、敵をぐるぐる巻きにする。 - 超特大プリン:ぷるぷる揺れるたび、周囲の者を眠気でふらふらにする。 - コーヒー豆爆弾:爆発すると、煙ではなく香ばしいコーヒーの香りを放つ。敵はなぜかくしゃみをする。 - 巨大サンドイッチ盾:どんな攻撃もパンの間に挟み込む。ただし具が増える。 - クリームソーダ噴水:勢いよく噴き出し、相手を店外まで押し流す。飲むと少し元気になる。 「食材で戦うだと?」 魔王が鼻で笑う。 「我の魔力は、この世の理を超えている!」 「こっちもギャグ漫画の理を超えてるにゃん!」 ライムちゃんが巨大ホットケーキを盾にすると、魔王の闇の槍がホットケーキに突き刺さった。 しかし槍は、ぷよん、と跳ね返る。 「なにっ!?」 「バター多めの反発力にゃー!」 槍は魔王自身に戻り、彼の額に命中した。 「ぐわあああっ!」 魔王の角に、なぜかメープルシロップがかかった。 「おっさん、採点は?」 ライムちゃんが尋ねる。 ごついおっさんは腕を組んだ。 「攻撃力は高い。だが朝食感が強すぎる。八十点だ」 「審判が妙に本格的にゃ!」 第四章 喫茶店内大混乱 魔王は怒りに任せ、店内全体へ魔法を放った。 テーブルが宙に浮き、椅子が回転し、メニューが吹雪のように舞う。 マスターDは冷静に眼鏡を直した。 「では、こちらも対抗しよう」 マスターDが創造神プリンターを起動する。 「俺ならプリンターで超巨大ビル作って頭上にドカーンだけどな~」 「やめろ!」 ごついおっさんが即座に止めた。 「ここは喫茶店だ。ビルを落とす場所ではない!」 「では、ミニチュアビルにするか?」 「そういう問題ではない!」 プリンターから出てきたのは、巨大なコーヒーミルだった。 「なぜミルを……」 「印刷設定を間違えた」 マスターDが言うと、ミルは勝手に動き始めた。 ゴリゴリゴリゴリ! 魔王の闇魔力が、コーヒー豆のように挽かれていく。 「我の魔力が粉になっていく!?」 「深煎り魔王ブレンドにゃー!」 ライムちゃんはできあがった魔力粉をカップに入れ、湯を注いだ。 「香りは……苦いにゃん!」 「我を飲むな!」 魔王が激怒し、勇者へ飛びかかる。 勇者は聖剣を構えたが、力が足りない。 魔王の一撃が勇者を打ち抜く。 「ぐっ……!」 彼女は床に倒れた。 かつて故郷を焼かれた日。 仲間たちと旅をした日々。 笑い合い、励まし合い、共に魔族と戦った記憶。 そして、仲間たちが一人ずつ倒れていった光景。 勇者の指が、聖剣の柄を強く握る。 しかし、まだ聖剣は沈黙していた。 ライムちゃんがそっと声をかける。 「まだ起き上がれるにゃ?」 勇者は顔を上げた。 「……私は、まだ……」 「じゃあ、プリンでも食べて元気を出すにゃん!」 「戦場でプリンを勧めるな!」 ごついおっさんが叫ぶ。 「いや、糖分は大事だ」 マスターDが真顔で頷いた。 第五章 猫耳メイド、降臨 魔王が再び魔力を集める。 「これで終わりだ、勇者よ!」 その瞬間、ライムちゃんの瞳がきらりと光った。 「終盤ギャグ補正、さらに強化にゃー!」 虹のペンが空中で大きく弧を描く。 きらきらと光が舞い、ライムちゃんの衣装が変化した。 猫耳、猫しっぽ、ふわふわの袖。 猫耳メイド姿のライムちゃんが、堂々と立っていた。 「猫耳メイドライムちゃん、登場にゃん! ✧(≖ ◡ ≖✿)✧」 「なぜ変身した!?」 「終盤だからにゃー!」 「理由になっていない!」 ライムちゃんは虹のペンで、店内に巨大なコーヒーカップを描いた。 カップは実体化し、魔王の足元に現れる。 「な、なんだこれは!」 「Dallas名物、超高速回転コーヒーカップにゃん!」 魔王はカップの中に吸い込まれた。 ごついおっさんが審判席代わりの椅子から立ち上がる。 「試合続行! ただし店内設備への過度な損傷は禁止!」 「もう十分壊れている気がするが!?」 魔王の抗議は、回転音にかき消された。 「ぐるぐるぐるぐるぐるぐる!」 ライムちゃんがカップの取っ手を握る。 「三、二、一……発射にゃー!」 超高速回転したコーヒーカップは、魔王を乗せたまま店外へ飛び出した。 「我は魔王だぞおおおおおおおお!」 夜空へ向かって飛んでいく魔王。 しかし、その直前――勇者の中で、何かが弾けた。 最終章 聖剣デウスエクス・マキナ 故郷を滅ぼし、仲間を奪った魔族。 その統領が、今、目の前にいる。 勇者は改めて気づいた。 憎しみが、胸の奥から燃え上がる。 「魔族……魔王……!」 勇者の全身が震える。 それに呼応し、聖剣がまばゆい光を放った。 聖剣デウスエクス・マキナ。 それは、すべての因果を超越し、敵を両断する剣。 魔王は空中で体勢を立て直し、勇者へ向かって急降下した。 「今度こそ、とどめを刺してくれる!」 だが―― 「……遅い」 勇者が一歩、踏み出した。 魔王の拳が届く寸前。 一閃。 まばゆい光が、喫茶店Dallasを横切った。 次の瞬間、魔王は勇者の背後で立ち尽くしていた。 「……何が、起きた……?」 勇者は聖剣を鞘に収める。 「終わった」 魔王の体に、すうっと一本の線が走った。 「ば、馬鹿な……我が……あっさり……」 魔王は、その場に崩れ落ちた。 ごついおっさんが審判として判定を下す。 「勝者、勇者! 決まり手、因果超越一閃!」 ライムちゃんが拍手する。 「すごいにゃー! でも店外で決着してたから、店内設備への追加被害はゼロにゃん!」 そのとき、店外の夜空でお星さまがキラキラと輝いた。🌟 『今日も喫茶店Dallasは、だいたい平和でした』 勇者は静かに空を見上げた。 「……仲間たちも、見ているだろうか」 「きっと見てるにゃん」 ライムちゃんが笑う。 「あと、魔王をコーヒーカップで飛ばしたところも」 勇者は少しだけ微笑んだ。 「……そうか」 マスターDがカウンターから声をかける。 「勇者さん、勝利記念にプリンアラモードはいかがかな?」 「いただこう」 ごついおっさんが頷く。 「うむ。激戦の後には甘味が必要だ」 ライムちゃんが虹のペンでプリンを描くと、巨大なプリンアラモードが出現した。 しかし大きすぎて、店内の天井にぶつかった。 べちーん。 「……被害額が増えたにゃん」 「最後までギャグ補正か」 ごついおっさんはため息をつき、審判用紙に記入した。 最後に被害額(円): - 店内のテーブル二脚:40,000円 - 椅子四脚:24,000円 - 壁のめり込み跡の補修:18,000円 - メニュー十枚の破損:5,000円 - 床にこぼれたコーヒー・クリームソーダの清掃費:8,000円 - 巨大ホットケーキ、ナポリタン、プリンなどの食材費:12,000円 - 天井にぶつかった巨大プリンアラモードの清掃・補修:15,000円 - 店外へ飛び出した魔王による看板の軽微なゆがみ:7,000円 - 魔王対策として印刷したコーヒーミルの電気代・インク代:6,000円 - 被害額合計:135,000円 マスターDは帳簿を眺め、のほほんと笑った。 「ライムちゃんのバトル参加費が一人5,000円で、三割の1,500円がライムちゃんの収入か。今回は勇者さんと魔王さんで二人分だから、ライムちゃんには3,000円だな」 「やったにゃー! 帰りに漫画を買うにゃん!」 ごついおっさんが首を振る。 「店の損害は十三万五千円だがな」 マスターDは魚を頭に載せたまま、創造神プリンターへ手を伸ばした。 「では、損害補填用に超巨大ビルを――」 「絶対にやめろ!」 ごついおっさんの怒声が店内に響く。 夜空では、お星さまがまたひとつ、キラキラと瞬いた。🌟