【喫茶店Dallas・昼下がり】 ドアベルが、からんころんと鳴った。 ライムちゃん「いらっしゃいませー! 喫茶店Dallasへようこそ、にゃー! 今日は新作ギャグ漫画も、期間限定グミも、ソシャゲのイベントもぜんぶ盛りだくさんだよ!」 レモンちゃん「お姉ちゃん、接客の案内に趣味を三つも混ぜないで。メニューを先に見せて」 ライムちゃん「はいっ! こちらがメニューです! 虹色ペンでちょっと見やすくしちゃおう、にゃん!」 ライムちゃんが虹色のペンをすいっと走らせると、メニューの文字が立体になって、テーブルの上にぽんぽんと飛び出した。『本日のおすすめ』の文字は小さな旗になり、『プリン』はつやつやのミニチュアになっている。 マスターD「おお、見やすいにゃ。だが、その『特大プリン』はメニューの絵まで実体化しているぞ」 テーブルの上に、皿より大きなプリンがずしん。 ライムちゃん「わー! 絵のほうが先に来ちゃった! これ、注文しなくても食べていいのかな?」 マスターD「経営者としては、注文前の提供は困るにゃ。猫としては、ひと口だけ気になるにゃ」 ごついおっさん「店主が自分の店の規則と食欲で綱引きしてやがる。平和な昼だな……」 レモンちゃん「お姉ちゃん、ペンで出したものは片づけて。お客さんの注文を聞く前に、プリンが店の主役になってるから」 ライムちゃん「はーい! じゃあ、このプリンはみんなで切り分けよう。ほら、虹のペンで小さなスプーンも描いちゃう!」 マスターD「待つにゃ。スプーンまで実体化したら、在庫管理がややこしくなるにゃ」 ライムちゃん「じゃあ一個だけ!」 描かれたスプーンは、なぜか小さな旗を持って現れた。 スプーン「本日のおすすめは、わたしです!」 レモンちゃん「スプーンが自分を売り込んでる! しかもメニューじゃなくて食器!」 ごついおっさん「この店じゃ食器まで接客するのか。昔、王宮で剣を磨いていた頃も、こんなに口の達者な道具は見たことがない」 マスターD「それでは、お客さま。ご注文をどうぞにゃ」 ライムちゃん「わたしは新作グミを食べながらソシャゲのイベント周回したいな。あと、ギャグ漫画の続きも読みたい! にゃー!」 レモンちゃん「お姉ちゃんは店員でしょうが。お客さんの注文を取って」 ライムちゃん「そうだった! えへへ。ご注文をどうぞ、にゃん!」 ごついおっさん「ブレンドコーヒーをひとつ。それと、焼きたてのチーズトーストを頼む」 マスターD「承りましたにゃ。俺は店主だから、いつもの魚のせ店主セット……いや、これは注文じゃなくて俺の昼食だったにゃ」 レモンちゃん「店主が自分の注文をお客さんの伝票に書こうとしてる。経営手腕は高いのに、昼ごはんの境界線はふわふわなのね」 ライムちゃん「わたしはグミをひと袋と、ソーダ! バイト中のおやつは元気の燃料だよ、✧(≖ ◡ ≖✿)✧」 レモンちゃん「お姉ちゃんの分は休憩時間にして。私はレモンティーと、はちみつワッフルをお願いします」 マスターD「はい、注文を確認するにゃ。ブレンドコーヒーとチーズトースト、レモンティーとはちみつワッフル、ソーダとグミ一袋だにゃ」 ごついおっさん「俺の注文はまともだな。今日は何も起きず、ゆっくり食べられそうだ」 ライムちゃん「その台詞、ギャグ漫画だと何か起きる前ぶれっぽいよね!」 レモンちゃん「そういう余計なフラグを立てないの!」 その瞬間、店の奥から「ぴこん!」と音がした。ライムちゃんのスマホに、ソシャゲのログインボーナスが届いたのだ。 ライムちゃん「やったー! 限定スタンプだ! 猫が魚をかぶってるスタンプ!」 マスターD「それは俺の肖像権が気になるにゃ」 ごついおっさん「頭に魚を載せた猫が、肖像権を心配している。実に筋の通った話だ」 レモンちゃん「おっさん、納得するところそこなの?」 ライムちゃん「スタンプをみんなに見せよう!」 スマホの画面を掲げた拍子に、テーブルの上の実体化プリンがぷるんと揺れた。プリンはゆっくり、しかし確かな意志を持つように、テーブルの端へ向かって進み始める。 レモンちゃん「プリンが動いてる! なんで!?」 ライムちゃん「さっきのスプーンが旗で応援したからかな?」 スプーン「プリン選手、ゴールまであと三センチです!」 レモンちゃん「実況しないで止めて!」 マスターD「落ち着くにゃ。戦うようなことではないにゃ。皿をそっと中央へ戻せばよい」 ごついおっさん「そうだな。俺は皿を押さえる。昔の剣士の腕前を、今はプリンの安全確保に使うぜ」 おっさんが皿を両手で支える。レモンちゃんは花の魔法でテーブルに小さな花びらの滑り止めを咲かせ、プリンはぴたりと止まった。 レモンちゃん「花びらのストッパー、完成! これで大丈夫」 ライムちゃん「すごい! レモンちゃんの魔法、かわいくて実用的! にゃん!」 レモンちゃん「ほめるのはいいけど、次からはメニューの絵を実体化する前に確認してね」 ライムちゃん「はーい! 次は『片づけ』の絵を描いて、片づけを実体化しようかな?」 マスターD「それは便利そうにゃ。だが、実体化した片づけが勝手に店を片づけ始めたら困るにゃ」 ごついおっさん「店主、もう少し夢を見てやれ。俺はコーヒーを飲みながら、片づけが自分で働く世界を見守る」 マスターD「では、まず注文された品を運ぶにゃ。夢はそのあとにゃ」 ほどなくして、ブレンドコーヒーとチーズトースト、レモンティーとはちみつワッフル、ソーダとグミがテーブルに並んだ。プリンはみんなで小皿に分けられ、スプーンは旗を掲げたまま、なぜかナプキン立ての横で誇らしげに立っている。 ライムちゃん「おいしい! グミを食べて、漫画を読んで、みんなでおしゃべり。最高の休憩だね、✧(≖ ◡ ≖✿)✧」 レモンちゃん「お姉ちゃん、ソーダを飲みながら漫画を読むのはいいけど、ページにグミを落とさないでね」 ライムちゃん「だいじょうぶ! ほら、しおりを挟んで……あっ」 グミが一粒、漫画のページにぽとんと落ちた。 レモンちゃん「言ったそばから!」 ごついおっさん「漫画の登場人物が、ページの外から『べたべたするな』と怒っているように見えるな」 マスターD「それは気のせいにゃ。だが、グミはきちんと取り除くにゃ」 ライムちゃん「はいっ! このページ、あとで読み返すとグミの跡が物語の重要な伏線に見えるかも!」 レモンちゃん「ただの食べこぼしを伏線にしない!」 店内には笑い声が広がった。大きな出来事は何も起きず、コーヒーは温かく、ワッフルは甘く、会話はにぎやか。Dallasは今日も、平和で少しだけ不思議な喫茶店だった。 しばらくして、レモンちゃんは時計を見た。 レモンちゃん「そろそろ帰ろう。私は明日も学校だから」 ライムちゃん「わたしも一緒に帰るよ! 帰りにグミの新作を見よう、にゃー!」 マスターD「ご来店ありがとうにゃ。お会計はこちらだにゃ」 ごついおっさん「ごちそうさん。また平和な日にコーヒーを飲みに来るぜ」 ライムちゃん「ありがとうございました! また来てね、にゃん!」 レモンちゃん「スプーンの旗は、お店に置いていくからね」 スプーン「次回のご来店もお待ちしております!」 レモンちゃん「最後まで接客するの!?」 【退店時の会計】 - ごついおっさん:ブレンドコーヒー 450円 - ごついおっさん:チーズトースト 650円 - レモンちゃん:レモンティー 400円 - レモンちゃん:はちみつワッフル 600円 - ライムちゃん:ソーダ 350円 - ライムちゃん:グミ一袋 200円 - 小計・支払金額:2,650円