第一章:邂逅と静寂の合図 冷え切ったコンクリートの広場。そこには、国家直属極秘部隊『K-NIGHT』への入隊を夢見る、あるいは野心に燃える約百人の男女が集まっていた。空気は張り詰め、誰もが互いを潜在的な敵として視線で牽制し合っている。そんな殺伐とした空間の中で、異質な存在が二匹いた。 一匹は、真っ白なコックコートを身に纏い、どこか飄々とした空気を纏う猫。もう一匹は、見る者を威圧するほどに巨大な、五メートルを超える巨躯を持つ黒い猫である。 「にゃあ。隣、いいかい?」 料理人猫が、軽やかな足取りで捕食猫の足元に近づいた。見上げるほどの体格差があるが、料理人猫の表情には緊張など微塵もない。 「……にゃ。構わん」 捕食猫は低く地響きのような声で答えた。その金色の瞳は、周囲の人間たちが放つ「恐怖」と「競争心」という名のスパイスを味わうかのように細められている。 「僕は料理人猫。君みたいな大柄な人は、いい出汁が出そうだなあ」 「……料理人か。俺は捕食猫。食う専門だ。お前のような小粒な奴は、一口で消えてしまいそうだな」 不謹慎な会話だったが、二匹の間には奇妙な共鳴があった。周囲の人間たちが「化け物が二匹いる」と戦慄している中で、彼らだけはまるで近所の散歩道で出会ったかのような、穏やかな(あるいは食欲に満ちた)雑談を交わしていた。 「ここに入れば、最高の食材に出会えるって噂だよ。君もそうだろう?」 「ああ。強い奴、速い奴、傲慢な奴……すべてを喰らい尽くしてやりたいにゃ」 その時、広場に設置された巨大なスピーカーから、感情を排した機械的なアナウンスが響き渡った。 『――参加者各位。待機時間は終了した。これよりK-NIGHT入隊試験を開始する。各自、指定された待機エリアから第一試験会場へ移動せよ。遅刻者は即座に不合格とする』 アナウンスが鳴り止むと同時に、集団は一斉に動き出した。競い合うように走り出す人々の中で、料理人猫はひらりと手を振った。 「それじゃあ、試験会場で。君が生き残っていたら、後で何か美味しいものを振る舞うよ」 「ふん、俺が生き残るのは当然だ。お前が料理になる前に、俺が誰かを食い尽くしてやるにゃ」 二匹は別々の方向へ歩き出した。しかし、その足取りはどちらも軽く、これから始まる地獄のような選別を、まるで遊園地へ向かう子供のような心持ちで待ち侘びていた。