彼らの出会いは決して華やかなものではなかった。ある雨の日、街の片隅で開かれていた小さなフリーマーケットでのことだ。人ごみに紛れていると、シアンは一人で商品を眺めている姿に、彼が目を引かれた。 シアンは彼女の特徴的な黒髪をショートにして、冷静沈着な表情を崩さずにいた。その姿は周りの喧騒とは一線を画しており、静けさの中に圧倒的なオーラを放っていた。 「こ、この本、いいよね」 彼女が一冊の古びた本を手に取り、心の中で思っていたことを口にした瞬間、彼はその行動に驚かされた。無口で冷静な彼にとって、人との交流はあまり得意ではない。しかし、どうしてもその少し誇らしげに見える彼女の姿が気に入ったのだ。 「いいって思います?」 彼は気づけば言葉を発していた。驚くべきことに声は冷静さを失っていなかった。彼女の方を向くと、シアンはその本に視線を戻しながら、「今はこの作品が好きなの。ただ、芥川龍之介の作品が秀逸なことは分かっている。」と冷たく呟いた。 冷静な会話が続く中で、彼は少しずつ彼女に惹かれていった。シアンが少しずつ言葉を上げると、彼も心の中で何かが変わり始めているのを感じていた。彼はその冷静さの中に隠された情熱を察知していた。 「私たち、全く違う存在だね。」 少しの間、お互いに言葉を交わすこともなく、静かな空気が漂った。 最初は単なる興味から始まっていたが、彼らの出会いは運命的なものであった。そこから数回の偶然の出会いや、共通の趣味、彼らが持つ同じ空気感に惹かれ合い、お互いに少しずつ心を開くようになった。 それから彼は、シアンを密かに想いながらも、自身の秘密を抱え続けていた。彼の能力“赫夜行”が自分と他者を隔てる壁となっていたからだ。しかし、シアンの持つ冷静さと強さ、さらには少しずつ見せる柔らかさに少しずつ心が解けていった。 互いに近寄っていく中で、彼女は時折見せる優しさに心を奪われ、彼女もまた彼のひたむきさに少しずつ感化されていった。いつしか二人は無意識のうちに、お互いに会うことを楽しみにしていたのだ。 数か月後、定期的に一緒に本を読みながら、小説の中のキャラクターについて語り合うようになっていた。彼らの言葉は時に戦いの話をしたり、時に些細な日常について笑い合ったりと多彩だった。 そして、彼はとうとうシアンに言った。「お前がいるから、俺は少しずつ変わっている気がする。」その言葉の瞬間、シアンは彼の心の中に触れたように感じ、二人の距離は一気に縮まった。 それからは、日の光の中で運命の糸を紡いでいく二人がいた。冷静な彼と、魅力的で無口な彼女との愛は、時に静かに、時に激しく展開されていく。こうして彼らはカップルとなり、様々なデートを重ね、心を開いていくのだった。 --- 今日、彼らはノスタルジックな遊園地でのデートを選んでいた。陽の光がじんわりと暖かく差し込む中で、彼は冷静さを保ちながらも、心の中ではワクワク感を抑えきれないでいた。 「シアン、これ、乗りたい?」 彼は心の中で少し怯えていたが、シアンの反応を伺う。するとシアンが彼を見つめる。「何でもいいわ。でも、少し高い目の乗り物はやめて。」 彼は心の中の期待を抑え、少し不安に思いながら、乗り場に向かう。彼女の意志を尊重しながら、回転するコーヒーカップに乗ることになった。 乗り物が動き出すと、彼は顔を顰めた。シアンはその横で楽しそうに見えた。彼女の笑顔を見ることができて、彼は少し安心した。 コーヒーカップがぐるぐると回転する中で、彼は手を伸ばし、彼女の手を優しく掴んだ。「こうして一緒にいるだけで、楽しいな。」 彼女は少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑みを返してくれた。「私も。意外と楽しんでるのね。」 彼は彼女の言葉に思わず頬が緩む。心の中で彼女との穏やかな日々が流れていく。 コーヒーカップを降りた後、彼らはお互いの手を繋ぎ、一緒に笑い合った。彼女の真っ黒な瞳が輝いて、彼の心は高揚した。 「次はあっちに行こう!」 彼女の指差した方には、メリーゴーランドがあった。彼はその煌めく装飾に導かれるままに歩き出した。 「ここは本当に水のアトラクションが多いね。私、きちんと濡れないようにしないと。」 彼は彼女の囁きに笑い、目を細めた。時折、手を繋ぐことで互いの存在を確かめ合い、彼女の瞳に自らの心昇華を見た。 終了後、彼らは一休みするために屋台でかき氷を買うことにした。彼は自分が選んだ味のかき氷を彼女に見せる。「私も同じ味がいい!」 そんな時、シアンが少し照れたように笑みをこぼす。「いいね。それってお互いの好みが一緒だってことだから。」 「俺たち、やっぱり惹かれあってるんだな。」 彼は彼女の反応を心待ちにしていると、シアンが突然彼の手を包むように掴む。「でも、私たちのこれからはまだ見えない。」 彼女の言葉に彼は改めてその静けさを感じ取る。シアンが語る言葉には薄っすらとした未来への不安が隠れていた。それを理解し、彼は彼女のために少しでも不安を取り去りたいと思った。 「でも今は、俺たちの時間を大切にしていこう。今ここにいるんだから。」 彼女のその瞳は、彼の言葉を受け入れるように微笑む。「そうだね。今は、楽しいことだけ考えよう。」 そうして、二人は再度遊園地の中へ戻っていくのだった。心が通い出し、少しずつ小舟が逆流を始めていた。冷静だと思っていた二人の心の中でも、愛がしっかり芽生え始めていたのだ。 冷たい風が二人の頬を撫で、遊園地は彼らの心を豊かにしていた。彼の強い心と、彼女の静かに流れる強さが今、交わる瞬間になり始めていた。彼にとっても彼女にとっても、この日は特別なものだった。 この日を終えたとき、彼は確信を持てた。「俺たちの未来は決して不安ではない。ただ、この瞬間を大切にしよう。」 そしてその日、遊園地の夜景が美しく輝く中、二人はお互いにそっと近づき、静かに口付けを交わした。 どちらも、静かな喜びを感じながら。 終わり。