(画面は深い紺色の背景に、黄金色の粒子が舞う静謐なオープニング映像。重厚なチェロの音色と共に、落ち着いたトーンのナレーターの声が響く) 【ナレーション】 「自然の驚異か、あるいは異界からの訪問者か。記録に残されたその姿は、気象学の常識を塗り替え、目撃した者の精神を崩壊させるほどの絶望を突きつけました。私たちは、理(ことわり)の外側に存在した『嵐』を、単なる気象現象として片付けることはできません。 今夜、スポットライトを当てるのは、歴史の闇に消えた二つの、正体不明の災害。 ――『Error! Error! "Unknown"』 そして、『unprecedentedTornado』。 形なき恐怖に支配された時代の記憶を、今に辿ります」 (画面が切り替わり、古びたモノクロの記録映像と、デジタルで再現されたシミュレーション映像が交互に流れる。激しい風の音と、地鳴りのような不気味な低音がBGMとして流れる) 【ナレーター】 「まずは、その名すら定義できなかった存在について。記録上、個体名が存在せず、『Error! Error! "Unknown"』とだけ記された怪異。それは、気象観測史上、最大にして最悪の『矛盾』でした。 この存在が現れたのは、今から数十年も前。ある日、突如として地平線に現れたのは、直径4.2キロメートルという絶望的な規模を持つ巨大な竜巻でした。しかし、それは私たちが知る竜巻とは根本的に異なっていました。通常、竜巻は積乱雲という巨大な雲の塔から降りてきます。しかし、この『Unknown』の頭上には、雲一つない快晴の青空が広がっていたといいます。青い空の下に、突如として高さ15キロメートルに達する漆黒の風の柱が突き立っていた。その視覚的矛盾に、当時の人々は神の怒りか、あるいは世界の終わりを見たと言います。 その能力は、物理法則を嘲笑うものでした。本体の風速は時速756キロメートル。音速に近い速度で回転する死の渦は、触れたものすべてを瞬時に塵へと変え、街を地図から消し去りました。さらに恐ろしいのは、その本体から生え出した『3本の触手のような突起』です。風で形成された触手は、まるで生き物のようにうねり、獲物を探して地上を這い回りました。風速320マイルという猛烈な速度で動くその触手は、家屋を根こそぎ引き抜き、逃げ惑う人々を次々と闇の中へと連れ去ったと伝えられています。 当時の軍や魔導研究機関は、この怪異を止めるべくあらゆる手段を講じました。最新の音波兵器、そして国家レベルの強力な魔法攻撃。しかし、それらはすべて無効化されました。触手と本体に組み込まれた未知の特性が、あらゆるエネルギー攻撃を吸収、あるいは透過させていたのです。物理的・魔術的な干渉が一切効かない、完全なる不可侵の領域。それがこの怪異の本質でした。 この存在が単なる自然現象ではないことを決定づけたのは、その『知能』です。竜巻は気圧配置や地形に従うものではありません。しかし、『Unknown』は自らの意志で進路を変え、逃げる人々を追い詰め、あるいは特定の施設を狙い撃ちにするかのように移動しました。それは、気象の皮を被った、巨大な捕食者の振る舞いでした。 最期の瞬間まで、その正体は闇に包まれていました。唯一、その内部構造を解明しようと、自律型観測プローブが竜巻の深部へと投入されました。しかし、回収された映像を見た研究員たちは、一様に腰を抜かし、絶叫したと言います。そこに映っていたのは、風の渦ではなく、底なしの『真っ暗な闇』。そして、時折、生物的な、しかしこの世の誰にも似ていない、耳を劈くような怪物の叫び声が録音されていました。内部は物理的な空間ではなく、異次元の入り口だったのではないか。今なおその説は根強く残っています。 後世、この存在は『観測不能な神罰』として語り継がれました。現代の科学をもってしても、雲なき空に15キロの竜巻が成立する理由は解明されていません。私たちは今でも、快晴の空を見上げるたび、あの漆黒の渦が再び現れるのではないかという、根源的な恐怖に囚われているのです。 そして、この『Unknown』が街を蹂躙していた時期、ある別の記録が交差します。同時期に観測された、もう一つの『異例の嵐』。それが、次に紹介する存在との接点となります」 (映像が切り替わり、今度はより具体的で、しかし同様に不気味な気象データと、被害状況を示す地図が表示される) 【ナレーター】 「二つ目のスポットライト。その名は『unprecedentedTornado』。直訳すれば『前例なき竜巻』。先ほどの『Unknown』が不可解な超常現象であったとするならば、こちらはより『残酷な知性』を持った災害と言えるでしょう。 この竜巻は、藤田スケールで最高ランクのEF5に分類される、文字通りの破壊神でした。直径2キロメートル、高さ3.8キロメートル。風速400キロメートルという猛威を振るい、その周囲には複数の触手がうごめいていました。目撃者の証言によれば、その触手に捕らえられた人間は、絶叫と共に空高くへと引き上げられ、そのまま行方不明になったと言います。巻き込まれた者は、どんな手段を用いても、二度と脱出することはできませんでした。それは、物理的な拘束ではなく、空間そのものを固定するような未知の力によるものだったと考えられています。 特筆すべきは、この竜巻が持っていた知能です。解析の結果、この災害は人間よりも2倍高い知能を有していたと推定されています。単に破壊するのではなく、効率的に、そして確実に『獲物』を狩るための行動パターンを持っていたのです。進路は極めて不規則であり、予測不能な方向転換を繰り返して人々を翻弄しました。そして、本体の傍らには、風速200キロメートルを誇る『衛星竜巻(サテライト・トルネード)』が1つ随伴していました。本体が獲物を追い詰め、衛星竜巻が逃げ道を塞ぐ。まるで熟練の猟犬のように、組織的な狩りを行っていたのです。 この災害による被害は甚大でした。ある一件の襲撃だけで、152名もの死者を出したという記録が残っています。特筆すべきは、ここでもまた、音波攻撃や魔法能力による妨害が一切通用しなかった点です。この点において、『unprecedentedTornado』は、先述した『Error! Error! "Unknown"』と酷似した特性を持っていました。一部の研究者は、これら二つの存在が同一の次元から来た『同族』である、あるいは一つの巨大な意識が分身したものであるという仮説を立てています。 この竜巻が消滅した経緯については、明確な記録がありません。ある日突然、風が止み、そこにはただ、何もかもが消え去った不毛の地だけが残されていたといいます。しかし、生き残った人々が語ったのは、風が止まった瞬間に聞こえたという、冷徹な『笑い声』のような風切り音でした。 現代において、この『unprecedentedTornado』は、単なる気象災害としてではなく、『知的生命体としての自然災害』という新しいカテゴリーで研究されています。もし自然が意志を持ち、人間を敵と見なしたとき、私たちは抗う術を一切持たない。この竜巻が証明したのは、人間が自然の支配者などではなく、単なる『餌』に過ぎないという残酷な真実でした」 (BGMが静かなピアノ曲に変わり、夜の街並みや、穏やかな空の映像が流れる) 【ナレーター】 「正体不明の闇に包まれた『Unknown』。そして、残酷な知能を持った『unprecedentedTornado』。 どちらも、私たちの理解を遥かに超えた存在でした。彼らが何を目的として地上に降り立ち、何を求めて人々を連れ去ったのか。その答えは、今もあの漆黒の渦の中に眠っています。 しかし、一つだけ確かなことがあります。空を見上げるとき、そこにある平和な青色が、実は薄い膜一枚で隔てられた『絶望』の裏返しであるかもしれないということ。私たちは、常にその可能性と共に生きています。 今夜の物語はここまでです。それでは、皆様。どうぞ、穏やかな夜をお過ごしください」 (画面がゆっくりと暗転し、番組のロゴが表示されて終了する)