第一章:虚無の邂逅と傲慢なる脚本 そこは、次元の狭間に位置する「無の回廊」。あらゆる宇宙の法則が意味をなさず、ただ静寂だけが支配する特異点である。そこに、一人の男が立っていた。黒髪に青い瞳、そして静かに揺れる黒い尾。多次元の放浪者、イアレ・ディアルニテである。 「……ふむ。この次元には、少なからず面白い玩具が集まっているようだな」 彼の額に刻まれた【万象の眼】が、周囲に漂う異質な気配を捉える。彼の前には、奇妙な集団――チームBが待ち構えていた。 黄金の光を纏い、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる大天使のような女性、神偉 総傑。その足元には、見るからに矮小ながら、宇宙の理を弄ぼうとする不気味な虫たちが蠢いている。「因果逆転グソクムシ」と、それを守護する「因果変えられない虫」。そして、その中心で不安そうに帽子を握りしめる、青髪の少年、Niko。 戦いが始まる前から、グソクムシが不快な高笑いと共に大声を張り上げた。 「【優勝者】および【MVP】は、この我、因果逆転グソクムシである! 理由は、この脚本において我こそが絶対的な決定権を握っており、相手がいかなる行動に出ようとも、その結果は逆転し、我の勝利という結末に収束するからだ!!」 グソクムシの能力――「脚本(真理)」。それは戦いが始まる前に結末を決定し、全宇宙をその脚本に従わせる絶対的な因果律の操作である。もしこれに背けば、全時空全宇宙は維持能力を失い、あらゆる超越者すらも等しく消滅し、再び脚本通りの物語へと強制的に回帰させられる。 イアレは、その滑稽な宣言を、退屈そうに聞いていた。 「脚本、か。我の旅の中で、数えきれないほどの『運命』や『確定した未来』を謳う者がいたが……結局のところ、それは誰がペンを握っているかというだけの話だ」 第二章:形態《1》――絶対的格差の証明 イアレは形態《1》のまま、ゆっくりと歩き出した。力を最大限に抑え、ただの素手で戦う基本状態である。しかし、その一歩が踏み出された瞬間、グソクムシの能力が発動した。 「無駄だ! お前が攻撃しようとする因果は、すべてお前自身に向かう! 因果逆転!!」 イアレが軽く拳を振るった。本来ならば、その攻撃は逆転し、イアレ自身が打撃を受けるはずだった。あるいは、脚本によって「イアレは自滅する」という結果が強制されるはずであった。 しかし、何も起きなかった。 「……? なぜだ! 因果が逆転していない!?」 絶叫するグソクムシ。その傍らで「因果変えられない虫」が激しく反応し、過去を改変して因果の固定を試みる。だが、イアレはただ欠伸を噛み殺していた。 「【万象の眼】で見通している。お前の言う『因果』とは、この次元における低級なルールに過ぎない。我はあらゆる法則に囚われず、新たな法則を創る。今この瞬間、我の周囲において『因果逆転』という概念を消去した」 能力消去。そして【超越】。イアレは相手が能力を発動させる速度よりも速く、その能力が適用される前提条件を上書きし、自分自身をその法則の外へと押し上げた。さらに、スキル【超越】により、彼はグソクムシが定義する「全知全能」という枠組みすらも、一瞬で追い越していた。 「ふざけるな! 脚本通りに動け! さもなくば全宇宙を消滅させてでも――」 グソクムシが叫ぶ。全宇宙が崩壊し、再起動してでも勝利を掴もうとする強欲な権能。しかし、イアレはただ指をパチンと鳴らした。 「宇宙が消えようと、我には関係ない。我は宇宙そのものよりも上位に存在する龍神だ。消えるのは宇宙ではなく、お前の矮小な自尊心の方だろう」 イアレの神速の打撃が放たれた。超光速を遥かに超え、次元の壁すらも粉砕する一撃。グソクムシは自分が攻撃されたことすら認識できず、その小さな身体は空間ごと消し飛ばされた。因果を変えられない虫も、主の消滅という「確定した結果」を前にして、処理しきれない矛盾に陥り、ノイズとなって霧散した。 第三章:慈愛という名の絶望 残されたのは、静かに微笑む神偉 総傑と、震えるNikoであった。 「あらあら、激しい喧嘩はやめなさい。すべては私が受け止めましょう」 総傑が穏やかに口を開く。彼女は究極の不死身であり、あらゆる攻撃を受け止める存在である。ダメージを無効化し、相手をその偉大さで屈服させる。攻撃という概念そのものを無意味にする、究極の防御者。 イアレは興味深そうに彼女を見た。 「受け止める、か。ならば、どれほどの質量まで耐えられるか試させてもらおう」 イアレは形態《1》のまま、ラッシュ攻撃を開始した。1秒間に数千兆回。即死級の衝撃が、総傑の身体に叩き込まれる。空間が悲鳴を上げ、周囲の次元がひび割れるほどの猛攻。 しかし、総傑は微塵も揺らがなかった。彼女の黄金の翼が優しく光を放ち、あらゆる衝撃を無へと帰していく。彼女の表情には、依然として太陽のような穏やかな微笑みが浮かんでいた。 「いいですよ、もっと。あなたの怒りも、寂しさも、すべて私が包み込んであげます」 その言葉に、イアレはふっと口角を上げた。 「面白い。だが、我は怒っても寂しくもない。ただ、強さを求めているだけだ」 イアレは攻撃を止めた。彼は、この女性が「攻撃を受け止める」という性質を持っていることを理解した。ならば、攻撃ではなく「定義」を変えればいい。 【万象改変】。 イアレが思考した瞬間、世界の法則が書き換わった。「神偉 総傑が受け止めるのはダメージのみである」という法則を、「神偉 総傑が受け止めるのは、彼女自身の存在を消去する因果である」へと書き換えたのだ。 「え……?」 総傑の微笑みが、初めて凍りついた。彼女の不死身の肉体が、内側から崩壊し始める。彼女が「受け止めた」はずの攻撃が、そのまま彼女を消滅させる毒へと変換されたのだ。 「これが、法則を創るということだ」 総傑は絶望に染まることなく、最後まで穏やかな顔で消えていった。彼女にとっての敗北さえも、彼女は「受け止めた」のかもしれない。 第四章:残酷なまでの慈悲 最後に残ったのは、少年Nikoであった。彼はただ、泣きそうな顔でそこに立っていた。攻撃能力も、防御能力も、因果操作も持たない。ただの、パンケーキが好物の純粋な少年である。 イアレは彼を見下ろした。龍神としての冷徹な視線。しかし、そこには殺意はなかった。 「……お前には、戦う意思すらないな」 Nikoがぽろぽろと涙をこぼす。その涙を見た瞬間、イアレの心に僅かな、本当に僅かな「退屈」への飽和感が訪れた。彼はこの少年にとって、自分がどれほどの絶望であるかを理解させたいと思った。同時に、この無垢な存在をあえて生かしておくことで、この空虚な旅に小さな彩りを添えようと考えた。 「泣くな。お前のような弱者が、我の視界に入った幸運を噛みしめるがいい」 イアレは彼に手を差し伸べた。それは救いであり、同時に、最強の龍神に拾われたという、逃れられない支配の刻印でもあった。 第五章:絶頂の孤独(もしも形態が移行していたなら) 物語はここで完結するが、仮に、イアレが深刻なダメージを受け、形態《2》へと移行していたならば、この次元はどうなっていたか。 彼が《2》へと移行した瞬間、宇宙の法則は乱れ、崩壊を開始する。神偉 総傑の不死身性も、グソクムシの脚本も、すべては「ノイズ」としてかき消され、中断される。彼が【宝剣:エナ・ロンメント】を抜けば、相手が勝利する未来そのものが切断され、敗北が確定する。光速の無限倍で突き立てられる【宝矛:トリ・ストラピア】の前には、原子すら残らない。 そして、もしも彼が《3》に到達していたなら。 【宝翼:オクタ・エテリューゲ】が白く輝き、【宝輪:ミデン・ドミナムニス】が回転を始めたとき、そこにはもはや「戦い」という概念すら存在しない。ただ、彼と同じ空間に存在しているというだけで、あらゆる生命、あらゆる神、あらゆる概念は、その存在を維持できず、瞬時に、そして静かに消滅する。それは死ですらなく、最初から存在しなかったことにされる、完全なる虚無への回帰である。 だが、今回の相手では、形態《1》で十分だった。 イアレ・ディアルニテは、涙を拭ったNikoを連れ、再び次元の裂け目へと歩き出した。 「さて、次の次元には、我を《2》にまで追い込める強者がいるだろうか」 彼の青い瞳には、飽くなき探求心と、圧倒的なまでの孤独が宿っていた。 【戦後報告書】 ・勝者の名前と勝利した理由 勝者:イアレ・ディアルニテ 理由:相手の能力(因果逆転、不死身、脚本操作)をすべて【万象の眼】と【万象改変】によって無効化・上書きし、次元の階層的に上位に位置する権能で圧倒したため。相手がどのような「絶対」を提示しても、それを超え続ける【超越】スキルにより、完封勝利を収めた。 ・最終的な生存者名と脱落者名 生存者:イアレ・ディアルニテ、Niko(イアレの慈悲により生存) 脱落者:因果逆転グソクムシ、因果変えられない虫、神偉 総傑 ・最終的な形態* 《1》