崖の上、夕日がゆっくりと沈みゆく中、その光景はモノトーンの世界のように思えた。草木が紅に染まり、まるで血が滴るような情景。崖の頂にそびえ立つのは、大きな石碑だった。その表面には、かつて多くの者たちの名が刻まれている。その名は、勇敢な戦士たちのものであり、彼らの血がこの大地に染み込んでいるのだ。そこに集う者たちは、戦死者に思いを馳せ、祈りを捧げるためにやってきた。 色とりどりの光が本来の風景を隠し、逆に人々の心に暗雲をもたらす。石碑の周りには、数人の人影が立っていた。 「さーて、また騒がしくなりそうだなぁ」と、明るく軽やかな声が響いた。その声の主は、青髪のウルフヘアを持ち、黒と赤のコートに身を包んだ少女、ヴォーティガーンだ。彼女の言動からは、明るさが滲み出ていたが、その目は冷静かつ冷酷だった。 ヴォーティガーンは、石碑の前に進み出ると、一瞬、静寂が訪れた。彼女は空を見上げ、クールに微笑んでから、周囲を見渡した。「さて、みんな祈る準備できた?」 その瞬間、彼らの後ろから現れたのは、白い体毛の半竜、アラベ・ネームレスだった。彼は人々の心の中の思いを理解しようとしていた。「祈れ、風に」と、彼は冷静に呟く。彼の言葉に促され、皆は一斉に手を合わせた。 ヴォーティガーンは心に決め、手を空に掲げた。風が彼女の髪を煽り、その瞬間、彼女は一気に心を澄ませる。戦死者たちの声が聞こえるような気がした。その声は苦痛にも似た叫び声であり、彼らの思いは決して消えてはなかった。 周囲の者たちは、彼女の行動に続いた。頑丈な腕を持つアラベも真剣に祈りを捧げた。彼は普段は寡黙だが、心の中で自分の過去を思い返し、戦友たちを思い出していた。彼もまた多くの者の人生を知っている。彼の想いは、無数の星々となって祈りへと昇華される。 そのとき、崖の風景に変化が訪れた。緩やかに風が吹き始め、夕日の光が草原に反射して、まるで無数の星が降り注いでくるかのようであった。まるで、光の粒子が波のように揺れ動く様は、戦死者たちの生きた証を称えるかのようだった。 ヴォーティガーンは微笑みながら、心の底から湧き上がる想いとともに、次第にその光に包まれた。「この光が彼らに届きますように」と、彼女は願った。星々のような光が散り、周囲の者たちの心を打つ。アラベもまた、その場にいた者たちも、道の向こうで彼らの名を呼ぶ命の音に耳を澄ませつつ、その瞬間を生きていた。 祈りが終わると、全ての者たちは一つの思いに統合され、静かな幸福感に包まれる。彼らはすべての痛みを軽減できるかのように、穏やかに流れる風に包まれ、互いに目を合わせた。 「さあ、これが彼らの思いだね」ヴォーティガーンが言った。彼女は仲間たちを勇気づけるかのように笑みを浮かべた。それは、彼女自身の心の中にある冷酷な部分を和らげるための一瞬の癒しでもあった。 「この景色を忘れたことはないだろう、俺たちが祈った証は」と、アラベが落ち着いた声でつぶやいた。 崖の上は、誰もがその瞬間を忘れない場所となった。祈った者たちは、大いなる存在に知られるためにただ一つの思いを抱え、彼らの過去に囚われたその時から、一歩踏み出すことができたのだ。 その後、彼らは少しずつ崖を後にし、大地の感触を再び実感し、静かに歩き出した。星は徐々にその姿を消し、代わって夜空が広がる。しかし、彼らはきっと、彼らの心に星が宿り続けていることを知っていた。 かつての血のように赤い日が沈み、真暗な闇が周囲を包む。人々がそれぞれの道を進む姿は、まるで新たな旅路の始まりであるかのようだった。どんな困難が待ち受けようとも、彼らがこの崖で祈りを捧げたことが、これからの道標になると信じていた。 そして崖に立ち尽くし、静まる風の中、再び彼らのもとに思いが溢れ出す。「リグレリオの遺言」それが、彼らの祈りが届いた証だった。 崖の彼方にさようならを告げ、彼らは新たな旅路へと進んでいく。石碑に刻まれた名は、彼らの心の中に永遠に生き続けるのだ。