禁忌の特異点 ―世界戦闘力協会・公開謝罪会見― 世界戦闘力協会(WFC)の সদর office、その最上階にある大ホールは、かつてないほどの緊張感に包まれていた。 正面に据えられた長い白いテーブル。その前で、この組織の頂点に君臨し、世界の戦力バランスを管理するはずの「トップ3」が、畳の上に正座していた。 彼らの背後には、今や絶望的な表情で俯く一般職員たちがずらりと並んでいる。 記者たちのフラッシュが、容赦なく彼らを照らし出した。 「……さて。改めて説明してください。あなた方は、協会設立以来の絶対禁忌である『戦闘力の無限化』を、なぜ敢えて実行したのか」 司会進行を務める監査役の冷徹な声が響く。その視線の先には、白衣を纏い、度の強い眼鏡を指で押し上げる老人、Dr.メジャー。薔薇色のドレスに身を包み、屈辱に頬を染める貴婦人、マダム・スキャン。そして、スポーツウェア姿で、人生で一度も見たことがないほど激しく項垂れている熱血漢、プロフェッサー・ブレイク。 事の始まりは、彼らの「知的好奇心」と「完璧主義」、そして「熱意」が最悪の形で合致したことだった。 「……ふむ」 Dr.メジャーが、静かに口を開いた。正座による足の痺れに耐えつつ、その声は老いてもなお理知的である。 「理論上の数値に限界があるということは、科学的に言って不完全なことだ。私は、魔力や精神論などという不確かなものではなく、数式によって『無限』を定義したかった。そこに、つい……『興味深い』という衝動が勝ってしまったのだ。体は老いても、探究心という名の脳細胞は現役すぎたということよ」 「言い訳をしないでください、博士!」 記者が怒鳴る。すると、隣に座るマダム・スキャンが、扇子で口元を隠しながら、消え入るような声で付け加えた。 「……私はただ、測定不能なほどの輝き、究極の薔薇色を見たかっただけですわ。限界がある美しさは、いつか枯れる。けれど、無限なる力があれば、世界を永遠に、最高に美しく薔薇色に染め上げられると思ったの……。それが、結果として測定器を物理的に破壊し、世界の戦闘力基準を崩壊させるとは……」 彼女のドレスに飾られた薔薇が、悲しげに震えている。美しさを追求した結果、美しくない結果(大混乱)を招いたことへの後悔が滲んでいた。 そして、最後の一人。トップ3の頂点であり、最強の「先生」であるプロフェッサー・ブレイクが、ガバッと顔を上げた。その瞳には、まだ消えない情熱が宿っているが、今はそれが「反省の情熱」に変わっていた。 「……俺が悪かった!!」 あまりに大きな声に、会場がびくりと震える。彼はそのまま、畳に額を擦り付けるようにして深く頭を下げた。 「俺は、生徒……いや、測定対象者が『限界を超えろ!』と言っているように見えたんだ! 諦めない心が無限の力を生む! それこそが最高の教育だと思った! だけど、無限に設定した瞬間、測定器が爆発して、周辺の職員のデスクが全部吹き飛んだ……。これは、教育者として、人間として、熱すぎる間違いだったぜえええ!!」 号泣しながらの謝罪。それは彼のスキル【熱血指導】に近い何かであったが、今の彼には攻撃意図など微塵もなく、ただ純粋な後悔が溢れていた。 「……というわけで」 監査役が冷たく断じた。 「あなた方三人の、知能・美学・熱意が最悪のシナジーを生み、マニュアル第一項一条を完膚なきまでに踏みにじった。無限とは、測定不能を意味する。測定不能な組織に、存在価値はない」 トップ3は、再び深く頭を下げた。 Dr.メジャーは、心の中で(無限を定義した瞬間の計算式だけは、後でこっそり保存しておきたいものだ)と考えていた。マダム・スキャンは、(この正座の姿勢こそが、今の私にふさわしい静寂の美かもしれないわ)と強がっていた。そしてプロフェッサー・ブレイクは、(この反省こそが、次なる成長への第一歩だ!!)と、心の中で激しく拳を握りしめていた。 世界を揺るがせた「無限の禁忌」。その代償は、最強の三人が世界中に見守られながら、足の痺れに耐えて正座し続けるという、至極「人間的」で「有限」な屈辱であった。