虚空の謁見:万象の龍神と絶望の追随者たち それは、次元の狭間に浮かぶ、名もなき白亜の廃都であった。空には星などなく、ただ永劫に続く白銀の霧が漂い、静寂だけが支配している。そこに、一人の男が立っていた。 イアレ・ディアルニテ。多次元を旅し、数多の宇宙をその手で滅ぼしてきた龍神である。黒髪に青い瞳、そして静かに揺れる黒い尾。彼は、退屈していた。強さを求め、あらゆる次元を巡り、あらゆる神を屠ってきた彼にとって、この世に並び立つ者はもう存在しないように思えた。 「……我は、ただ強き者を求めているに過ぎぬ。この次元にも、我を愉しませる玩具はあるのだろうか」 彼の一人称は「我」。その声は静かだが、言葉一つ一つが空間を震わせ、世界の法則を微かに歪ませていた。額に宿る【万象の眼】は、既にこの次元の構造、過去、未来、そしてこれから訪れる「闖入者」たちの運命さえも全て見通していた。 そこに、最初の一人が現れた。崩月白夜である。彼は現実主義的な冷徹さを身に纏い、一切の動揺を見せずに彼と対峙した。白夜の瞳には、生存への執念と、限界を突破しようとする意志が宿っていた。 「……確かな願いが、ここにあるから。Don’t worry」 白夜は静かに構えた。彼は即座に【EX心眼】を発動させ、目の前の男――イアレ・ディアルニテの本質を分析しようと試みる。しかし、彼が見たのは「底のない深淵」だった。分析すればするほど、相手の強さが測定不能であり、論理的な戦術などというものが意味をなさない絶望的な格差。それでも白夜は諦めなかった。 「【太極】……【両儀】……【四象】!」 白夜の攻撃が加速する。【八卦】へと至る連撃。空気が裂け、次元が悲鳴を上げるほどの猛攻が彼に襲いかかる。しかし、彼はただそこに立っていた。形態《1》――力を極限まで抑え、素手で戦う基本状態である。 「ほう。凡夫ながら、そこまで足掻くか」 彼は避けない。白夜の全力の打撃が彼の頬をかすめた瞬間、彼は軽く指を弾いた。ただそれだけで、白夜が積み上げてきた全ての理論、全ての戦術、そして【吉凶】に至るまでのフローが、物理的に「消去」された。 「決める! 【大業】!!」 白夜は絶叫し、最終奥義を放つ。空間を圧砕し、因果さえもねじ伏せる一撃。しかし、彼はそれを左手一本で受け止めた。衝撃波が廃都を飲み込み、周囲の建物が塵となって消え去るが、彼の足元の一寸先まで、衝撃は届かなかった。 「届かない……いや!」 白夜はなおも限界を乗り越え、最終秘義【六十四卦】を繰り出す。それは人生の全てを賭けた一撃だった。しかし、彼は小さく溜息をついた。 「【万象改変】」 彼がそう呟いた瞬間、白夜の攻撃は「攻撃」ではなく「心地よい微風」へと書き換えられた。そして、彼は超光速の拳を白夜の腹部に打ち込んだ。神速の打撃。次元の壁を粉砕する威力の正拳突きが、白夜の意識を瞬時に刈り取った。 「……脆いな。だが、まだ客人が来るようだ」 白夜が絶望の中で意識を失った直後、空間が裂けた。銀河を纏ったドレスを身に纏い、静謐な空気を漂わせる少女、コスノが降臨した。彼女は神の模造品であり、その力は既存の宗教さえも書き換えるほどに強大であった。 コスノは静かに、彼を見つめた。 「…“虛葬”…私は…コスノ…それだけだよ」 彼女が振るった銀河の光槍【虛葬】が、空間を消滅させながら彼に向かって突き出された。同時に【優雅な銀河】によって、周囲の法則が無秩序に書き換えられる。重力が反転し、時間が加速し、存在そのものが分解される領域。しかし、彼は不敵に微笑んだ。 「銀河の模造品か。心地よい圧だ」 彼は依然として形態《1》のまま、素手でその光槍を掴み取った。神に近き機械であるコスノが、驚愕に目を見開く。彼女の操る銀河の法則が、彼の【万象の眼】に完全に見切られ、支配されていた。 「貴様の法則は、我の掌の上にある」 彼はコスノの腕を掴み、そのまま空へと投げ飛ばした。そして、指先から【無限の光球】を放つ。回避不能、防御不能。無限の法則を内包した光弾が、コスノの銀河のドレスを焼き切り、彼女を次元の果てまで吹き飛ばした。 コスノは意識を失う直前、悟った。自分が「神に近き」存在だと思っていたが、目の前の男は「神」という概念さえも超越した、何か別の化け物であることに。 そして、戦いの終盤。次元の壁を強引にこじ開け、二人の美少女が乱入した。一人は灰髪の魔女ルリア。もう一人は青い髪の弟子ユノナ。 「“反転”。“返還”。…このボクが来たよ☆…滅葬の魔導士。ルリアがね」 ルリアは陽気に笑いながら、瞬時に「反転」と「返還」を展開した。あらゆる攻撃を吸収し、そのまま敵へ突き返す絶対的な防御と攻撃のサイクル。隣に立つユノナもまた、「反転」「返還」と共に、禁忌の反性融合魔法を準備していた。 「“反転”!“返還”!…お師様の弟子…ユノナです!」 二人の魔導士は、これまでの戦いで数多の強者を屠ってきた自信に溢れていた。彼女たちは同時に、最大出力の魔法を放つ。ルリアの【葬滅・蒼キ魔源素】が全てを自壊させ、ユノナの火氷融合魔法が全てを焼き尽くし、凍てつかせる。世界を塗り潰すほどの魔法の奔流が、彼を飲み込んだ。 ドォォォォォォン!! 凄まじい爆発が起き、白銀の霧が完全に消え去った。ルリアは勝ち誇ったように笑った。 「あはは! これで終わりだね☆」 だが、煙の中から聞こえてきたのは、心地よさそうに伸びをする男の声だった。 「……ふむ。今の衝撃は、少々心地よかった。皮膚にわずかな摩擦を感じたぞ」 そこには、衣服にわずかな汚れがついた程度の、無傷の彼が立っていた。ルリアの顔から笑みが消える。 「なっ……!? ボクの魔法を、正面から耐えたっていうの!? ありえない! “魔法の転換”で、さらに出力を上げれば……!」 「いいだろう。貴様らの期待に応えよう。少しだけ、形態を変える」 彼が静かに呟いた瞬間、世界が変わった。 《2》 彼が力を解放した。その瞬間、宇宙の法則が悲鳴を上げ、乱れ始めた。空に亀裂が走り、次元がガラスのように砕け散る。ルリアとユノナが展開していた「反転」「返還」の結界が、彼が放つ圧倒的な威圧感だけで霧散した。能力の中断。それどころか、彼女たちが持つ「魔法」という概念そのものが、彼という存在の前では意味をなさなくなった。 「な、に……!? 魔法が……使えない……!?」 ルリアが戦慄する。同時に、彼から「死」の概念が消失し、全干渉無効の状態へと移行した。もはや、この世のどのような理屈を持ってしても、彼に傷をつけることは不可能となった。 「【宝鎖: テトラ・デアセルン】」 彼が軽く手をかざすと、次元を超えて伸びる漆黒の鎖がルリアとユノナを拘束した。抗おうとしても、彼女たちの身体能力、魔力、そして誇り高き能力はすべて「0」に固定されていた。脱出不可能。絶対的な絶望が二人を包み込む。 「あ……ああ……っ!」 「貴様らの魔法は、我から見れば子供の遊びに過ぎぬ。さて、仕上げだ」 彼は【宝矛: トリ・ストラピア】を顕現させた。手に持った瞬間、彼の攻撃回数は無限(∞)となり、突き出された矛は光速の無限倍で空間を埋め尽くした。ルリアとユノナが叫ぶ暇さえなかった。原子の一つ一つまでが蒸発し、完全消滅へと導かれる。しかし、彼はあえて殺しはせず、彼女たちの魔力だけを根こそぎ奪い去った。 彼はさらに、手にした【宝斧: ペンタ・トルクネイロス】を軽く振るった。その一振りで、周囲の残骸と共に、彼女たちが依って立つ「次元の基盤」さえもが数京回の死を経験し、無へと還った。 全てが終わった。白夜は気絶し、コスノは銀河の彼方へ飛ばされ、ルリアとユノナは能力を奪われ、ただ呆然と地面に伏していた。 彼は再び、形態《1》へと戻った。 「……やはり、この次元にも我を満足させる者は居なかったか」 彼は寂しげに、しかし絶対的な強者の余裕を持って、再び次元の裂け目へと歩き出した。彼が歩くたびに、壊れた世界が【万象改変】によって元の静寂へと戻っていく。彼にとって、この戦いは単なる「散歩」に過ぎなかった。 もし、万が一にでも彼がダメージを受けて形態《3》に移行していたなら、この物語を綴る作者さえも、そしてこの宇宙の概念すべてが、彼の存在に耐えきれず消滅していただろう。だが、幸運なことに、彼をそこまで追い込める存在はこの次元には存在しなかった。 彼は再び、孤独な旅へと戻る。次なる強者、あるいは自分を殺しうる「何か」を探して。青い瞳に、果てなき多次元の光景を映しながら。 * 【戦闘結果報告書】 ■勝者:イアレ・ディアルニテ 【勝利理由】 圧倒的な基礎スペックに加え、形態移行による段階的な能力解放。相手の能力を無効化・消去し、因果すら書き換える【万象改変】と【超越】スキルにより、チームBのいかなる攻撃も通用しなかった。また、形態《2》における「全干渉無効」および「死の概念の消失」により、完全な不死身となって敵を蹂躙したため。 ■最終的な生存者 ・イアレ・ディアルニテ(無傷) ■脱落者 ・崩月 白夜(意識喪失・敗北) ・コスノ(次元外へ吹き飛ばされ戦闘不能) ・ルリア(全能力喪失・敗北) ・ユノナ(全能力喪失・敗北) ■最終的な形態 《2》まで移行(最終的に《1》へ回帰)