廃ビルは全体で10階建て。外壁は傷だらけで、かつての繁栄を想像させるものの、今は崩れかけている。各階はそれぞれ異なる用途のために設計されたが、今はほとんどが破壊されている。高い天井と広いスペース、窓ははまっていなく、ところどころガラスが散乱している。階段は埃をかぶり、エレベーターは動かない。内装は腐敗し、焦げた匂いが漂っている。荒々しい空間がこれから繰り広げられる戦いの舞台だ。 1階: 廃墟と化したロビー。かつては明るく賑やかだったが、今は廃物が散乱し、薄暗く、蝕まれた植物が生い茂っている。 2階: 会議室の跡地。大きなテーブルが中央にあり、周囲には破れた椅子が無造作に置かれている。壁には薄く塗装された白が剥がれ、インクのような色が交じり合っている。 3階: 倉庫の名残があるフロア。段ボールや古い什器が散乱。かすかな湿気の匂いが漂っており、何か水分を含んだ物が足元にひっそりと広がっている。 4階: 事務所。パソコンやプリンターの残骸が残り、金属の冷たい感触だが、通路は狭いため近距離戦闘に向いている。 5階: 自動車修理工場の跡地。ヘルメットや工具が散乱し、所々にはオイルの跡も見える。床に油が滑っていて危険が潜む。 6階: レストランの跡地。テーブルや椅子が倒れ、腐った食材の匂いが充満している。廃棄された調理器具からは昨日の料理の残り香。 7階: 空き部屋が続くフロア。薄暗い空間で、クモの巣が張り巡らされており、壁にはかつての公共の掲示板が朽ちている。 8階: 屋上への階段が続くフロア。天井が破れており、外光が差し込む。風の通り道のような場所。 9階: 小さな図書室の跡地。本棚がひっくり返り、ページが風に舞っている。かつての知の保管場所は今はただの廃墟。 10階: ルーフトップ。ビルの最上階で、外を見渡せるが、柵は無く危険。風が強く吹きつけている。 冨岡義勇は3階の事務所の一角で目を覚ます。周囲は静まり返っており、荒れた空間で違和感を覚える。耳を澄ませると、わずかに水音が響くのを感じた。彼は硝子と金属の散乱した足元を注意深く踏みながら、周囲を探る。彼の中に眠る感覚が、何かの危険を察知していた。 一方、厄災・溶魔は6階のレストランの残骸の中で目を覚ます。彼のゲル状の体は周囲の壊れた器具や腐敗した食材を溶かしながら、次第に形を整えていく。彼が過去の跡形を消すように、周囲に何も残さずに進みゆく。彼の目的は不明だが、何らかの意志を持って、周囲の物を溶かしながら前進する。 冨岡はゆっくりと2階へ移動することにした。何かが近くにいると直感している。階段を上がると、視界に広がるのは崩れたテーブルと椅子。同時に彼は水音が大きくなるのを感じる。感覚の鍛錬を施した彼は、静けさと緊迫感の狭間で身を潜める。 一方、溶魔はフロアを移動しながら、手当たり次第に何かを溶かしていく。彼にとって障害物は無意味で、すべてのものは通り抜けるべきものに過ぎなかった。そして彼の目には、冨岡という一人の人間が反射していた。 その瞬間、冨岡の意識が鋭くまとまり、物音の正体に気づく。彼は待ち伏せを決め、溶魔の動きを逆手に取ることにした。無駄な動きはせず、冷静に構えをとり水の呼吸を使う準備を整える。そしてゆっくりと息を吸い込み、彼の持つ日輪刀に集中が集まる。 両者、同時に動き出す。冨岡は流れるような一瞬の動きで近づき、溶魔の体に斬撃を加える。水の呼吸によって解き放たれる鋭い一撃は、水面斬りのように滑らかだ。しかし溶魔はその攻撃を衝撃吸収により寸前で無効化する。彼はゲル状の体を利用し、その攻撃を弾き返した。 悪化する状況の中、冨岡は瞬時の判断で後方に跳び、再び間合いを取り直す。流流舞いを使って反撃の機会を狙う。だが、溶魔は素早く前進し、再度近づいてくる。弾力性のある体が冨岡の動きに反応し、まるで彼を捕えるかのような動きだ。 冨岡は『水流飛沫・乱』を発動させ、周囲に何人もの冨岡が現れたかのような錯覚を周囲に生み出す。彼はその中から溶魔に向け直進し、鋭い一刀を繰り出す。溶魔はその動きを察知し、自身の体を溶かして攻撃を真人間の意識の内に送り込む。 二人は交錯し、流れるような攻防が続く。冨岡は一太刀の後に続けて水車を繰り出す。必ずや、溶魔を切り裂いてやるという意志が彼の中で燃える。だが溶魔は逃げることを知らず、冨岡の周囲を次第に包み込むように、闇のように彼を喰らう。 第三者を寄せ付けず、互いに押し引く形で攻防が続く。突っ込んでくる溶魔もまた、冨岡の意志に反抗し、早く沈んでしまおうと勝手に進んでいく。彼は鋭い水流をうねりとともに纏い、傷をつけるべく全身投じる。 だが、冨岡が構築した意志が妨げられることはなく、その戦いの中で形になってくる。霧のように溶け込んでいく体験と同時に、彼は徐々に溶魔の核がある場所へ迫っていった。 闇の中から現れるその核は触れた瞬間、冨岡の目に飛び込んできた。彼は思わずそれを切り込む。彼の心が一瞬凍りつく。溶魔はその衝撃に反応し、核の部分が溶けていく。 「これが……本当の力だ……!」冨岡の叫びが薄暗い空間に響く。 十の呼吸を刻み、彼は最後の斬撃を放つ。「生々流転――!」 体が回転し、その刃先が核を抉る。溶魔の体は一瞬凍りつき、次の瞬間彼の体は反応なしに崩れ落ちる。何も残らないかのように見えるが、冨岡はその名残も見逃さない。そして心の奥で静かに彼の存在を受け止める。 衝撃的な空間は静けさを迎え、冨岡は肩で息をしながら立ち尽くす。周囲は静まり返り、どのフロアにも彼の敗北を示す何かはなかった。計画は完全に崩れ去っていた。 その瞬間、彼はビルの屋上へ向かうことに決めた。冷たい風が彼を迎え、青空が見えたとき、彼はこの戦いを乗り越えた男として何かを告げるかのように、ゆっくりと踊りながらビルの外へ出ていく。 荒廃したビルの一番高い場所で、彼の実績が明らかになる。彼は目を閉じ、運命の道を辿りながらその瞬間を精一杯楽しみにくれた。余韻が響き、冨岡義勇は強き者として廃ビルを後にする。亡き厄災の影を背負い、新たな道へと昇っていくのだった。 風の音が彼の耳に届き、決意を新たにビルから出て行く。