空はどす黒い紫に染まり、次元の裂け目から地獄の軍勢が溢れ出していた。だが、それを迎撃するのは世界最大の怪異対処組織『ザグヱラ機関』。総司令グンダリの冷徹な号令の下、地獄の軍勢を文字通り塵に帰したS級部隊、そしてその頂点に君臨する不敗の超エリートSS部隊が、今、四人の『特異点』を包囲していた。 対峙するのは、よぼよぼの老人、ボサボサ頭の男、小柄な老婆、そして白衣の少女。 「ふふ……。無駄な足掻きです」 予知者ミルエが瞳を細める。彼女の視界には、数億の未来の枝が展開していた。どの枝においても、結果は同一。四人の敗北。軍師ラッグが冷酷に戦術を提示する。逃げ道は、概念的な意味でさえ存在しない。 法務官ジアイが静かに歩み出る。彼の背後には、ミルエの予知に基づき最適化された「絶滅の法具」が並んでいた。 「国狩丁次郎殿。貴方の『技巧』は物理法則の極致。ゆえに、因果律を凍結させる【静止の枷】を用意しました。これがあれば、どれほど研鑽を積んだ身体操作も、時間という概念ごと停止し、ただの肉塊となります」 同時に、ジアイは他三名への対策も提示する。 「一ツ橋半次郎殿には、幸運とトリックを無効化し、強制的に『凡人』へと固定する【真名剥奪の鎖】を。小澤絹恵殿には、決定権の行使を物理的に遮断する【理の蓋】を。そしてノウセ殿には、お断りの意思表示そのものを消滅させる【沈黙の聖域】を。これで準備は完璧です」 議長ライが後方で神々しいオーラを解放した。その光がSS部隊を包む。不死身の加護。一方で、四人の能力は極限まで弱体化され、思考すらキャンセルされる。もはや指一本動かすことは許されないはずだった。 だが、静寂を破ったのは、よぼよぼとした、しかし芯のある声だった。 「……まぁ、若いの。準備が良いのは結構なことじゃがな」 国狩丁次郎が、震える足で一歩前へ出た。ジアイが放った【静止の枷】が彼を捉えようとした瞬間、丁次郎の身体が霞のように揺らぎ、鎖は空を切った。能力ではない。ただの「避け方」を知っていた。ミリ単位の重心移動、空気の震え。永年研鑽した彼にしか理解できない理屈で、因果律の拘束すら「受け流した」のだ。 「なっ……!? 予知では当たっていたはずだ!」 ミルエが驚愕するが、遅かった。丁次郎の指先が、超高速でジアイの急所を突く。攻撃力は「1」。だが、それは最弱の力が最大効率で伝わる「点」への集中。ジアイの法務官としての防御壁を紙のように突き抜け、その心臓を停止させた。 【法務官ジアイ:死亡】 「あはは、なんだか賑やかですねぇ」 一ツ橋半次郎が、瓢箪を傾けて酒を煽る。SS部隊が時空封印術を同時に展開し、彼を消し飛ばそうとした。しかし、放たれた絶技はすべて、水面に映る月を斬るように、半次郎の身体を透過して空間に波紋を残すのみだった。理由は不明。理屈もない。ただ、彼は「当たらない」男だった。半次郎が抜刀する。素人丸出しの、ひどく不格好な斬撃。しかし、その一撃はSS部隊の「不敗」という概念ごと両断した。 【SS部隊(数名):死亡】 「あらあら。お掃除の時間ですわね」 小澤絹恵が、優しく微笑みながら竹箒を手にした。議長ライが「行動キャンセル」の権能を発動させる。しかし、絹恵が小さく呟いた。 「ここは、私の家事の範囲内です。よって、キャンセルは認めません」 『決定権』。世界の理を塗り替える絶対的な優先権。ライの権能は、瞬時に「心地よい微風」へと定義し直された。絹恵が竹箒を一振りすると、神々しいオーラを纏っていた議長ライは、ゴミ屑のように遥か彼方へ吹き飛ばされ、そのまま次元の壁に激突して砕け散った。 【議長ライ:死亡】 「えーっと……。皆さん、もうお疲れみたいですね」 ノウセが白衣の裾を揺らしながら、おっとりと呟く。生き残ったS級部隊の千人が、絶望に染まりながら一斉に攻撃を仕掛けた。魔法、術式、物理攻撃。あらゆる事象が彼女に殺到する。 「……ごめんなさい。そういうのは、お断りします」 上品に、可愛らしく。彼女が手をかざした瞬間、降り注いだ数千の攻撃はすべて「お断り」され、世界から遮断された。攻撃したことさえなかったことにされる遡及的な拒絶。そして、ノウセは指先に小さな綿毛を生成した。 「綿毛魔法」 ふわふわと舞い降りた綿毛が、軍勢の中心に触れた瞬間、特大の爆発が巻き起こった。討伐できない理由を「お断り」した結果、最弱の魔法が最強の殺傷力を得たのだ。 【S級部隊・地獄軍勢:全滅】 静寂が戻った戦場。そこには、よぼよぼの老人と、ボサボサの男と、穏やかな老婆と、可愛らしい少女だけが残っていた。 「やれやれ、腰が痛いのう」 丁次郎がよぼよぼと歩き出す。その背中は、神すら恐れた組織を壊滅させた、真の強者の風格に満ちていた。 * 【生存者および二つ名】 ■国狩 丁次郎:『理を超越せし究極の徒』 (あらゆる能力を技巧のみで無効化し、敵の急所を一点突破で撃破した) ■一ツ橋 半次郎:『因果を欺く最強の凡夫』 (不敗の権能を「ただの不格好な斬撃」で切り裂き、生存し続けた) ■小澤 絹恵:『世界を調える最高権限者』 (世界の理を定義し直し、敵の権能を微風に変えて一掃した) ■ノウセ:『事象を拒絶する終末の魔女』 (あらゆる攻撃を丁寧にお断りし、綿毛一つで軍勢を消し去った)