【プロローグ:邂逅】 白一色の巨大なホール。そこには、殺気と緊張が混ざり合った奇妙な静寂が漂っていた。集められたのは約百名。国家直属の極秘部隊『K-NIGHT』の入隊を志す、あるいは何らかの理由で送り込まれた精鋭たちだ。 悠真は、ラフなリネンシャツにスラックスという、試験会場には不釣り合いなほど洒落た格好で立っていた。伊達メガネのブリッジを指で押し上げ、周囲を観察する。合理的な効率を追求する世界に身を置きながら、彼は心のどこかで「無駄」という名の贅沢を愛していた。 「……ふぅ。まあ、こういう緊張感のある場所も、たまにはいいですね」 ふと隣を見ると、場違いなほどに透明感のある美少年が立っていた。神白幽だ。彼は周囲の殺気などどこ吹く風で、どこから取り出したのか一輪の小さな白い花を眺め、うっとりと微笑んでいる。 「いい匂いだ。ここは少し空気が淀んでいるけれど、この花だけは清らかだね」 その独り言のような呟きに、悠真は親しみやすい笑みを浮かべて声をかけた。 「こんにちは。いい花ですね。こんな殺伐とした場所で、余裕を持って花を愛でられるのは素敵だと思いますよ」 幽はゆっくりと視線を悠真に向けた。その瞳には人間離れした深淵がある。だが、悠真に敵意がないことを悟ったのか、彼はふっと口角を上げた。 「君は面白いね。普通の人間なら、隣にいる僕のような存在に本能的な恐怖を覚えるものだけど」 「あはは、僕、あまり本能に従うタイプじゃないので。僕は悠真といいます。君は?」 「幽。ただの放浪者だよ。強い者が集まると聞いて、少しだけ興味が湧いてね」 知的な笑みを湛えるフリーターと、浮世離れした美少年。あまりに不釣り合いな二人の間に、束の間、穏やかな会話が流れる。しかし、その時間は残酷に切り裂かれた。 『――参加者各位、注目せよ』 天井から降り注ぐ、感情を排した機械的なアナウンス。それが合図だった。 『これよりK-NIGHT入隊試験を開始する。第一試験会場へ移動せよ。遅延した者は即座に失格とする。……移動開始』 「おっと、時間ですね。それでは幽さん、また後で」 悠真は軽く手を振ると、合理的な歩幅で出口へと向かう。幽は再び花に視線を落とし、「またね、悠真」と小さく呟いた。