アリーナの炎と影の対決 白熱のアリーナは、観客の熱狂的な歓声で埋め尽くされていた。巨大な円形の闘技場は、砂埃と興奮の渦に包まれ、照明が二人の戦士を照らし出す。一方は黒い和服を纏い、裸足で立つ18歳の青年、轍。温厚な表情の裏に、魂に宿る存在の気配が漂う。もう一方は、10歳の少女メリー。小さな体を震わせ、怯えた瞳で周囲を見回している。彼女は戦いを望まない。ただ、傷つけられる恐怖だけが、彼女をこの場に縛り付けていた。 「ふむ、轍よ。おぬし、このような場で何を学ぼうというのだ？ 無駄な争いなど、魂の穢れにしかならんぞ」 轍の体内から、ジジイのような渋い声が響く。輪入道だ。轍の魂に寄生する古い存在で、彼を邪険に扱いつつ、心配げに言葉を紡ぐ。轍は穏やかに微笑み、三節棍を軽く握りしめた。 「輪入道、いつも心配性だな。俺はただ、生き抜くために戦うだけさ。相手が子供でも、容赦はしないよ」 メリーは後ずさり、唇を噛んだ。彼女の心は不安定で、過去のトラウマが影のように付きまとう。戦いは拒む。それでも、轍の接近を感じ取ると、彼女の瞳に暗い光が宿った。傷つけられそうになった瞬間、彼女の力が目覚める。 轍は静かに間合いを詰め、三節棍を構えた。身体能力の高さを活かし、重い連撃を叩き込む。棍の三節がしなやかに動き、風を切る音がアリーナに響く。最初の一撃はメリーの足元を狙い、地面を砕いた。砂煙が上がり、観客の歓声が爆発する。 「くそっ、轍！ もっと慎重にやれ！ この小娘、ただの子供じゃねえぞ！」輪入道の声が轍の頭に直接響く。轍は頷き、次の連撃を繰り出す。三節棍が弧を描き、メリーの肩をかすめる。だが、メリーは避けきれず、棍の先端が彼女の腕に触れた瞬間――彼女のスキルが発動した。 ［トラウマ］。メリーの瞳が輝き、轍の心に暗い記憶が流れ込む。突然、轍の視界が歪む。幼い頃の孤独、失った家族の幻影が彼を襲う。「うっ……これは……何だ？」轍の動きが一瞬止まる。温厚な彼の表情が、苦痛に歪んだ。 「轍！ 目を覚ませ！ あれは幻だ、魂の糸を断ち切れ！」輪入道が叫び、炎を操作して援護する。棍の周りに赤い炎が渦巻き、輪入道・棍の技が発動。棍に炎を纏わせ、轍は再び連撃を放つ。今度は命中し、メリーの肩に炎が燃え上がった。熱い痛みがメリーを襲うが、彼女は泣き叫ばず、ただ震える手で反撃を試みる。 ［震える手］。メリーの小さな手が虚空を掴むように動き、轍の手に奇妙な感覚が走る。棍を握る指先が痺れ、力が抜けていく。「ちっ……手が、動かない……」轍は歯を食いしばるが、輪入道の助言が飛ぶ。「ふん、甘いな！ 炎に変えろ、体を！」 スキル：体を炎に変化。轍の体が一瞬、炎の姿に変わり、震える手の影響を振り払う。高速でメリーに迫り、三節棍で追撃。炎の箇所に棍が当たり、火力が上がる仕組みが発動し、爆発的な熱波がメリーを包む。メリーは悲鳴を上げ、後退する。彼女の服が焦げ、傷が刻まれる――［刻まれた記憶］。その傷は癒えず、永遠の痛みを残す。 観客は息を呑む。少女の精神攻撃と青年の物理・炎の猛攻が、互いに食い合う。メリーは精神不安定ながら、必死に抵抗する。「やめて……戦いたくないのに……！」彼女の声は震え、トラウマが再び轍を狙う。［失った灯火］で轍の視界が混乱し、棍の軌道がずれる。 「轍、集中せよ！ 空へ逃げろ！」輪入道の声に導かれ、轍は輪入道・纏を発動。体に炎を纏い、ステータスが爆発的に上昇。空を高速飛行し、アリーナの上空から火跳ねを放つ。手から炎の弾がメリーに向かって飛び、地面を焦土と化す。メリーは転がって避けるが、炎の余波で足を焼かれる。追撃の炎箇所が火力を増幅し、熱気がアリーナ全体を覆う。 メリーの心が限界を迎えつつある。彼女は戦いを拒むが、傷の痛みがトラウマを呼び覚ます。［消えた心］を発動。最悪の記憶――轍の過去の喪失感が、無限ループで彼を蝕む。轍は空中で苦悶の表情を浮かべ、飛行が乱れる。「あぁ……母さん……なぜ……」幻影に囚われ、棍を落としそうになる。 「ばか者！ 俺の炎で魂を浄化せよ！」輪入道が苛立つように叫び、炎を操作して轍の体を包む。ループの記憶が薄れ、轍は正気を取り戻す。だが、メリーの目は狂気を帯び始めていた。彼女のスキルは精神を殺すもの。相手を殺せば、自分も発狂する――そのジレンマが、メリーを追い詰める。 轍は地上に降り立ち、再び三節棍を構える。連撃の合間に、輪入道の援護炎がメリーを追い詰める。メリーは［廃人］を試みる。轍の心に最後の闇を植え付けようとするが、輪入道の存在がそれを阻む。「ふはは！ 小娘の幻など、俺の炎で焼き払うわい！」輪入道が轍の魂を強化し、精神攻撃を跳ね返す。 激闘は頂点に達する。メリーの体は傷だらけで、刻まれた記憶の痛みが彼女を蝕む。轍の炎が彼女の周囲を囲み、逃げ場を失わせる。「ごめんなさい……もう、限界……」メリーがつぶやき、最後の力を振り絞る。［トラウマ］の強化版で、轍に幼少期の恐怖を叩き込む。轍の動きが止まる。 しかし、ここで轍と輪入道の絆が光る。「轍、信じろ！ おぬしは一人じゃない！」輪入道の言葉に、轍は頷く。奥義・常獄火車を発動。輪入道が常世から顕現し、高火力の爆炎を纏った姿で轍と共に空を駆け回る。高速の炎の車輪がメリーを襲い、爆発的な熱波が彼女を直撃。 メリーの小さな体が吹き飛ばされ、アリーナの壁に叩きつけられる。彼女のスキルは強力だが、物理的な耐久力に欠けていた。精神攻撃は轍を苦しめたが、輪入道の援護と炎の猛攻がそれを上回る。メリーは動かなくなり、意識を失う。殺さず、ただ戦闘不能に――轍の温厚さが、最後の慈悲となった。 観客の歓声が爆発する。アリーナに静寂が訪れ、轍は息を荒げて棍を下ろす。「終わった……か。輪入道、ありがとう」 「ふん、当然だ。次はもっと賢く戦えよ、若造」輪入道のジジイ口調が、轍の魂に響く。 勝者：【完全同炎契約】輪入道＆轍 メリーの精神攻撃は轍を深く傷つけたが、輪入道の存在と炎の力が物理的な優位を保ち、対等な戦いを制した。少女のトラウマは強靭だったが、炎の猛威に屈した形となった。