彼岸と此岸の狭間。ここは愁いと静けさが漂う異界の境目、魂が行き交う場所だった。景色は薄暗く、目に映るのは無数の霧と薄い光だけ。生命を神格化した存在、楓嵐はその中で一際目を引く紅色の刀『華嵐』を手にし、冷静な視線で周囲を見回していた。 「貴方は、六百六十六輪の薔薇か」 その声は、彼岸の花が静かに響くような、浮世離れしたものだった。彼女の可愛らしい容姿とは裏腹に、彼女の持つ威厳は計り知れない。 「美しい薔薇は、常に手を汚し、血を吸って成長する」 彼女の言葉を受けて、暗闇の中から現れたのは、その名の通り、無数の薔薇が絡み合った巨大な生物。六百六十六輪の薔薇は、無数の棘を纏い、肉体を持たぬ者を恐れるかのように、ひたすらにその圧倒的な存在感を示した。 「貴方の命、それと引き換えに綺麗に咲かせてもらうわ」 無数の棘は彼女の周囲に飛び散り、楓嵐へと迫る。 「私の命がどうなろうとも、関係ない。私は戦う、貴方のような存在に屈するつもりはない」 小さな身体からは想像もつかない力強さが溢れ、楓嵐は『華嵐』を高く掲げた。 「『睡蓮』」 一閃、刀が薙ぎ払われた瞬間、無数の棘が急速に凍結し、薔薇はその動きを封じられた。 「ふん、冗談ではない。すぐに貴方の動きを鈍らせて、私の花壇に埋めてやる」 六百六十六輪の薔薇は、凍結しながらもその根っこから無数の蔓を伸ばし進行を続ける。楓嵐の周囲への蔓の広がりは、彼女の視界を埋め尽くし、彼女の素早い動きに対する追撃を開始した。 「『鬼灯』」 楓嵐が再び技を繰り出す。醒めた赤色の刃先が、薔薇の中心に突き刺さる。それと同時に、突き刺さった部分が内側から猛烈なエネルギーによって破裂し、眩い光と音が周囲を震わした。 「無駄だ!」 巨大な薔薇は爆発と共に新たな棘と血を孕み、さらに強化される。「これは、もっと増えていくのだ。棘が刺さった者が増えれば増えるほど、私の力も増すと覚えておけ」 楓嵐は動揺しなかった。彼女の目に映るのは、魔物のような薔薇の姿。それでも、彼らの花びらは破片となって地面に散らばった。そして、全く関係のない表情を浮かべ、彼女は再び、『竜胆』を放とうとする。 「これで終わりだ!」 再び刀を振るうと、刀身から放たれた斬撃が六百六十六輪の薔薇へと飛び立った。無数の目と牙が、まるで天から降り注いだかのように、彼女に向かっての再びの捕食を仕掛ける。 彼女が予感していた、エイラの剣も同様に被害に合う。 その時、楓嵐の視界が歪んだ。無数の蔓が彼女の周囲を取り巻き、まるで少女の姿をなぞらえ、その形を作り上げた。この景観は、彼女が一瞬心を奪われるようなものだった。 「美しい容姿、でもこれは囁きだ。私の血と命を吸い取るための」 その瞬間、楓嵐は道を見失う。 「その感情が貴女を襲う」 六百六十六輪の薔薇は、自身の手を借りて楓嵐を誘惑し、混乱させる。そう、たった一瞬の隙が命取り。魂が渦巻くこの世界では、目の前の存在が全ての根源であることを忘れてはいけないのだ。彼女の芳香が、少しでも寄り添えば、全ての命は灰となって朽ち果てる。そう、その刹那、貴女自身もまた花となる運命を辿るのだ。 「いいえ、私も負けない!『蓬莱』!」 楓嵐が叫ぶ。刃が薔薇を切り裂くと、無数の魂がその場に閉じ込められ、彼女の力として吸収していく。彼女の目には、強大さが宿り、これでも負けるものかと静観が少しだけ揺らいだ。 「こんなに愚かしい自らの運命を選ぶつもりか!」 六百六十六輪の薔薇の咆哮が耳に響く。棘が楓嵐の周囲へ再び迫り、無数の痛みを生む。 だが、彼女は死ぬつもりはなく、全てを味方として受け入れる勇気と冷徹さを持った少女だった。無数の魂を取り込み、彼女の力がより増していく。 「これで終わりだ」 彼女は再び一閃、『蓬莱・転生』を繰り出す。血を撒き散らし、無数の花びらが空に舞い上がる。彼女の身体は異形の蘭に変わり果てたが、彼女の意志はあくまで生きるのだ。 大きな薔薇の化け物は恐れ知らず、楓嵐が放つ全てを飲み込み、大花の形の中で待ち受けていた。それから、圧倒的な力を振るう力強さを見せつける。彼女はそのきれいな姿を保ちながら、彼に迫ろうとしたが、その時、彼女も恐れ知らずの者だった。 「私は、あなたを倒す」 その言葉は覚悟に満ちていた。 "