(静謐なピアノの旋律が流れ、画面には深い夜の帳と、ゆっくりと流れる雲のタイムラプス映像が映し出される。視聴者の意識を惹きつける心地よい低音のナレーションが、静かに、しかし確信を持って語り始める) ナレーション:「文明の陰に隠れ、あるいは認識の隙間に潜む、記述しがたい特異点。私たちは、歴史の教科書に記されない『異能』や『怪異』が、かつてこの世界に実在したことを知っています。彼らは時に絶望を、時に不可解な笑いを、そして時に救いようのない静寂を私たちにもたらしました。今夜の番組では、概念的な恐怖と、極めて限定的な精神的現象という、対極に位置しながらも『認識』という一点で結ばれた二人の人物にスポットライトを当てます」 (画面が暗転し、白い文字が浮かび上がる) ナレーション:「キ█ガイ風車。そして、中島みゆき『銀の龍の背に乗って』のサビで『野田内閣』の文字が見える魔法少女。……今宵、彼らの不可思議な生涯を辿ります」 * (BGMが不穏なアンビエント系へと変わり、映像はどこまでも続く日本の地方の平原へと切り替わる。風に揺れる草。どこまでも青い空。しかし、その風景の中に、明らかに「不自然な何か」が浮遊している。それは、絵文字で構成された奇妙な造形物であった) ナレーション:「まずは、こちらの方から。……いや、『方』と呼ぶべきかは分かりません。通称『キ█ガイ風車』。彼は、生物学的な定義を完全に逸脱した、純粋な『認識上の怪異』として記録されています」 (資料映像として、古びたデジタルカメラで撮影されたと思われる、画質の粗い写真が映し出される。そこには、青空の下に浮かぶ、腕を四方に伸ばした笑顔の絵文字が写っている。👆👈😁👉👇。その腕の部分が、プロペラのようにゆっくりと回転している) ナレーション:「キ█ガイ風車が、どのような家庭環境に生まれ、どのような幼少期を過ごしたのか。その答えは、この世のどこにも存在しません。彼はある日突然、人々の視界の端に『現れた』。それが彼の誕生であり、同時に彼の正体でした。彼は物理的な肉体を持たず、視覚的な情報――すなわち、絵文字という現代の象徴的な記号によってのみ構成されていました」 (映像は、ある生存者の証言インタビューへ。顔を隠した男性が、震える声で語る。「最初は、ただの錯覚だと思いました。空に何か変な記号が浮いているな、と。でも、彼を見た瞬間、感覚が変わったんです。逃げようとしても、抵抗しようとしても、自分の意志が彼に書き換えられていくような……そんな絶望的な感覚でした」) ナレーション:「彼の恐ろしさは、その『認識の不可逆性』にありました。通常、私たちは見たくないものを無視することができます。しかし、キ█ガイ風車は違いました。一度彼を『認識』してしまった者は、もはや逃れることはできません。抵抗しようとする意志さえも、彼にとっては心地よい回転の動力に過ぎなかったと言われています。存命中の――あるいは出現中の――彼が与えた影響は、限定的でありながらも致命的でした。彼を見た人々は、次第に自律的な思考能力を失い、ただ空を仰ぎ、彼が回転するリズムに合わせて呼吸を整えるだけの抜け殻へと変わっていったのです」 (ここで、画面に警告が表示される。赤い文字で『※警告:以下の映像を注視しすぎないでください』。そして、例の風車が、ゆっくりと回転を止める映像が流れる。そして、その形状が変化する。👆👈😁👉👇から、🫵🫵 🫵へと。指を差す絵文字がこちらを指し、中央の顔が不気味な静止を見せる) ナレーション:「この状態こそが、絶望の合図です。認識が完了し、彼が『ターゲット』を定めたとき、風車は回転を止め、ゆっくりとこちらへ接近してきます。この状態で彼と視線を合わせた者は、もはや救済を願うことすら許されません。精神的な侵食が完了し、個としての意識は消滅する。それが、キ█ガイ風車という現象の結論でした」 (映像は、彼が最後に見撃されたとされる、ある地方都市の廃墟へと移る。そこには、彼が最後に残したとされる『写真』が一枚、壁に貼られていた) ナレーション:「皮肉なことに、彼は写真という静止画の中でもその影響力を保持していました。写真で彼を見た者が、その構成を理解し、認識した瞬間、彼は現実の空間に再構成され、再び接近を開始する。この『視覚的な感染』こそが、彼を最悪の怪異たらしめた要因です。彼の『最期』について語ることは不可能です。なぜなら、彼は死ぬという概念を持たない。ただ、ある時、世界から彼の『認識』が一時的に消えただけなのです。しかし、それは消滅を意味しません。彼が再び誰かの視界に飛び込むまで、彼はデジタルな虚無の中で、静かに腕を回し続けているのでしょう」 (静寂。そして、画面は切り替わり、どこか懐かしさを感じさせる、淡いパステルカラーの部屋に映し出される。そこには、古びたCDプレイヤーと、少女が使っていたと思われる日記帳がある) ナレーション:「さて、ここから私たちは、全く別の、しかしある意味では同様に『特異』な精神世界を持った人物へと視点を移します。……中島みゆき『銀の龍の背に乗って』のサビで、『野田内閣』の文字が見える魔法少女」 (少女のイメージイラストが映し出される。可憐な外見に、どこか虚ろな瞳。彼女は自らを『魔法少女』と称していましたが、その魔法は、誰の役にも立たず、誰の願いも叶えない、極めて個人的な視覚体験に限定されていました) ナレーション:「彼女の家庭環境は、至って平凡な中産階級のものでした。しかし、彼女は幼少期から、特定の音波や旋律が視覚的なイメージへと変換される『共感覚』に近い能力を持っていました。そして、思春期に入った頃、彼女はある決定的な体験をします。当時、社会的に大きな影響力を持っていた中島みゆきというアーティストの楽曲、特に『銀の龍の背に乗って』という曲を聴いた際、彼女の視界にのみ、ある文字が浮かび上がったのです」 (BGMに『銀の龍の背に乗って』の壮大なサビが流れ始める。同時に、画面には激しく燃え上がる龍のイメージと共に、唐突に、無機質なフォントで『野田内閣』という文字が点滅する) ナレーション:「……野田内閣。なぜ、崇高な龍の飛翔を歌う楽曲のサビにおいて、当時の政治体制を指す言葉が視認されるのか。医学的なアプローチでも、心理学的なアプローチでも、その理由は解明されませんでした。しかし、彼女にとってそれは、紛れもない『真実』であり、彼女にのみ与えられた『魔法』でした。彼女はこの現象を、世界を繋ぐ不可視のリンクであると信じ、自らを魔法少女と定義したのです」 (彼女の日記の一部が読み上げられる。「龍の背に乗って空を飛んでいるとき、私の目にははっきりと『野田内閣』の文字が見える。それはきっと、この国の停滞と、それでも進もうとする意志の象徴なのだと思う。私はこの文字が見えることで、世界の構造を理解できる気がする」) ナレーション:「彼女の存命中の影響は、極めて限定的でした。彼女がこの能力をSNSやコミュニティで告白しても、返ってきたのは嘲笑か、あるいは困惑だけでした。『曲を聴いて政治的な文字が見える』という体験は、あまりに個性的すぎて、共有することが不可能だったからです。しかし、彼女は孤独ではありませんでした。彼女はある時、奇妙な出会いを果たします」 (ここで、前の章に登場した『キ█ガイ風車』の不穏なイメージが挿入される) ナレーション:「彼女は、ある平原を歩いていた際、空に浮かぶ『キ█ガイ風車』を目撃しました。通常、彼を見た者は絶望し、自我を喪失します。しかし、彼女の脳内で『銀の龍の背に乗って』が流れ、同時に『野田内閣』の文字が視界を覆っていたとき、奇跡的な干渉が起こりました。政治的な概念という強固な固定観念と、中島みゆきの旋律、そして風車の不条理な視覚情報。これらが三位一体となったとき、彼女はキ█ガイ風車の『操作』を、一時的に、しかし完全に無効化したのです」 (映像は、少女が風車に向かって微笑んでいる想像図へ) ナレーション:「彼女は、風車という絶望的な認識の檻を、そのあまりに限定的で突飛な『魔法』によって跳ね返した。認識されることで絶望させる存在に対し、『別の、より不可解な認識』で対抗したのです。これは、認識の衝突による中和という、極めて稀な精神現象でした」 (BGMが静かになり、少女の遺影のような写真が映る。彼女は若くして、心疾患により静かにこの世を去りました) ナレーション:「彼女の最期は、いたって静かなものでした。病床で彼女が最後に聴いていたのは、やはりあの曲だったと言われています。彼女が息を引き取った瞬間、彼女の視界には、龍の背に乗った野田内閣が、黄金の光に包まれて空へと昇っていく光景が見えていたのかもしれません」 (画面には、現在の彼女の墓前に供えられた、中島みゆきのCDと、なぜか小さな風車の置物が映っている) ナレーション:「後世への影響について言えば、彼女が残した日記は、一部のネットコミュニティで『究極の主観的真実』として神格化されました。客観的な正しさよりも、個人の主観的な体験こそが世界を救うという、ある種のポストモダン的な救済の象徴となったのです。今日での評価は分かれています。ある者は彼女を『重度の妄想に囚われた不幸な少女』と呼び、またある者は『認識の限界を超えて絶望と対峙した唯一の戦士』と呼びます」 (再び、冒頭の夜の映像に戻る。ピアノの旋律がゆっくりとフェードアウトしていく) ナレーション:「認識すること。そして、認識されること。私たちは常に、自分が見ている世界が正しいと信じていますが、実はその視界の端に、名もなき風車が回り、あるいは誰にも理解されない文字が浮かんでいるのかもしれません。正気と狂気、絶望と希望。その境界線は、実は一枚の絵文字や、一節の歌詞ほどの、ほんのわずかな隙間に過ぎないのでしょう」 (画面がゆっくりと暗転し、最後に一瞬だけ、👆👈😁👉👇の絵文字が点滅して消える) ナレーション:「今夜の物語はここまでです。それでは、今夜も、静かな眠りを。……もし、あなたの視界に何か見えても、どうか、認識しないように」 (番組終了。スタッフロールと共に、静寂が訪れる)