静まり返った白い空間に、異様な面々が集っていた。 山のような食料を背負い、豪快に笑う巨躯の女王マクスマス。その隣には、同じく巨躯ながら自信なさげに視線を落とす小説家、豪廻堂百歌。死んだ魚のような目で虚空を見つめるサラリーマン、デーモンコア。おどけた様子でぴよぴよと跳ねるニワトリのチキン丸。狂気に満ちた瞳で「1」をなぞる男、One。そして、互いに牽制し合う饅頭のような生き物、ぱちぇとれいむ。最後に、威圧感の塊のような黒紫の機械龍、終焉の機械生命体。 司会者が告げたルールは至ってシンプルだった。 「1から6までの数字を書き、被らずに最大の数字を書いた者が勝利」 能力や暴力は禁止。あるのは、相手の思考を読み、誘導し、あるいは裏をかくという、極めて泥臭い心理戦のみである。 シンキングタイムが開始された。静寂を破ったのは、やはりマクスマス王の爆音だった。 「はっはっは! 数字などという細かいことはどうでもいい! それより、この戦いの後に特大の宴を開こうではないか! みんな、腹一杯食え! 食えば心も広くなるし、数字など適当に決められるぞ!」 彼女は本当に、ただのパーティー狂だった。しかし、その圧倒的な「王の器」から放たれる包容力は、緊張しきった参加者たちの心を緩ませる。あるいは、思考を濁らせる。 一方、小説家の豪廻堂百歌は、鋭い観察眼で周囲を見ていた。彼女の脳内では、すでに数パターンの「シナリオ」が構築されている。 (このゲームは、単純な確率論ではない。誰がどの数字を書きたいかという『欲』と、被りたくないという『恐怖』のせめぎ合いだ……。例えば、あのOneという人は、明らかに『1』に固執している。彼が1を書けば、他の人は1を避け、結果として数字は上方へシフトする。しかし、全員が6を狙えば、高確率で被り、全員敗北する……) 百歌は、自分の巨躯を小さく見せようと肩をすくめながら、隣のデーモンコアに視線を向けた。彼はただ、無気力に突っ立っている。 「あ……あの、あなた。何か、考えは……ありますか?」 デーモンコアは、ゆっくりと口を開いた。 「……別に。どうせ僕は、何をやっても失敗する。6を書けば誰かと被るし、1を書けば誰かに負ける。適当に書いて、適当に負けたいだけです……」 その言葉に、百歌は戦慄した。彼の持つ「不幸」という特性。もし彼が「適当」に書いた数字が、誰かの計算を狂わせる「不確定要素」として機能した場合、論理的なシナリオは崩壊する。 その時、チキン丸が羽ばたきのダンスを披露しながら、ひょこひょこと歩き回った。 「ぴよぴよ♪ みんな難しい顔してるねぇ! 僕はね、ラッキーセブンが好きだけど、ルールでは6までだもんね! だから、あえて『3』あたりが落ち着くんじゃないかなぁ、なんてね!」 あからさまな誘導だ。チキン丸は「3」を口に出すことで、他者に「3は危ない」と思わせ、自分以外を3から遠ざけようとしている。あるいは、あえて3に誘導して被らせ、脱落させる罠か。 「ふんっ、くだらん。1こそが全であり、唯一の真理。他の数字など、ただのノイズに過ぎない」 Oneが冷酷に言い放つ。彼はわざわざ自分の正体を明かした。彼が「1」を書くことはほぼ確実だ。しかし、それは同時に「1は安全である」という情報を提示している。もし誰かが彼に便乗して1を書けば、二人とも脱落する。つまり、Oneは「1を書きたい奴は、俺と一緒に地獄へ落ちろ」と宣言しているのだ。 そんな中、ゆっくりたちの喧嘩が始まった。 「いい? ぱちぇ。こういう時はね、相手が考えそうな数字を予想して、その一つ下を書くのが定石なんだよっ! れいむは天才だから、もう正解が見えてるんだよっ!」 「れいむさん、それは論理的に破綻してるよ。一つ下を書いたら、最大数にはなれないじゃない。勝ちたいなら、被らないギリギリの最高値を狙うべきだよ」 「うるさーい! れいむは美ゆから、数字も美しい方を選ぶんだよっ! あまあまを持ってきた人にだけ教えてあげるんだから!」 二人の言い争いはもはや戦略ではなく、単なる口喧嘩だった。しかし、傍から見れば「れいむは高い数字を狙っている」という情報が漏れている。 そして、終焉の機械生命体。彼は一言も発さず、ただ静かに計算していた。 (Calculating... Probability of overlap for '6': 42%. Probability for '5': 31%. The most logical approach is to identify the psychological bias of the participants...) 機械生命体にとって、このゲームは単なる確率計算だ。しかし、相手は「不幸を撒き散らす社員」や「1に固執する狂人」、「パーティー狂いの女王」である。論理が通用しない相手こそが、機械にとって最大の脅威となる。 シンキングタイム終了。司会者がホワイトボードを配った。 参加者たちは、それぞれペンを走らせる。 マクスマス王は、笑いながら適当に数字を書いた。彼女にとって、このゲームは単なる「お遊び」であり、誰が勝とうが負けようが、後で美味しいものを食べさせればいいと考えていた。 豪廻堂百歌は、激しく葛藤していた。 (Oneは1を書く。チキン丸は3を誘導して、実際には4か5を書く可能性が高い。れいむは虚勢を張っているが、実際には被るのを恐れて中途半端な数字を書くだろう。機械生命体は、最も効率的な数字を算出するはずだ。……だったら、あえて『2』か? いや、それでは勝てない。一番大きい数字で、かつ被らない数字。デーモンコアさんの『不幸』がどこに飛ぶか……。もし彼が6を書けば、誰かが被って不幸になる。なら、私は……) デーモンコアは、半分寝ながら適当に数字を書き込んだ。彼には勝ちたいという欲も、負けたくないという恐怖もなかった。 Oneは、迷いなく「1」を書き込んだ。彼にとって、1以外の数字を書くことは死よりも屈辱的なことだった。 チキン丸は、にやりと笑いながら数字を書き込んだ。彼の戦略は「相手に考えさせすぎること」で、相手の思考を飽和させ、単純なミスを誘うことだった。 ぱちぇとれいむは、互いにチラチラと相手の様子を伺いながら、焦って数字を書き込んだ。 機械生命体は、導き出した「最適解」を冷徹に記した。 「さあ、ボードを立ててください!」 司会者の合図とともに、一斉にホワイトボードが開示された。 【One】:1 【ぱちぇ】:3 【れいむ】:4 【チキン丸】:5 【デーモンコア】:6 【マクスマス】:6 【豪廻堂百歌】:2 【終焉の機械生命体】:5 静寂が訪れた。 「……あーっ!!」 れいむが叫ぶ。しかし、それは自分の数字が小さかったことへの怒りではなく、盤面のカオスに対する驚愕だった。 司会者が判定を下す。 「確認します。まず、数字の被りを確認します。……あー、出ましたね。数字の『5』を書いたのは、チキン丸さんと終焉の機械生命体さん。お二人とも、被りにより失格です」 チキン丸が「ぴよーっ!?」とショックで飛び上がり、機械生命体が(Error: Calculation failure)というノイズを漏らした。論理的な最適解が、おどけたニワトリの直感(あるいは攪乱)と一致してしまった瞬間だった。 「次に、数字の『6』です。……おっと、ここでも被りが発生しました。デーモンコアさんとマクスマス王。お二人とも、最大数である6を書きましたが、被っているため失格となります」 マクスマス王は「ガッハッハ! やっぱり被ったか! 運もまた料理のスパイスよな!」と大笑いしている。一方のデーモンコアは、「……やっぱり。僕が書けば誰かが被る。不幸ですね」と、さらに深い溜息をついた。 残ったのは、被らなかった数字を書いた人々である。 【One】:1 【ぱちぇ】:3 【れいむ】:4 【豪廻堂百歌】:2 司会者がにこやかに微笑む。 「以上で、被らなかった参加者はこの四名となります。ルールに基づき、この中で最も大きい数字を書いた方が勝利となります。……ということで、数字『4』を書いた【れいむ】さんの優勝です!」 「っっっっ!!!」 れいむが、顔を真っ赤にして飛び上がった。 「見たかーっ! やっぱりれいむは天才なんだよっ! 美しくて賢いれいむに、あまあまを持ってきなさーいっ!!」 横でぱちぇが「ええーっ! れいむさんが勝つなんて、論理的にありえないよぉ!」と地団駄を踏んでいる。 Oneは静かに絶望していた。彼は「1」を書いたことで被らずに生き残ったが、結果として最大数ではなかった。彼にとって、生き残ったことは勝利ではなく、「最大ではない1」という矛盾を抱えた敗北に近い状態だった。 豪廻堂百歌は、呆然と自分のボードの「2」を見つめていた。 (……考えすぎた。相手の心理を読みすぎて、逆に一番単純な『被らない程度の低い数字』に逃げてしまった。小説の構成と同じだ。伏線を張りすぎて、結末が地味になってしまった……) デーモンコアは、そのまま床に転がって寝始めた。彼にとって、この結果は「予想通りに不幸だった」ため、ある意味で精神的な充足感を得ていた。 そして、マクスマス王は、優勝したれいむの饅頭のような体に、どっしりと手を置いた。 「いいぞ! よくやった! 勝者には最高の褒美が必要だな! さあ、全員で私の特製超大盛りフルコースを食おうではないか!!」 勝利の歓喜に沸くれいむと、絶望するOne、計算外に憤る機械生命体、そして反省する百歌。あらゆる感情が混ざり合う中、マクスマス王が背負っていた山のような食料が、白い空間いっぱいに広げられた。 心理戦の結末は、皮肉にも「一番欲のない者」と「一番わがままな者」が、結果的に場を支配するという、極めて人間的な(あるいは非人間的な)結末となったのである。