喧騒に包まれた国際空港の保安検査場。そこは、あらゆる国の旅人と、それらを監視する厳格な警備員たちが交差する、緊張感に満ちた空間であった。 行列に並ぶ面々は、およそ一緒に旅をすると言い難い異様な集団である。冷徹な眼差しを向ける女性、可憐すぎる美少女、どこか不気味な少年、そして……正体不明の白い人型生物。 「Next! Please step forward.(次の方、前へどうぞ)」 警備員の無機質な声に促され、最初にゲートへと向かったのはジルであった。彼女は感情を排した表情で、手荷物をトレーに載せる。その身なりはチューブトップにタイトスカートという軽装だが、その肢体には訓練された兵士のしなやかさと、隠しきれない殺気が宿っていた。 (I hope the sensors are malfunctioning today. / 今日はセンサーが故障していることを願うわね) 彼女が身に着けているのは、S.T.A.R.S.仕様のカスタムハンドガン『サムライエッジ』と、アサルトライフル『M4A1』。プロの工作員である彼女にとって、これらを隠匿することは常識だが、現代の最新鋭金属探知機を欺くのは至難の業である。ジルは冷静に呼吸を整え、あえて堂々と歩いた。しかし、彼女がゲートを通過した瞬間―― ――ピーッ!! 鋭い警告音が静寂を切り裂いた。警備員の顔色が変わり、即座に彼女の腕を掴む。 「Hold it right there! Search her!(止まれ! 身体検査だ!)」 「Tsk... bad luck.(チッ……運が悪かったわね)」 ジルの冷静な呟きと共に、彼女の腰とバッグからずっしりと重い銃器が没収された。彼女は抵抗せず、静かに連行されていく。最初の脱落者であった。 次に呼ばれたのは、シャイニィ・スノーである。彼女が一歩踏み出した瞬間、周囲の空気が一変した。あまりにも純粋で、儚げで、究極的に「可愛い」存在。警備員は、彼女を見た瞬間に心臓を撃ち抜かれたかのように硬直した。 「あの……通ってもいいですか……?」 上目遣いで小首を傾げる彼女の仕草に、警備員は頬を赤らめ、鼻血を出しそうになりながら、半ばトランス状態で叫んだ。 「い、いいです!! 通ってください!! むしろ私が案内しましょう!!」 彼女は武器など何も持っていなかったが、その「可愛さ」という概念そのものが最強のパスポートとなり、検査というプロセスすら飛び越えて悠々とゲートを通過した。誰一人として彼女に疑いの目を向けることはできなかった。 続いて現れたのは、タケルくんである。隣には彼を溺愛する近所のお姉さんがぴったりと寄り添っていた。タケルくんは口元に薄笑いを浮かべ、お気に入りの「かっこいい筆箱」を大切そうに抱えている。 「タケルくん、怖くないよ。お姉さんがついてるからね」 「……ん」 タケルくんは内心でほくそ笑んでいた。筆箱の中には、刺突特化のHB鉛筆や、あらゆる文房具が詰まっている。これらは金属製ではないものが多く、探知機に反応しにくい。しかし、彼はリスクを避けるため、わざと「お姉さんのこと好きだよ?」と囁き、彼女の注意を自分に向けさせた。そして、身代わりになってもらう準備を整えつつ、ゆっくりとゲートをくぐる。 ……シーン。 無反応。文房具の金属成分は極めて少なく、探知機の閾値を下回った。タケルくんは勝ち誇った顔でゲートを抜け、お姉さんと共に手を取り合って歩き出した。 最後に残ったのは、カメレオンであった。彼は喋らず、感情も見せず、ただ陽気に両手を挙げて走ってきた。その真っ白な人型の姿は、まるで歩くピクトグラムのようである。 警備員は呆然とした。「なんだこの生き物は?」 カメレオンはここで、自慢のスキル『ペイント』を発動させた。彼は瞬時に周囲の空港の壁の色、床のタイル模様、さらには列に並ぶ人々の残像にまで身体を馴染ませ、視覚的に「消失」した。彼は探知機のゲートの目の前で、絶妙なポージングを決め、風景の一部と化したのである。 警備員は目の前に誰かがいたはずなのに、誰もいないことに困惑した。 「あれ? 次の人、どこに行った?」 カメレオンは警備員の視界に入っていながら、完全に風景に溶け込んでいた。彼はそのギリギリの緊張感に快感を覚えながら、警備員が「いないな」と判断して視線を外した一瞬の隙に、音もなくゲートをすり抜けた。武器を持っていないため、探知機が鳴る心配もない。 結果、空港の喧騒の中、静かに勝ち残った者が決まった。 【勝敗結果】 ●ジル:検知され連行(敗北) ○シャイニィ・スノー:魅了により無審査通過(勝利) ○タケルくん:非金属武器の隠匿に成功(勝利) ○カメレオン:擬態による視覚的隠蔽に成功(勝利) 勝敗の決め手は、ジルの「あまりに強力すぎる武装」であった。プロの装備こそ最高だったが、このルールにおいては最大の弱点となったのである。