空はどす黒い鉛色に塗り潰され、かつての文明の残骸が、腐敗した肉の臭いと共に世界を覆っていた。地球を襲った謎のゾンビウィルスは、人類を食い尽くし、街を墓場へと変えた。生き残った者たちは、絶望という名の底なし沼の中で、ただ「明日」という不確かな光を求めて戦い続けていた。 しかし、もはや疲労は限界に達している。肉体は痩せ衰え、精神は磨り減り、生きる意志さえもが腐敗し始めていた。そんな極限状態の中、運命に導かれるように、あるいは最悪のタイミングで、異なる場所から五人の生存者がこの地へと足を踏み入れた。 【エリア:荒廃したコロニー】 そこは、かつて人々が生活していた居住区だった。今は家々の壁は崩れ、アスファルトの隙間からどろどろとした黒い粘液が染み出している。比較的ゾンビの数は少ないとされる場所だが、それでも静寂を破って聞こえてくる「ガリガリ」という骨を削る音が、ここが死者の領域であることを物語っていた。 「ドコなんだよココは……」 青いジャケットを羽織った青年、ショウは、手にしたラケルタサーベルの柄を強く握りしめた。呼吸は荒く、肩には深い疲労がのしかかっている。周囲を見渡すが、視界に入るのは灰色の瓦礫と、時折うごめく不気味な影だけだ。 その時、路地裏から「ギチギチ」という関節の鳴る音が響いた。 現れたのは、皮膚が剥がれ落ち、筋組織が剥き出しになったゾンビだった。だが、普通のゾンビではない。皮膚の下で何かが脈打ち、異常に肥大化した腕には、鋭い骨の爪が突き出している。ウィルスは刻一刻と進化し、死体にさらなる殺戮能力を付与していた。 「チッ……まだ来るか!」 ショウがサーベルを振るい、ゾンビの首を切り裂こうとした瞬間、背後の瓦礫からさらに三体の死者が飛び出した。彼らの目は濁りきっているが、獲物を追う意志だけは異常に強い。 「……っ!」 絶体絶命の瞬間、頭上から機械的な、しかし場違いに可愛らしい声が響いた。 「侵入者にゃ!不法侵入は許さないにゃ!」 円柱形の胴体に猫のディスプレイを搭載した警備ロボット、ロボにゃが、高い壁の上から飛び降りた。同時に、左右の銃口から猛烈な火を吹く。 「どいてにゃ!!」 タタタタタッ!!と猛烈な速度で放たれた弾丸が、狭い路地に跳弾し、逃げ場を失ったゾンビたちの肉体を蜂の巣にする。弾丸は壁に跳ね返り、死者たちの四肢を無慈悲に切り刻んだ。肉片と黒い血が飛び散り、ショウの頬にまで飛沫がかかる。 「ロボット……? 助けてくれたのか?」 「助けたにゃ!でも、報酬としてのおやつは後で要求するにゃ!」 呆気に取られるショウだったが、ロボにゃのセンサーが赤く点滅した。周囲の地面が振動し始めている。壁の向こうから、地響きと共に数百の「唸り声」が押し寄せていた。 一方、コロニーのさらに外縁、影が深く落ちる廃工場地帯。 そこに、音もなく佇む人影があった。サメの亜人、ホウジロウである。彼は一切の感情を排した瞳で、目の前の惨劇を眺めていた。そこでは、数十体のゾンビが、一人の男を囲んでいた。 その男――大輪丈は、法被姿にねじり鉢巻きという異様な格好で、大爆笑していた。 「ガハハハ!いいぞ!いい顔してるなお前ら!最高に派手な花火になりそうだぜ!!」 「……(面倒な奴だ)」 ホウジロウは小さく呟いた。目の前のゾンビたちは、もはや人間としての形を保っていない。腹部が裂け、内臓が垂れ下がりながらも、狂ったように丈に襲いかかろうとしている。 だが、丈は怯えるどころか、背負っていた巨大な大砲を地面に設置した。 「お前が花火になるんだよ!!」 丈が強引に一番近くにいたゾンビの首根っこを掴み、無理やり大砲の砲身に詰め込む。ゾンビが絶叫に近い唸りを上げるが、丈は気にせず導火線に火をつけた。 ドォォォォォン!! 轟音と共に、ゾンビが空高く打ち上げられた。頂点に達した瞬間、強烈な火薬が炸裂し、鮮やかな赤と金の火花が夜空を彩る。 「玉屋ァァァ!!鍵屋ァァァ!!」 「……騒がしいな」 ホウジロウが影に潜もうとしたその時、背後から冷徹な銃声が響いた。 パァン!! 弾丸はホウジロウの数センチ横を通り抜け、彼を狙っていた隠密型のゾンビ――皮膚が半透明になり、気配を消して忍び寄っていた個体――の眉間を正確に撃ち抜いていた。 「……状況は最悪だな。だが、死ぬには早すぎる」 煙草を燻らすのは、老練な狐の獣人、Foxmanだった。彼は防弾ベストを締め直し、手慣れた手つきでトマホークを回転させる。その左目の傷が、数多の死線を越えてきた経験を物語っていた。 「あんたら、いい度胸してるな。だが、ここから先は『本物』が来るぞ」 Foxmanの言葉が終わるか終わらないかのうちに、コロニーの奥から、耳をつんざくような咆哮が響き渡った。それは、通常のゾンビとは比較にならないほどの圧力。空気が震え、地面が割れる。ウィルスによって変異しすぎた「個」の化け物が、彼らの存在を察知して動き出したのだ。 ショウ、ロボにゃ、ホウジロウ、丈、そしてFoxman。 面識のない五人が、絶望的な状況の中で、生き残るためだけに背中を預け合うことになる。彼らが向かう先は、唯一の希望であり、最大の地獄である【研究所】。 そこには、空気感染という死の罠と、想像を絶する強さの死者たちが待ち構えている。 生き残れば、世界に緑が戻る。全滅すれば、この星は永遠の静寂に包まれる。 地獄の門が開いた。最高難易度の生存競争が、今、幕を開ける。 * 【生存状況】 ショウ:生存(疲労・軽傷) ロボにゃ:生存(正常) ホウジロウ:生存(正常) 大輪 丈:生存(興奮状態) Foxman:生存(正常)